第26話 憎しみの連鎖を断ち切る為に

壇上のフレイムに一人の魔族が慌てて駆け寄りフレイムに耳打ちしている。


激高していたフレイムだったが、駆け寄った魔族に促されて二度三度深呼吸を繰り返すことで少し落ち着きを取り戻したようだ。


「魔王様、今フレイムに耳打ちした男がイグニスです。魔族学園卒業後、イグニスも魔王軍に進み、今ではフレイムの右腕として活躍しています。」


アルスとセニアの世代の学園の生徒たちは相当優秀だな。


魔王の側近に四天王、さらにはその右腕とか…元を辿るとアルスとセニアの影響によるところが大きそうなのだけが腑に落ちないけど。


「……諸君取り乱してしまって申し訳ない。………この後二頭筋と三頭筋、どっちを鍛えるか悩み過ぎて情緒が安定していなかった。」


ドッ

ハハハーリョウホウヤレバイイジャナイデスカー

ニトウキンバカリキタエルトイグニスサンニオコラレマスヨー


いやいや、そんなんで逃がさないよ。

ここで逃がしたら次お前と会えるのいつになるかわからないからな。


「他にももっと鍛えた方がいいと思うけどねー!全然筋肉キレてないし!!」


あ、表情が変わった。顔ひきつってるし。

イグニスが必死に落ち着かせようとしてるw

いつまで俺たちを無視できるかな?


「おいヘタレー!いい加減俺たちと話をしてくれよー!ビビってんのか?」


あからさまにイラついているフレイムに再びイグニスが耳打ちする。


「は、話なら後ほど聞かせてもらうから、この場が終り次第執務室まで来てくれ。」


「いや、だってお前絶対そのまま逃げるだろ。」


フレイムが顔を真っ赤にしてプルプル震えている。

少し可哀そうだけど100年頑なにアルスとセニアを拒絶してた奴の『また今度』なんて信用出来る訳ないだろ。


「アルスとセニアが何年お前との会話を待ち望んでると思ってるんだ!!」


アルスとセニアの名前に目に見えて反応するところを見ると、フレイム自身も何か切っ掛けを求めているのかもしれないね。


「アルスとセニアだって、本当は寝る間も惜しんで鍛錬したいんだぞ!でもお前ら魔族全体のことを考えて、鍛錬の時間も休息の時間も削って、お前らがやりたがらない内政に力を入れているんだ!!」


100年近く経って、幼馴染のフレイムが気付いていない訳はないだろう。

それこそ本当に気付いていないとしたらもう救いようがない。


「そ、それは……」


ギャハハハハハッ

「それはその二人がトレーニングしてないだけだろww」

「デブとガリにそんな知性がある訳ないぞーw」

「アルスとセニアは怠け者だー!そんなの魔族の子供でも知ってるぞーww」


周囲の馬鹿にする声に、なんとも困ったような笑みを浮かべるアルスとセニア。

自分たちが愛する魔族たちから心無い声を浴びるのは初めてではないのだろうが、そんなもの何度聞いたって慣れるものではない。


何も知らない聴衆に向かって俺が言い返そうとしたその時


「貴様らにあ奴らの何が分かるというかぁぁぁぁああ!俺以外があの2人のことを愚弄するなど…絶対に許さんぞぉぉぉおおお!」


俺よりキレてる人がいたわ。

薄々わかってはいたけどさ、そんなわかりやすい拗らせ方あるかねぇ。

ほらイグニスだってトホホって顔してる…。


参加していた魔王軍も冒険者も、今までアルスとセニアのことを一番嫌っていると思っていたフレイムにキレられて混乱してる。


いや、一番混乱しているのはアルスとセニアだったわ…。

あたふたしてる。


今までずっと自分たちのことを憎んでると思っていた、大昔に仲違いした幼馴染が、自分たちが周囲から悪く言われて急に怒ってるんだもんな。

そりゃわからんわ。


あ、フレイムが我に返った。


「…コホンッ。誇り高き魔族が、あまり他者の悪口を集団で言うものではないぞ…」


「「「「………………」」」」


フレイムさん、流石にあの勢いでキレておいてそれじゃぁ誤魔化せないって…

ちょっと恥ずかしそうにしてるし。


ただ解決策自体は単純だが、とにもかくにも互いに一度本気でぶつからなくてはならない。雨降って地固まるってやつだな。


アルスとセニアの方が強い!とかいったところで、実際はきっと今は勝負にすらならないだろうから、アルスとセニアを鍛え直す時間が必要だ。


取りあえず、今のままではいくら周囲からアルスとセニアの仲を取り持とうとしたところで、時間が経過し過ぎて素直になるのは難しいだろう。


「フレイムさん初めまして、佐藤といいます。詳しい話はわかりませんが、どうやら俺は『魔王物語』とやらの『予言の子』らしいです。これに関しては俺自身知らないのでそこを言い争うつもりはありません。」


「…フンッ」


ようやく俺の言葉に耳を傾けるつもりになったようだ。

最初からそうしてくれ手間取らせやがって。


聴衆は固唾を飲んでフレイムと見知らぬ子供のやり取りに耳を傾けているが、俺の『予言の子』という発言に驚きの表情を浮かべている魔族もいる。


「俺は人間との争いを終わらせます。その為に、フレイムさんたち四天王の皆さまからの協力を得ることが必要不可欠と考えています。」


「……それは、人間どもを根絶やしにする、ということか……?」


フレイム流石過ぎるだろ…他の四天王たちは気付いていないが俺はどうやって争いを終わらすかの説明をしたことはない。聞かれてないしね。


「先に言っておきますけど、俺はまだこの世界のことを十分に理解している訳ではありません。なので、今こうして各都市を視察させていただいています。」


「そんなもの世間知らずの言い訳でしかない。」


おっしゃる通りで。


「なので、皆様からすれば少し現実離れしているかもしれませんが、俺は人間との共生は可能と考えています。」


ザワザワガヤガヤ

フザケルナーソンナコトデキルワケナイダロ!

アイツラガオレタチニナニヲシテキタカシラナイノカー!


おぉ、予想以上の拒否反応だね、

これを見るとやっぱり四天王の協力は益々必要だと感じる。


「…共存に何のメリットがある?根絶やした方が手っ取り早いだろう。」


「…俺は、憎しみの連鎖を断ち切ります。」


これははちべえから話を聞いている俺しか知らないだろうけど、もう戦争の切っ掛けも何故戦ってるのかなんて理由も誰も知らないだろう。


日本と近隣諸国の例で考えると、程度の差こそあれ、互いに反魔族・反人間の教育を幼少期から行っているだろうから、その状態では未来の子供たちにまでその戦いを押し付けることになる。


人間よりも人間らしい感情を持っている魔族たちがそれをわからないはずがないと俺は思っている。


俺の発言に、聴衆も、フレイムも、アルスとセニアすら驚愕の表情を浮かべている。


「俺は未来の子供たちに憎しみの連鎖を押し付けたくない。」


その場に立ち会った魔族たち全員がハッとした表情になっているが、それと同時にそんなこと出来る訳ないと思っているだろう。


「そんなこと出来る訳ない、と思っていますよね?」


「……当たり前だろう……」


ふふふ、チャンス到来だな。

フレイムよ、貴様はもう俺の手の平の上だぜ。


「ちなみに、アルスとセニア、どちらかがフレイムさんに勝つのとどっちが難しいですかね?」


イグニスがフレイムの横でしまった、という顔をしているが残念もう遅いぜ。


「ふ、ふざけるなぁぁぁあああ!アルスとセニアが俺に勝つなど天地がひっくり返ってもありえんわぁぁああ!!!」


「あ、じゃあ1年後アルスかセニアが貴方と戦ってもし勝ったら協力して下さい。」


「望むところだ糞ボケがぁぁぁああああ!!」


アルスとセニアが絡むととたんにポンコツになるな、フレイムは。

応じる必要のない勝負に挑んでいただき感謝します。






でも知ってるよフレイムさん。

貴方がアルスとセニアと本当はずっと仲直りしたいと思ってるであろうこと。

俺もそうだったから。


きっと本当はわざと俺の挑発に乗ったんだろうことは黙っておく。



ありがとう、フレイムさん。

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