第25話 四天王フレイム

俺は優秀なギルドマスターの協力を得て、苦労の末ようやく冒険者ランクが『Bランク』となった。


実質我々3人は何の依頼も達成していないので、この昇級は前例のない完全なゾラスの独断である。

その為にこの後ゾラスは関係各所への事情説明の行脚が云々いっていたが知ったことではない。

冒険者を危険にさらすようなギルドのマスターはもっと反省すべきである。


カウンターの受付嬢から渡されたギルドカードを確認してみると、俺とアルスとセニアは3人パーティーとして登録されていた。


パーティー名が『至高の君とその従者』となっていたが、アルスとセニアが喜びつつも必死に否定していたのでこれはゾラスの俺に対するささやかな仕返しかもしれない。


うむ、次会う時はもっと酷い嫌がらせをしよう。


まぁ何はともあれ当初の予定通りこれで魔王軍と冒険者ギルドの合同軍事演習に参加できるようになった。


あとは軍事演習後に毎回行うというフレイムの総括に合わせて突撃するだけである。準備は整った。




合同軍事演習当日、魔王軍演習会場-



合同演習はつつがなく進行した。

魔王軍の偉そうな魔族と、冒険者ギルドはギルドマスターであるゾラスが指揮官となり各部隊に指示を出していた。


個人の力に偏った演習かと思っていたが、最低限の連携は取れていた。

少し意外だったのは、魔王軍と冒険者たちがそれぞれお互いをしっかり尊重し合っていたこと。


互いにリスペクトがあるからこそ、前線の魔王軍と後衛の冒険者たちの連携が取れていた。


互いに相手がその時に何を望んでいるのかを考えながら動いている為、合間合間で魔王軍と冒険者の小隊長クラスが話し合い、時間の経過とともにさらに連携に磨きが掛かっていた。


以前はちべえから聞いていた魔族のイメージとは明らかに違う印象を受けた。

先代魔王の功績かとアルスとセニアに聞いてみると、どうやらこの合同演習自体、先代魔王の死後始まったイベントらしい。


なんとこの魔族の変化は、フレイムの影響によるところが大きいそうだ。


アルスとセニアによると、恐らく成長期が遅く苦労したフレイムの経験から、魔族全員が同じ能力ではない、ということをフレイムは身を持って誰よりも知っている。


だからこそ、個人個人が好き勝手に動いてしまえば、能力によって置いて行かれる魔族も出て来る。

そうなってしまえば、1+1が2どころか、マイナスに働くことすら出て来てしまう。


そうならない為に、立場の違う魔王軍と冒険者の合同演習を提案、当初はいがみ合っていた両組織だったが、そのたびにフレイムが争いの渦中に飛び込み、双方の意見を聞きながら解決を図っていったとのこと。


今でこそ後進に任せ総括的な立場に立ってはいるが、30年ほど前は魔王軍の指揮官として先頭に立って合同演習に参加していたらしい。


魔王軍も冒険者も分け隔てなく、戦闘に関すること以外、個人的な事まで相談に乗り、誰しもが認める四天王のリーダーとなっていった。


フレイム、俺はお前のことも信じていたぞ…お前は根っからの嫌な奴ではないよな…

あれ?でもゼファ曰く殆どの魔族の声に聞く耳を持たない、と言っていたような。


「ただ、ここ10年くらいで少しずつ人が変わっていき、ヒステリックにキレるようになり、今では皆腫物を扱うように接しています。」


悪い奴ではないのかもしれないけど、やっぱり面倒くさいやつだな。


だが、それも今日までだ

総括で皆の前に現れた時がチャンス、全員の前で逃げられない状態でお前を問い詰めてやる。


演習も終り、いよいよ間もなくフレイムの総括だ。


ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ


「あーあーあー、間もなく四天王のリーダーであるフレイム様が登壇されます。皆さま静粛にして下さい。」


ザワザワザワザ……


立派な軍服をきた魔王軍の幹部らしき魔族が静粛にするように促す。

ざわついていた演習場が徐々に静寂に包まれる。


ソーインキヲツケーイ


壇上にようやくフレイムが姿を現す。

四天王のリーダーに相応しい偉丈夫だ、当然超男前だ。

フレイムよ…立派になったな…


シテンノウリーダーフレイムサマニターイシケイレーイ


「…………………」


フレイムは壇上から整列する魔王軍と冒険者全体に視線を巡らせて総括を始める。


「皆、本日はご苦労であった。今日も、日頃の皆の鍛錬の成果を見ることができて大変嬉しく思う。」


魔王軍も冒険者も皆、非常に真剣な表情で聞いている。

この様子を見るだけでも、フレイムが多くの魔族から一目置かれていることが容易に想像できる。


「特に冒険者の皆は、もっともっと自己鍛錬に励みたいであろうに、それを犠牲に日頃から民衆の安全の為、危険を顧みずモンスターを積極的に討伐してくれていつも感謝している。」


オヤスイゴヨウダー

マオウグンモイツモセントウニタッテクレテアリガトナー

ソノコトバダケデハントシハガンバレルー


身内ではなく最初から冒険者ギルドに感謝を述べる時点で、如何にフレイムが優秀なリーダーなのかわかる。

油断ならない相手だ。


ただ言わせてもらうが、お前その冒険者がモンスターを討伐する仕組み作ったの、お前の怒りの対象であるアルスとセニアだからな?


なんで冒険者が自分を犠牲にしているのが分かる癖に、お前が一番理解しなきゃならなかったアルスとセニアのことを理解してやらなかった?


誰よりも2人の努力を知っていたんじゃねーのかよ…


まぁいいか、そろそろ我慢も限界だし頃合いだろ。


嫌だなぁ目立つの……今回だけは我慢しよう。

俺は大きく息を吸い込み壇上のフレイムに向かい叫ぶ。



「おいフレイム、いい加減逃げていないで俺たちの話を聞け―!少なくてもアルスとセニアはお前から逃げたことは一度もないぞ!!!」


ふいにフレイムの総括を遮った俺に向かって一瞬で全員の視線が集まる。

胃がきゅーっとする帰りたい。


「…………き、貴様かぁぁぁぁぁあああああああああ!!ぶっ殺してやるこの糞餓鬼がぁぁぁぁぁああああああ!」


「………………」




これツンデレじゃなくて鬼デレだわ。

いくらなんでもキレすぎだろ…怖すぎる。

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