第22話 天才賢者は全裸になりたくない

「疲れた……」


私は、ここ数日の怒涛のような日々を思い返しながら、ベッドにへたり込んでいた。

理事長である九條百合子に呼び出され、そのまま早紀と百合子のバトルを観戦したと思ったら、スタンピードが発生して隕石が降り注ぐ中、何回も全裸になりながら暴れまくった。


それが解決したと思ったら、何故か『開拓者』クランとは別の政府公認クランを発足することになって、その発表のために先ほどまで拘束されていたのである。

発表も1回だけではない。

正式な記者会見を1回。

記者クラブへの非公式な会見を1回。

著名人を招いた発表会を2回。

そして、一般人から選ばれた人を招いての発表会を5回も行ったのである。

特に最後の一般人向け発表会は本当の意味で老若男女あらゆる人が出席した。


いろいろと大変だったのは事実だが、憧れだった一色アヤメ様と同じ土俵に立てるようになったと実感できたことは純粋にうれしかった。

一方で、発表の席において子供から「えっちなのはいけないとおもいます」と言われなければ、申し分なかったのだが……。

なまじ純粋なだけに、私の心に全力で抉りにきていた。


「脱ぎたくて脱いでいるわけじゃないんだけどなぁ」


装備の付与効果である『身代わり』によって、攻撃を受けると全裸になってしまうだけで、別に好き好んで脱いでいるわけじゃない。

全裸になると装備の付与効果で強くなるからと言って、好き好んで脱いでいるわけじゃない。


何とかしたいとは思うものの、全裸になってしまうことを除けばチートと言っても過言ではないレベルの装備である。

長い間、ダンジョンの第一階層で毎日のように死にかけながら戦ってきたことを思えば、今の状況はとても恵まれている。

何よりも、これから前人未到のダンジョン最深部を攻略するのだから、装備で手を抜くわけにもいかないのが現実だ。


「まあ、なるようになるかなぁ」


新クラン周りも、現時点では何一つ決まっていない。

クランの名前だけは、3人で話し合った結果、『アニマルスターズ』に決まった。


私の猫耳のカチューシャと合わせるように、瑠衣がうさ耳、早紀が犬耳になった。

最初は早紀をうさ耳とバニースーツにするという案が上がっていたが、彼女の激しい抵抗にあい、彼女は犬耳カチューシャと犬しっぽ付き着物で落ち着いた。


その代わりに瑠衣がうさ耳を付けることになったのだが、衣装はバニースーツではなく普通の和服のような感じだった。

早紀は「バニースーツじゃないじゃん」と言っていたが、私の衣装には影響しないのでどうでもよかった。


3人とも同じ学校だったため、会見をしてから1週間ほどはマスコミが大挙して押し寄せ、私たちの学校生活の取材などをしようとしていたらしい。

しかし、謎の圧力がかかったようで、学校に各社から謝罪文が送られるとともにマスコミが取材に来ることも無くなったようだ。


とはいえ、そういった外部のあれこれが影響しないように配慮されていたのか、私たちはクラスメイトに囲まれた程度でいつもと変わらぬ日常を送っていた。


いや、正しくは1つだけ、私がラブレターを生まれて初めてもらったのだが、その内容が「俺と付き合え。だが、今後は俺の前以外では全裸になるの禁止だぞ」と上から目線で書いてあり、怖くなって瑠衣に相談した。


瑠衣には「どうせ何もできないだろうし、ほっとけば?」と言われたので、少し怖かったが無視することにした。

その学生は、数日後に両親の都合で転校することになったらしい。

居なくなるんだったら、最初から告白みたいなことするなと言いたくなったが、付き合う気もなかったので、逆に良かったと思うことにした。


私たちは、あれから学校内でも3人で行動することが多くなり、今日も3人で仲良く中庭で昼食を取っていた。


「そう言えば、クランの方は今、どんな感じなの?」

「そうね。本格的に動くのはまだまだ先になりそうね。それまでは各自レベルを上げておくということで。特に早紀はダンジョンに行ったことないでしょう?」

「そうね。異能のおかげで戦力にならないということは無いけど、能力的には一般人と変わらないわね」

「そ、そうなんだ。それで、あの威力の隕石を……ずるくない?」

「異能の力は魔法と違って、能力によって効果が変わることはないわ。その点に関しては瑠衣も同じじゃない?」

「そうね」


どうやら私と違って、二人は生まれつきチート能力を持っているらしい。


「ず、ずるいよぉ。私なんて1年近くダンジョンの第一階層でレベル上げしてたのに……」

「え?! 第一階層って……普通は2,3日で次の階層に行かないとレベル上げが厳しくなるはずじゃ?」

「まあ、彩香は普通じゃないからね。早紀が異能を封じられていたのと同じように、記憶と能力全般を封じられていたのよ」

「まぁっ! それじゃあ、瑠衣はそれを知っていて彩香と親友になったの?」

「最初は、私を八尋として見ない珍しい人間だと思っただけよ。そのあと、彩香の能力に気づいてからよ、本当に親友になろうと思ったのは」

「打算的、というか……、相変わらずですのね」

「まあね。その時は『計画』から九條が抜けてしまって頓挫していたこともあって、その代わりとして考えていたわ。でも、結果として早紀が入ってくれたから、いい形にまとまったわ。ありがとうね」


瑠衣の言葉に早紀が顔を赤らめる。


「そんなっ! 私は勘違いで彩香さんをいじめてしまったので、その罪滅ぼしでお手伝いをしているだけですわ! 感謝されるいわれはありませんのよ!」


そうして、私たちの平穏な日常が過ぎていくのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

面白かったと少しでも思われましたら、★とできれば激励のレビューコメントを頂けますと幸いです。

こんな話が読みたいなどと言う希望も大歓迎(本編で難しい場合は番外編として採用するかもしれません)ですので、お気軽に書いていただければと思います。

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