第27話:暖春と水着と物作り

 エアコン作りは佳境に入っていた。


 魔法で加工した金属の箱に、魔法インクで印をつけ、冷媒、いわゆる熱を移動させる物質を想像イメージして付与する。

 錬金術で定着させることで、籠った熱が外に出ていく。

 同じように逆も作る。外気を取り込む装置だ。


 それを室外機とセットで作る。


 当然だが、2セット作る予定で動いていた。


 自宅用と提出用。

 能力のメリット、一度作ることができれば、提出品がより良いものになるからだ。


 後は、金銭的にも2セットで限界というのもあるが。


「ベルク様、準備ができましたよ」

「悪いな。だったら、この魔法陣に冷却を頼む」

「わかりました」


 レナセールはゆっくり目を瞑ると、金属の板に手をかざす。

 ほのかに感じられる魔力、ピリピリとした空気が走った瞬間、レナセールの金色の髪が靡く。


 魔法はいつ見ても綺麗だ。

 四大元素などと創作物では書いているが、奇跡だなと何度見ても思う。


 白い手から青い冷気が視覚化されていく。

 レナセールはとんでもない魔力の持ち主だ。


 この王都へ来る前、馬車や国をまたいできた。

 大勢の冒険者、当然だが魔法使いを目にしてきたし、護衛を頼んだこともある。


 能力のおかげで、武器や物の凄さがわかるが、人でも適応される。


 前にチェコを見た時も感じた。彼女は強いと。


 だがそれと同じで――レナセールも――強い。


 一瞬で部屋中の気温が下がる。

 風が吹くと物が揺れた。


 そのまま、レナセールはエルフ語を呟いた。

 それが終わると、ふうとため息を吐いて――。


「はわ、す、すいません!? 寒かったですか!?」


 申し訳なさそうに慌てる。まったく、可愛いな。


「大丈夫だ。相変わらず凄いな。今のはなんて言ったんだ?」

「水の精霊の力を借りて、氷に変化させたのです。それを短く伝えた感じですかね?」


 説明のような、そうじゃないような、だが一生懸命に伝えてくれるのが嬉しかった。

 だがそれが良しものかどうかはわかる。

 確認していると、レナセールが心配そうにしていた。


「どうですか?」

「かなりいい感じだ。1人なら絶対に作れなかったな」


 魔法なしで行う場合は、魔法素材が必要になる。

 どれも高価なものばかり。それもあってか、錬金術師はそもそもお金持ちか、生粋の魔法使いが多い。

 チェコは前者であり、後者だろう。


 俺が回復薬にこだわっていたのは初期費用がかからないからだ。

 さらに消耗も早いので回転が速く、安定して販売もできる。


「えへへ、褒めても何もでませんよ」

「ただ本音を言っているだけだ。しかし勿体ないことをしたな」

「勿体ない、とは?」

「魔法を使えるようになりたいと、女神に願うべきだったかもしれない。随分と楽しそうだ」


 すると、レナセールは何か考えこんでいた。

 よくわからなかったが、たまにこういうこともある。


「……ごめんなさい」

「ん? どうした?」

「私はベルク様が魔法を使えなくて嬉しいと思ってしまいました。そのおかげで、私はその……必要とされているので」

 

 その健気な表情が愛おしく、いつものように頭を撫でる。


「魔法が使えなくとも、レナセールは俺に必要だよ」

「……えへへ、嬉しいです」

 

 それから毎日エアコン作りに没頭した。

 もちろんその間にも回復薬と状態薬も卸していた。


 春も終盤に差し掛かるころ、暖春と言えるほど暑い日が続いた。


 王都では半袖どころか上半身裸の人も歩いている。

 わいせつ物陳列罪みたいな法律はない。多分、獣族の場合、判断が難しいからだろう。


 合間にサーチの自動餌機を作った。

 言葉がわからないはずなのに、ペロペロと俺の頬を舐めて喜んでくれた。


 そして一番暑い夜、レナセールが風呂に入ろうとねだってきた。

 

 めずらしいなと思ったが、その理由はすぐにわかった。


「どうですか、かわいいですか?」


 王都と元の世界で共通なものは少ない。それでもたまはある。

 それを、レナセールが身に着けていた。


 胸の谷間がしっかりと強調された白い上下、セパレートに分かれているからか、白いふとももが見える。

 

 ――水着だ。


「いつのまに買ったんだ」

「この前のお小遣いです。連日暑いですから」


 暑いのと関係しているのかはわからないが、とにかくカワイイ。

 冷たい水の浴槽に入ると、泡で身体を洗ってくれた。


 展示会は来週だ。

 ようやくここまできた。


「ベルク様、絶対に優勝します。だから、安心してくださいね」

「だといいな。でも、安心してるよ。魔法を付与してくれたのは、レナセールだからな」


 それが嬉しかったのか、彼女は満面の笑みを浮かべた。


 夏は苦手だと思っていた。

 だが、今は違う。


 なぜなら、どれだけ激しく動いても湯冷めはしないからだ。


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