第32話 休戦


「「「「「「………」」」」」」


未だ俺の目の前に跪く魔王軍幹部の面々。

俺の夢見る生活はこんな堅苦しいものでは断じてない。


「………、ということで皆さんさっさと所定の位置に戻って下さい。俺は本当に敬われるのが苦手なんです。」


「ま、魔王様そうは言われましても周囲への示しというものが……」


アルスが必死に俺に訴えかけようとするがそれを俺は遮る。

何も俺の我儘で嫌だ、という訳ではない。


「それですよ、周囲への示しだけではおまんまは食べられません。」


「お、おまんま…?」


「アルスさんもセニアさんも取りあえず座って下さい。まず最初に俺の考えとこれからの計画を聞いて下さい。」


俺の発言に対し全員が背筋を伸ばす。やりにくくて仕方ない。


「改めて最終目標をいいますが『人間との共存を図り、人間との争いを終わらせる』これが大前提です。納得しろとは言いません、ですが受け入れて下さい。」


全員がそれぞれ複雑な表情で俺の話に耳を傾けていく。


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共存し争いを終わらせる。


言うだけなら簡単だし、魔王と人間の王が決断すれば1日2日程度なら難しい話ではないかもしれない。


但し、そもそもの争いの切っ掛けを考えた時、「領土問題」と「食糧問題」まで辿り着くことは難しい話ではない。


それを解決しない限り一時的な休戦しか望めない。

ましてや共存など夢物語でしかない。


では、目先の居住先を用意したり目先の食糧を分け与えたらどうか、それもその場しのぎにしかならない。


問題への対処も勿論重要だが、長期的に考えた時、根本的な原因を取り除かない限り同様の事案は再発する。


お腹を空かせている者に対し、魚を分け与えるか、魚の釣り方を教えるか。…より大勢を救えるのは『魚の釣り方』を教える事である。


救える者は当然救っていくが、それよりも早急にその『仕組み』を作っていくことが重要となる。


また、国の発展とは、食糧と教育の充実である。教育による世代を超えた知識の蓄積は勿論、教育を通して自ら考えられる人物を育成していくことが重要となる。


答えを教えられるだけではなく、自ら考えられる人材を育てることが国の発展に必要不可欠となっていく。


先人たちに教えて貰った知識だけではなく、それに自分が実地で学んだ知識と経験を加えていく。それが積もっていったものが、国を支える大きな財産となっていく。


新たな取組を始める時、確実に反対意見が出る。

むしろ反対意見しか出てこないと思う。


まずはそこを押し切ってでもまずは行動に移す。

しかし、行動に移すよりもそれを継続させることが非常に難しい。


だからこそ、今ここにいる我々だけは目標を見失わないように互いに支え合っていきたい。


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という事を噛み砕いて、時に筋肉やトレーニングの話を例え話しに辛抱強く全員が理解するまで伝えていった。


俺が先に心折れるわ…面倒臭い。


「し、正直魔王様が何をいっているのか私にはわからん。言われたことに従うのでまずは具体的な話をして欲しい…」


ガイアの頭が爆発しそうなようだ。

本当は全員の理解を得られてから進めていきたいが最初のうちは仕方ないか。頭の良さそうなアクアスや、アルスとセニアですら難しそうな顔をしている。


こればっかりは、育った環境の問題だろうから少し時間が必要だな。


「まず権力を分散します。具体的に言うと執行部としての俺とアルスとセニア、魔族の代表としての四天王の皆さん、という風に役割を分担します。」


全員難しい顔をしているのでもう少し噛み砕いて説明する。


「俺がやりたいことを皆さんに伝えるので、それが出来るかどうか、やるかどうかを四天王の皆さんで判断して下さい。」


「それはうちらが魔王様の意見に反対するのもありってことー?」


同年代らしいが見た目の影響か、見た目が若いゼファは理解が早い。


「その通りです。その為の権力の分散です。俺が必ずしも正解ではないし、もしかしたら自分の権力を利用して悪いことを始めるかもしれません。それを防ぐ為のチェック機能、抑止を皆さんにお願いしたい。」


「私たち魔族は昔から、魔王様の命令に従うのが当たり前でした。それこそ死ねと言われれば死ぬ程度には……」


自信なさげな表情でアクアスが答えるが、そんなの時代錯誤もいいところだ。


「だからこそ、言いやすい環境を作るために皆さんには必要以上に俺を敬わないで欲しいんです!なんなら四天王同士で話すくらいの感じでかまいません。」


「で、でも…」


「いや、決めましたそうしましょう。破った場合は命令違反で一か月の筋トレ禁止の罰を与えます。」


「「「「!?」」」」


想像以上に効果が大きそうだ。そんなこの世の終わりみたいな顔しないでくれ。


「え、ええ…わかったわ。」


言いにくそうだが慣れれば平気だろう。

アルスとセニアが微妙な顔をしているが、俺の意図を理解したのか反対はしないようだ。


「一片に物事を進めていっても上手くいかないと思うので、まずは農業と畜産から改革していきます。これを改善できればホエイプロテインの量産化に取りかかれます。」


「「「「「「何からやればいい(でしょうか)?」」」」」」


「…………やっぱり教育から見直そうかな。」


嘘だって、余りにみんなが喰いついて来るから意地悪したくなるじゃんかよ。


「何てね、冗談ですよ。ただ、いきなり最初から飛ばし過ぎるとすぐボロが出てしまうと思うので、じっくりゆっくり進めていきましょう。」


全員が黙ってうなずくのを確認し話を続ける。


「ただし、やりたくもないことをやっていただく以上、何かしらのご褒美的なものが必要かと思います。フレイムさん、魔族はなんで身体を鍛えているんですか?」


「……より強くより高みを目指す…。我々は常に挑戦を続けている…。」


模範解答ありがとうございます。


「ですよね、なので考えました。1年に一度、魔界一武闘会を開催します。そこでこの国で一番強い魔族を決めます。」


ガタッ


「ま、魔王様、そそ、それは私たちも出ていいのかしら?」


珍しくアクアスがどもってる。

喜んでくれて何よりだ。


これだけでも十分そうだけど、一応考えている俺の案の発表を続ける。


「で、優勝者は俺への挑戦権を与えようと思います。」


ガタガタガタガタガタッ


「ま、魔王様。し、失礼は承知だが私たちはまだ魔王様の強さが、未知数だ……。」


だよね、見た目こんなんだしね。

ちなみに申し訳ないけど俺もいまいち自分の強さの立ち位置を掴み損ねているんだがね。とりあえず…


「「「「「「!!!!????」」」」」」


魔神の加護の制限を一気に解除し威圧してみる。

全員が…アルスとセニアですら、俺と反対の壁際まで瞬時に距離を開ける。


「ま、まままm、魔王様。それは我らも参加して良いのだろうか?」


セニアが期待しているのか恐怖しているのか分からない表情で問うてくる。


「勿論構いませんよ。」


全員が震えながら歓喜の表情を浮かべる…この人たち本当にぶれないね。


話が進まないのですぐ加護を抑える。


「とまぁこれがご褒美になるかわかりませんが、これでどうですかね?」


「い、いつ開催するか早く決めよう!」


フレイムが歓喜の表情で催促してくる。

これっで万が一俺の強さが期待に沿えなかったらすぐ見限られそうだ…レイラさんに相談しよう。


そこからは、それまでの戸惑いが嘘だったかのように皆積極的に意見を出し合ってくれて非常に有意義な話し合いとなっていった。



あれ?これ勝ち続ける限り俺抜けられなくない?



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「いつになったら国境の砦を突破できるのだ!?恥を知れ恥を!!」


「も、申し訳ありません。何分あの砦は魔王軍四天王のリーダー、フレイムが守る砦でございまして…」


「言い訳など聞きたくないわ!!」



ここは人間の王都『サンガルディア』、現在人間の王『エドワード』が一向に好転しない魔族との戦況に対し激を飛ばしているところである。



「早く魔族を根絶やしにせねば今まで国の為に戦い命を失ってきた先人たちに顔向けが出来ぬわ!!こうしている間に今も罪なき我が国民たちが魔族どもの手に掛かり……」






「そんなことしてないですよ。」






「…………。な、何奴だ貴様!?」


あまりに突然のことで反応が遅れるエドワードと周囲。


「どうも初めまして。魔族の王、佐藤です。お見知りおきを。」


「と、捕らえよ!!」


瞬時に加護の制限を解除して威圧する。

さすが王都の騎士団本部というべきか、王以外全員が気を失わず耐えている。まだこっちも本気ではないけどね。


「も、目的はなんだ?」


騎士団長らしき人間が質問してくる。

それよりも王様の安否確認しようよ…まぁ無事だけどね。


「和平、と言っても無理だろうから、とりあえずしばらく休戦しません?」


「そんな要求飲める訳ないだろう…」


知ってたけど交渉の余地なしか、悲しいね。

仕方ない、プランBだ。


「外を見て下さい。」


「…何を意味が分からぬことを…」


しばらく魔王と騎士団長の睨み合いが続くが、徐々に外が騒がしくなってきた。


「りゅ、りゅりゅりゅ龍が出たぞー!!にに逃げろぉぉぉおお!!」


言い伝えでしか聞いたことがないような大型の龍2匹が、その姿を誇示するように王都の空を自由に舞う。

目を凝らすと炎を吐く準備なのか、口の端から炎がこぼれている。

その様子を見ただけで騎士団は戦意を失っている。


「レイラ、こっちに来ておくれ。」


俺が呼ぶと2匹のうちまだ小さい方の龍が、魔王城そばまで寄ってくる。


「間違っても攻撃なんて考えない方が良いですよ?一瞬で王都が灰と化すでしょう。」


そう言いながら、王城の会議室から外に飛び出しレイラの背中に飛び移る。

先程からの出来事に驚愕のあまり誰一人として言葉がでない騎士団の幹部であろう連中。そんなんじゃうちの四天王達に絶対勝てないよ。


「こちらからの攻撃の意志はありません。但し、やられて黙って見過ごすつもりもありません。わかりますか?」


「「「「………」」」」コクコクコク


「王様が起きたら今起きたこと、私からの申し入れ、全て正確にお伝えください。可能であれば近いうちに会話の機会をいただきたい。」


「「「「………」」」」コクコクコク




こうして魔族と人間との1万年以上続く戦争は、歴史上初めて休戦を迎えることになるのだった。

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