第6話 ダンジョンリベンジ

「えぇぇぇ? 何ですか、この金額は?!」


探索者協会で手続きをして、支部長と話をした後、私は受付の人に渡された明細を見て驚きの声を上げていた。


「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまんえん?!」


私が驚いているのは、先日討伐したイレギュラーの討伐報酬であった。

イレギュラーは存在しているだけで適性レベルの探索者にとって危険なので、討伐することによって、別途報酬がもらえるのであった。


「ダンジョンに入って10万円って……ドッキリですか?!」


普段、ダンジョンに入るごとの収支がだいたいマイナス3000円くらいの私にとって、10万円はまさに異次元の数字であった。


「ドッキリではありませんよ。まあ、第一階層のイレギュラーなので少額ではありますけどね」

「これで少額……」


私も、高レベル探索者の収入がとんでもない金額だという話は聞いたことあるが、実際は私の想像より2つくらい桁が多いようだ。

もっとも、私には縁のない世界ではあるのだが。


探索者協会を出て時計を見ると、すでに13時になっていた。

仕方ないので、欠席の連絡を入れるために担任に電話を掛けたところ、学校の方でも何やら騒ぎになっているらしく、私は一週間ほど学校を休んで欲しいと言われた。

詳しい話を聞くことはできなかったが、昨日のダンジョン探索について、大変だっただろう、と言われたので、それに関することだと思われた。


「まぁ、あの時は死にかけたし、心配するのも無理ないか」


学校で問題となっているのが私が死にかけたからではないということを、この時の私は知る由もなかった。


私は家に帰ると、昨日と同じ新宿第三ダンジョンへと向かった。

更衣室で昨日拾った装備に着替えて、ドローンを起動し、スマホで私のチャンネルを開いて配信を開始する。

昨日までは閲覧数がほとんど0だったのだが、今日は開始直後にも関わらず121になっていた。


「あれ? 数字がおかしいな。配信がバグってる?」


私がそんなことを呟くと、怒涛の勢いでチャットが流れた。


《バグじゃないぞ? みんな配信が始まるのを待っていたヤツだ》

《全裸の忍者がいると聞いて》

《クール全裸忍者!(英語)》

《全裸じゃないじゃないか!》

《いやでも、この衣装もなかなかエロいんじゃないか?!》


「えーと、全裸なのは先日のイレギュラーに巻き込まれただけで、普段は全裸じゃないですよ! それに、これはイレギュラーのドロップなんです」


《イレギュラーのドロップって、その人に適した装備が落ちるんじゃなかったっけ?》

《さすが全裸忍者、ドロップも露出度が高くなる仕様ですね》


「もー、だから全裸でも忍者でもないんですけど! 私は賢者ですよ。魔法バリバリ使えるんですから!」


《先日の配信動画見たけど魔法要素がゼロだった件》

《どこをどう見ても格闘とか拳法とか》


「いやいや、あれが私の魔法なんです! わかりました。じゃあ、さっそく魔法で戦ってみましょうか!」


私は、第二階層に行き、手頃な相手としてゴブリンに魔法を使うことにした。


爆発四散拳エクスプロージョン


右手の二本の指に魔力を集中すると、その指でゴブリンの体を突いた。

その直後、ゴブリンの上半身が文字通り爆発四散して、残った下半身が仰向けに倒れる。


「どうですか? これでわかりましたよね!」


《どう見ても拳法ですね》

《いや、これは忍術っていうヤツだぞ(英語)》


「いやいや、拳法でも忍術でもないですよ……? まあいいや、サクサク行きますよ!」


そして、これまで苦戦していたのが嘘のように第10階層までやってきた。


「さて、初のボス戦です。緊張しますね!」


《これまでの見る限り、苦戦する要素が全くない件》

《最後まであきらめちゃダメだ!》

《ボス頑張れ!》


「ちなみに、全裸にはなりませんよ? この間のはイレギュラーなので、しょうがなかったんです!」


《あえてフラグを立てていくスタイル》


不吉なメッセージがチャットに流れているが、放置してボス部屋に入った。

この階層のボスはスケルトンキングである。

武器として巨大な両手剣を持っているが、単なる巨大なスケルトンというだけであるはず……。


私が近づくとスケルトンキングは意外と素早い動きで、剣を振り下ろしてきたが、それをあっさりと回避する。


轟震波動掌ソニックウェーブ!」


私がスケルトンキングの右脚に掌底を放つと、打撃点を中心に振動が広がり、右足から右の腰と下胸部あたりまでの骨が砕け散る。

脚を一本失ったスケルトンキングはバランスを崩して倒れる。


「よし、あとはトドメを刺すだけ!」


そう思って、私が近づくと、スケルトンキングから「キエェェェェェ!」という咆哮が聞こえた。


《あ、こいつ体力減ると咆哮使うんだっけ》

《そういえば、一番近い人を約3秒スタンさせるんだったな。ソロで戦ったことないから忘れてたわ》

《というか、3秒スタンってアヤカたんピンチ? 捕まってからの全裸ムーブ?!》

《いやいや、あの状態じゃ、反撃すらできないやろ?》

《何故、ここで奥の手を使うんだ?!》


そんなチャットメッセージが流れる中、私の体はスタン――していなかった。


「あれ? なにも起きていないけど……」


《アヤカたん、下、下!》

《キターーーー!》


チャットのメッセージに従って、下を見た私の目の前には、露わになった双丘が鎮座していた。


「えぇぇぇ?! なんでぇ?」


慌てて私は腕で大事な部分を隠すようにする。

と言っても、配信アプリ自体が、こういった部分にモザイクがかかるようになっているので、見られることは無いはずなのだが……。


《もしかして、『身代わりスケープゴート』効果付き? それで咆哮の身代わりになって服が消えたとか?》

《いやいや、あの服って第一階層のだろ? いくらイレギュラーだからって、それは無いだろ?!》

《そんな些末なことはどうでもいい、それよりも全裸だ!》

《『身代わりスケープゴート』を些末なこととか草しか生えない》


お約束とばかりに、全裸にされた私にチャットが高速で流れていく。


「くぅぅ、くそぅぅぅぅ! 天幻千手星雲拳メテオスウォーム!」


一瞬にして身ぐるみ剥がされてしまった、私は怒りと共に手に魔力を集中させて、下から上に円を描くように上げると、その残像が実体となって千の拳となる。

そして、私が殴るのに合わせて残像の拳が隕石のようにスケルトンキングの体に降り注ぎ、その体を粉砕していく。


そして、ついにスケルトンキングは無数の骨片となって、さらに塵となり消えていった。

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