第16話 異世界転生といえば冒険者でしょ

冒険者ギルド前-



我々一行は拗らせたフレイムとの面会を一旦諦めた。


四天王の中でも少し協力を取り付けやすそうなゼファや、もしくはガイアに相談しようかとも考えたが、それだと根本的な解決にはならないのですぐ頭の中から消した。


結局は最初にアルスたちから提案のあった、魔王軍と冒険者ギルドとの軍事合同演習を狙うことに決めた。


ただその場合も、合同演習は軍本部内で開催されるので、今の状態では強行突破を除いて入り込むことはできそうにない。


どのように参加するのかといえば答えは一つ。

冒険者ギルド所属の冒険者として入り込むしかない。


幸いギルド登録は適当な名前でも受け付けられるので身バレの心配はない。

残る問題は『冒険者ランク』である。


冒険者ランクはFランクからスタートし、E⇒D⇒C⇒B⇒A⇒S⇒SS⇒SSSと上がっていき、その上はレジェンドランクと呼ばれ歴史の中で2名しか到達していないランクがあるらしい。


問題の合同演習だが、参加資格はいわゆる一人前と見なされるBランクからとのこと。

普通はFからBに上げるにはどんなに優秀な冒険者でも3年は必要らしい。


合同演習は来月頭、今からだと丁度2週間なので正規のランクアップではどう足掻いても無理だ。


しかし、アルスたちが提案してくるくらいなので、一応裏技というか特例はある。


ギルドマスターからの指名依頼をこなせば、その依頼の難易度相当のランクにギルドマスターの推薦により飛び級が可能らしい。


唯一気掛かりなのは、ギルドの長い歴史の中で一度も前例がないこと。

そもそもギルドマスターが指名する様な危険な依頼を、高ランクにも至っていない冒険者にする訳がない。


…仕組みとして破綻してるじゃないか、と思ったがそこは問題ないらしい。


どうやらギルドマスターはかなりの変わり者で、昔っからアルスとセニアと非常に仲が良いらしい。少なくても話は聞いて貰えるだろうとのこと。


根拠としては弱いけど、今の所他に当てがある訳ではないのでダメ元で話をしてみるか、と現在に至る。


「じゃあ入りましょうか、失礼しまーす。」ガチャリ


「「「「「……………」」」」」


その瞬間中にいた冒険者たちの視線が一斉にこちらを向く。


「……………」パタン


思わず開けた扉を閉めてしまった。

アルスとセニアが不思議そうな顔をしている。


こんなお約束なパターンが存在するなんて………異世界っぽくなってきたじゃねーか!!!


ここまで多少の見た目の違いとかはあるにしても、あまり異世界にきた気がしてなかったけど、こんなお約束が待ってるなんて楽しませてくれるじゃねえか。


やはり異世界と言えば冒険者に限るな。

ちょっとドキドキするけどもう一度最初からやり直そう。


「ちょっと邪魔するぜ!」ガチャリ


今度は最初から全員こちらを向いている。

明らかになんか変な子供が入ってきた、と戸惑っているようだったが、後から入ってきたアルスとセニアを見て皆納得していた。

アルスとセニアと同列と見なされたのは不本意だが、気分が乗っているうちに話を進めよう。


「ここにギルドマスターってのがいるはずだ。呼んでくれ。」


受付にいた可愛らしい女性魔族に話し掛ける。


「お、お約束はおありでしょうか?アポイントのない方のお取次ぎはお断りさせていただいております…」


当たり前である。

ど正論をぶつけて来る受付に俺は正気に戻る。


「あうあうあう…」


余りの恥ずかしさに急に言葉が不自由になる俺。


「お忙しいところ申し訳ありません。マスターにアルスとセニアが来た、とだけお伝えいだたけませんか?おの上でお会いにならないと判断されれば速やかに退出しますので。」


「は、はぁ……」


誰だこいつレベルで急に頼りになる外行きようのアルスだったが、受付嬢もあまり前例がないのか判断しかねている。


「恐らく取り次ぐな、との指示がお有りなのかと思います。ですが、大変申し訳ないのですが、私共をこの状態で帰した、とあれば今この場にいらっしゃる職員の方々に迷惑が掛かることになってしまいます。」


「で、ですが…いや、でも…」


なおもしつこく食い下がるアルスに受付嬢がいよいよ陥落しそうになってきたその時、奥から一人の魔族が現れる。


「僕に何か用かい?」


「ゾラス、久しぶりね。」


どうやら現れた男性魔族がギルドマスターのようだ。

長身で他の魔族と比べ細身だが弱々しい雰囲気が全くない。むしろ今まであった魔族の中で一番やばそうな気がする。

表情も穏やかで交戦的でないのだが…なんとなくとしか説明できない。


「おお!!アルスとセニアじゃないか!!随分と久し振りだね!!!」


マスターの対応を見ていた受付嬢が安堵の表情を浮かべている。

無理矢理帰さなくて良かったね。


「ゾラスさん初めまして。佐藤と申します。突然の訪問お許しください。」


ゾラスは一瞬俺の方を見ると驚いた表情を浮かべたがすぐ元の穏やかな表情に戻る。


「まぁ取りあえず僕の部屋にいこうか。みんな騒がせてごめんね~」


ギルドの職員や冒険者たちに軽く詫びを入れたあと、俺たち3人をギルドの自室に招き入れた。次の瞬間-


「魔王様、先程の無礼誠に申し訳ありません。自分の浅慮ではあまり騒がないほうが良いと判断させていただきました。」


ゾラスは片膝を地面につき俺に詫びる。


俺にとっては凄い有難い気遣いなんだが、魔族の中でもこんな気を回せる人もいるんだなと感心する。


「いえいえ、普通にして下さい。俺もそっちの方が助かります。それよりなぜ私を魔王と?」


「魔王様、実はゾラスは先代魔王様の相談役でした。詳しい話は省きますが、先代様は予知夢の能力を持っており『魔王物語』の『予言の子』がただの作り話でないと確信しておられました。」


ゾラスに代わりアルスが説明してくれた。

なるほど、それでアルスとセニアと面識があるのか。


「それで、ある日先代様の機嫌が良いときに我々3人に対し、『自分亡き後の事』として『予言の子』の話をして下さったことがあり、それが今の魔王様のお姿そのままでした。」


先代も大概なチート能力を持っているんだな。

歴代の魔王たちも同じようなもんなのかもしれんね。


「ちなみに先程お伝えした冒険者ランクのレジェンド到達者は、先代魔王様とゾラスの2名だけでございます。」


最初に見た時の自分の違和感は間違っていなかったようだ。

穏やかで危ない人間が一番怖いよね。


こんな常識から外れたような経歴を持つギルドマスターが出してくる飛び級の条件って大丈夫だろうか……。


急に不安になってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る