第33話 改革

四天王たちとの話し合いで宣言した通り、農業と畜産の改革から始める。


本来、農業と畜産はガイアの守護するグリムウッドだったが、今回の改革を始めるにあたり、一旦各都市に紐づいている役割、それと担当四天王の制度をリセットすることにした。


また、加護の相性でいえば、水のアクアスや大地のガイアが適任かもしれないが、悩んだ末にゼファに担当してもらうことにした。


加護云々の前に、まずは話しやすさ、接しやすさを優先して考えた。


魔族の気質的に考えて、特にフレイムやガイアでは自分たちから教えるイメージが全く湧かないし、周囲も彼らに聞くとは思えない。


自分たちで考え動く組織を作るためには、極力下からの意見を否定してはならないし、時に褒めることも必要となる。


そう考えた時、最初に始める改革の適任者はゼファと判断した。

俺の意図を説明したところ、アルス・セニア、他の四天王たちも反対しなかったのでそのまま進めることにした。


「いいよー!うちに任せてよ!!」


やる気すぎて少し不安だが、本人もやる気になっているので良しとしよう。


---


「………」


魔族の農業レベルをゼファと一緒に改めて視察する。

育てている農作物は大豆のみ、畜産は豚。


大豆畑を見ると雑草と大豆の区別が付かない。

よく観察していると根っこで歩き回っている食中植物みたいなのもいるけど気のせいという事にしておこう。


豚は放牧なのか何なのか、ほぼ野生化している状態、というかこれモンスターに近いんではないだろうか。


「超ウケるw」


全然笑い事ではない。

よくこれで農業と畜産の都市とか名乗っていたものである。


まぁどうせこれも新しく組織化し直して、メンバーの専任から始める予定だったから構わない。


食に関する分野で一切の妥協をするつもりはない。


---


ライス「アッシャース!」

ブロリー「………」

ダイス「ソイプロテインの可能性を見出して見せます。」

オークス「ビタミンが豊富だぜぇぇぇぇえ!」

バファロ「ンモォォォォ」

ササミ「チョウリホウホウヲクフウシテネ」


「皆宜しくねー!」


基礎の教育が出来ていない人材に対し、一気に何十人何百人を同時に教育することは現実的ではない。

今回のメンバーは、それぞれの分野のリーダーとして専門知識を中心に教育し、そこから裾野を広げていくつもりだ。


今までの魔族は徴兵された際に最低限の連携を取る程度で、ゼファ含めて戦以外において組織化などあり得ない事だった。


従って今回選抜されたメンバーも、当初座学の教育だけでは中々理解を得られなかったので、俺の暮らすグリムウッドの古民家で3泊4日の研修合宿を開くことにした。



まずは皆大好き筋肉トレーニングから。


俺とアルスとセニアをトレーナーとして、全員(ゼファも)が今まで体験したことのないトレーニングを体験させる。


バタンッ

「「「「「「ハァハァハァハァハァハァ」」」」」」


最初自重トレーニングと伝えた時は全員鼻で笑っていたが、トレーニングにおける正しい呼吸方法を教え実践させたところ全員仲良く力尽きた。


満足そうな顔をしている彼らを見ると、トレーニングを再開した時のアルスとセニアを思い出す。



次に食事、今まで見たこともない料理に最初は全員戸惑っていた。


「今回の取り組みが成功すると、飢えに苦しむ魔族を救えます。そうなるとどうなるか、益々質の高いトレーニングが期待できます。」


始めるときの目的はどうでも良い。

今までやっていなかったことを始めるのだから自分たちにとってメリットがないと率先して動けないだろう。


「ちなみに、今用意している食事は非常に栄養のバランスに優れており、トレーニングの効果を飛躍的に高める効果が期待できます。」


単純な奴らめ…貴様らの目的など余にはお見通しだ!!


「トレーニングと食事の両立ができれば、こんな肉体も夢ではありません!!」


ドヤ顔のアルスとセニアがポーズを決め、羨望の目を向ける選抜メンバーたち。


「一緒に、この肉体に必要な食材を作り上げましょう!」


「「「「「ウォォォオオオ!!!」」」」」



食事の後、ホエイプロテインを飲ませると全員がガイアと同じように自分たちの筋肉を見つめ涙を流していた。


その感動のまま次は俺の自慢の施設に全員を連れていく。


心の洗濯-そう、温泉である。


魔族にも風呂の文化はあるが、あくまでも汗を流す程度の認識であり、癒しではない。


俺はこの一年を費やし古民家に男女別の露天風呂とサウナを完成させた。


筋トレを終えた後の肉体を温泉で癒し、サウナで整える。

この魔力に抗える物など居るはずがないだろう。


カポーーーーン

「「「「「…………」」」」」


全員だらしない顔をしている。

瞬時に温泉の魅力に捕らわれてしまったようだな。


「魔王様ー!これ最高過ぎだよーーー!!!」


「ゼファ、はしたないですよ。」


高い塀の向こうからゼファの叫び声とアルスの窘める声が聞こえる。


「「………」」


「ブロリーとササミも最高だってぇぇぇえ!」


ブロリーは女だったのか………。



風呂上りの自家製コーヒー牛乳を飲み終えると全員満足げな表情でだらけている。

風呂上がりのアルスとセニアは童貞には刺激が強い。


アルスには大反対されたが温泉を混浴にしないで本当に良かった。


「といった感じです。皆さんにお願いしたい農業と畜産の成果が魔族全体に行き当たれば、今日皆さんに体験していただいたような生活を、当たり前に享受できるようになるんです。それを皆さんの家族、これから生まれて来る次の世代を担う子供たち、体験させてあげたくないですか?」


「「「「「「……………」」」」」」


全員が沈黙しているが、無視している訳ではなく今日一日自分自身が体験したものを改めて振り返っているのだろう。


「うちもやったことないけど、皆で頑張ろうよ!やりもしないで投げ出すなんてかっこ悪いっしょ!」カンケイナイッショキモチッショ


さすがゼファ、同じ目線で誘うことで皆が一歩踏み出しやすくなる。

それを計算じゃなくて自然に言えてしまうのがゼファの凄い所だな。

俺も他の四天王も絶対に真似出来ない。


「うちらでがんばろー!」


「「「「「「……ゥゥゥオオオオオオオ!!」」」」」」


よしよし。


この先、農業と畜産に限らず、様々な改革が上手くいくかはこのメンバーに掛かっているといっても過言ではない。


各セクションのリーダーとしてだけでなく、これから続々と始まっていく改革のモデルケースとして是非頑張っていただきたい。

俺もサポートは惜しまんからね。


魔族が生まれ変わる大きな一歩となるだろう。

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