第15話 ファーストコンタクト

軍事都市ダークヘルム。

文字通り、魔王軍の本部がある都市で、魔王軍に関する全ての軍備の中枢である。


また人間との大規模な戦争の際すぐに招集が掛けられるように魔族の冒険者を傭兵として雇用するため、冒険者ギルドの本部も置かれている。


町の中は兵士やその家族、破天荒な冒険者たちによって大いに賑わっていた。


「この後、どうやってフレイムさんにお会いすればいいんですか?」


「あいつは人間と交戦中でない限り、基本軍本部で寝泊まりしているはずですわ。」


「では、まっすぐ軍本部に向かいましょう。」


「「………」」


簡単な話なはずだが、どうにも2人の表情が険しい。

仲違いしている幼馴染との接触に関してはもう覚悟はきまっていると思っていたが、まだ何か気掛かりがあるのだろうか。


「2人は案内さえしてくれれば、俺1人でも大丈夫ですよ?」


「魔王様、そういう事ではありませんで…」


話を聞いてみると、ダークヘルムは良くも悪くもフレイムの影響が非常に強い為、アルスとセニアに関する対応が非常に悪いらしい。


その為、直接フレイムに会おうとしてもまず間違いなく門前払いされるだろうとのこと。


一番会える可能性が高いのは、毎月月初に行われる冒険者ギルトとの合同演習は必ず最後にフレイムが総括をするので、そのタイミングを狙えば会うことは出来るだろうとのこと。


ただし、対話に応じるかどうかは未知数とのこと。

少なくてもアルスとセニアは100年前に喧嘩別れした後、顔を合わしたことは数回あるが言葉を交わしたことは一度もないらしい。


アルスとセニアから声を掛けてみてもまるで存在しないかの様に振舞われたと悲しそうに話していた。


くそ…

あの素直だったフレイムくんはどこいってしまったんだよ…


「よし、やっぱりまずは軍本部にいってみよう。」


色々余計な事を考えなきゃいけないのはゴチャゴチャ面倒なので、取りあえず行ってみてダメだったら他の方法を考えよう。


「ほ、本気か魔王様!?話を聞いていたか??」


余程意外だったのか珍しくセニアが慌てている。


「はい、仮に会えなかったとしても向こうの対応がどんなもんなのか知っておきたいので。モノは試しということでね。」


俺は人間時代から若干オタク気質の凡人ではあったが、無駄に行動力だけはあった。

サラリーマン時代お世話になっていた先輩からも褒められた俺の数少ない長所の一つだ。


……そういえば先輩にお別れしてないな。

今更どうしようもないけど会えるもんならいつかまた会いたいな。


そんなセンチメンタルな感情を抱きつつ、フレイムがいるという軍本部に向かった。



軍本部敷地前-



門番AB「「………………」」


「フレイムさんにお会いしたいので通して下さい。」


プッザワザワザワクスクス

オイアレアルストセニアジャネ?

アイカワラズミットモネェカラダダナ

サッサトカエレー


門番AB「「………………」」


ダメだこりゃ。

会えないどころか敷地にすら入れさせてくれねーじゃんか。


周囲もアルスとセニアを分かって馬鹿にしているようだ。

怒りは抑えてにこやかにね、我慢我慢。


「私だけでもダメでしょうか?」


門番A「魔族の恥さらしの関係者となれば貴様も同じようなもんだ。我らの視界に入るのすら怒りを覚えるわ!」


門番B「さっさと去るがいい愚民が!」


あらやだ酷い。


……こいつらアルスとセニアがどんだけお前らのことも考えてくれてるのか知りもしねーでよ……とか言っても結果は変わらんな。


「魔王様、私どものせいで不快な想いをさせてしまい申し訳ございません。一度出直しましょう。」


うーむ、確かにこのままここに居座っても結果は変わらなそうだけど…

このまま帰るのも面白くないんだよなー。

ということで、








「調子乗ってんじゃねーぞボケナスどもが…」


怒りと共に加護の制限を解除する。



「「「「「!!!???」」」」」


あまり汚い言葉遣いは好きではないけど、こっちの怒りを分かりやすく伝える意味では仕方ないだろう。


確かにアルスとセニアはアホだし時たまイラッとする気持ちは分かるけど、誰のために本当は死ぬほどやりたいトレーニングの時間を削っていると思ってるんだこいつら。


自分を犠牲に他者のために行動する、例えそれが偽善であったとしても誰もが簡単にできることではない。


怒りのまま加護の制御を解除した為、周囲は一瞬で阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

アルスとセニアを笑っていた連中は一人残らず気を失い、近くにいた門番の2人、…とアルスとセニアは失禁していた。


ごめんアルス、セニア…存在忘れてた。

でもなぜか嬉しそうな表情に見えるのは気のせいだよな?


もしかしたらこのまま怒りに身を任せれば強引に力技で従わせることも出来るかもしれないけど、そんな手段を使ってしまったらそのままもう魔王としての覇道を突き進むことになりかねない。


「おーーいフレイムーーー!!どうせ聞こえているんだろう!!!!お前何か勘違いしてるみたいだから一つ教えておいてやるけどなーーー!!!」


こういう意地になって素直になれない拗らせたやつは一旦煽りまくってこっち向かせるのが解決への近道であることを俺は知っている。


「アルスとセニアの方がー、今でもーお前よりよっぽど強いからなー?お前の勘違い見てて痛々しいぞぉーーー!!プププ」


ドゴォォォォォン


「ん?なんか軍本部の方で大きな音がしたけど気のせいかな。アルスさん、セニアさん、早く帰りましょう。」


「ん、んん、魔王…様、あ、あれ?私はいつの間に…」


「アルスさん、セニアさんが目を覚まさないので引きずって帰りましょう。」


2人の下半身が寒そうだけど気にしないことにする。


取りあえず、この後の予定は冒険者ギルドと接触することにしようかな。




軍本部内、フレイム執務室-


「あの糞ガキふざけやがって…俺があんな腑抜けた奴らに負ける訳ないだろうが…」


目の前には無残にも真っ二つに割れた立派な机。

ここ100年近く煽られた経験のないフレイムは簡単に挑発に乗っていた。


「イグニス!イグニスはいないか!?誰だあのふざけたガキは!?」


「はっ失礼します。フレイム様。」


部屋の外に待機していたフレイムの秘書、イグニスが即座に答える。


「少し前に軍部に報告のあった、アクアス様・ガイア様・ゼファ様と面談した、例の魔王物語の予言の子かと思われます。」


「な!?」


幼い頃、アルスとセニアと夢中になって読み漁った魔王物語、確かにその中の一説にそんな話があった気がする。


「あの糞ガキが予言の子…だと?」


一瞬、過去の懐かしく暖かい記憶に包まれそうになるが、すぐにフレイムはそれを拒絶する。


「くだらん!次にあいつらが凝りもせず顔を出したらひっ捕らえて牢屋にでもぶち込んでおけ!!」


「……承知しました。」




拗らせた上司ほど面倒臭いものはない。

そこは異世界もサラリーマンも同じようなものであった。

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