フォーチュンマスター
涼波音
序章
右手の中指に光る指輪。
13歳の私にはまだ、大人っぽいデザイン。
小さな石が付いている。
5歳の時からずっと一緒だ。
病める時も健やかなる時も、そしてこれからも。私がサヨナラを言う時まで、永遠に。
『お腹すいたのはわかるけど、あんまり大きい声で文句言わないでよね。外にまで聞こえたらどうするのよ』
私は不機嫌を思い切り顔に出しつつ、横から聞こえてきた声に文句を言った。
「昨日のリーサのお菓子が食べたかったんだから仕方ないだろ!」
メイドのリーサが作ったスコーンを貪っている…ぬいぐるみ、のようなもの。
コンコン
「ルシルお嬢様、お茶とスコーンをお持ち致しました」
ドアの外から、メイドのリーサの声が聞こえてきた。
『うん、入って!今ちょっと手が塞がってて』
ドアから入ってきたのは、私のお世話をしてくれているリーサ。
リーサとは10年以上の付き合いになる。
学生寮にいる今も尚、仕え、一緒にきてくれている心強い存在であり家族と同じくらい固い絆で結ばれている。
『ありがとう、丁度追加をお願いしようかと思ってた。ナイスタイミング!』
思わず彼女に向けてウインクをする。
リーサはにこりとしながら、私の目の前にある生ぬるくなりかけている紅茶と温かい紅茶を入れ替えてくれる。そして、テーブルに座りスコーンを貪っているぬいぐるみの目の前にも同じように。
「おいリーサ!今日のスコーンも美味しいぞ!」
口の周りを汚しながら話すぬいぐるみ。
そう、これはぬいぐるみ……のようなものだ。
「ありがとうございます。ご夕食までもうしばらくですので、これで本日は終いです。」
塩対応までいかない、いい塩梅のいつも通りのリーサ。
お口元が汚れていますよ、とかけらを取っている。
私の日常は少し、いや一般的と言う枠よりは変わっている自覚はある。
これで一般的という方がおかしいとも言えるが、だからと言って私にとっては日常の1ページ。
そして、私は右手に光る自分の指輪に目を向けたのだった。
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魔法力と剣の実力により富も権力も手にできるこの世の中。生活する上で魔法は必要不可欠。便利と言いつつも魔法無くして生活は不便だと言える。
生まれた時に魔法力が決まると言われており、強い魔法力をもつ平民を養子に迎える貴族が多く存在する。
そんな中めずらしい辺境伯家。
多くの貴族は魔法力の強い平民を養子にし、その力をアピールする。魔法力の弱い子供が生まれた場合、子供を奴隷のように扱う貴族もいると聞く。醜聞を気にし、死んだと発表しているのではという黒い噂さえある。
その考え方を持つ貴族が多い中、騎士道を重んじ魔法力だけではなく、騎士として剣の道をも重要視している。
本人の資質がどうなのかは別として、個としてどうやって生きていくかを考える変わった貴族。
それが我がベンティンク辺境伯家である。
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