【KAC20245】はなさないで

蒼井星空

とある村の大きな石

 さぁ、今日はボクの一世一代の晴れの日。

 ボクはこの後、この村にある"あの巨大な石"を動かすんだ!


 ……えーと、そこのあなた。

 意味わからないよね。

 ちゃんと説明するから聞いていってね。


 この村には今とても大きな石があるんだ。

 どれくらいかと言うと……村長の家より大きいよ。

 大人が50人くらい手をつないだら一周回る……いやもうちょっと大きいかな。


 とにかくとても大きな石があるんだ。


 この村は少しづつ発展していて田畑を広げ、近くの森を開拓してる。

 川も近いし、平たんな場所にあるから、人が増えていってる。


 そんな村にこんな大きな石があると当然邪魔なんだ。

 ある朝突然出現したこの大きな石。

 みんな大混乱だったらしい。

 

 それでも壊せたらいいんだけどそれは難しいみたいでね。

 それで村長はこの周辺を治める貴族様に頼んで、この石をどうにかしようと考えた。

 貴族様の依頼を受けて王都の偉い魔法使いがやってきてとても強力な魔法を撃ち込んだんだけどびくともしなかったらしい。


 魔法使いは恥ずかしそうに帰っていったんだって。

 そりゃそうだよね。

 たかが岩ごときに我を呼び出すとは情けない。

 こんな岩、我の魔法で粉々にしてやるわいとか言って自信満々に放ったのに傷ひとつつかなかったんだ。

 集まった村人たちも笑いをこらえるのに必死だったって。


 その後村長と貴族様はお触れを出したんだ。

 この石をなんとかできた人に金貨10枚だって。

 数年遊んで暮らせるよ。


 そしてボクがやってきたわけさ。

 他にもやってきた人がいるみたいだけど。

 

 でもね……ムフフフ。

 僕には特殊な魔法がある。

 うまく使えば……ムフフフ。

 みんな気付いてないけど、この石は実はね……。

 

 僕は石の前に赤い綺麗な木の実を置いておく。

 実は村に入ってから一定の間隔でこの実を落としてきたんだ。

 どうか誰も拾いませんように。


 2時間後、石の周りには人が集まっている。

 この挑戦は村長が取り仕切るようだ。


 午前中に村長の家の前の挑戦者台帳に名前を書いておけば、午後にこうやって石に挑めるようになっている。

 観客は50人くらいいるだろうか。


 挑戦者は3人のようだ。


 まずは魔法使いの女の子。

 彼女は氷の魔法を石に叩きつける……。

 何も起こらない。

 すごすごと引き下がる魔法使いさん。ちょっと可愛い。

 水魔法じゃなくてよかったとボクはほっとする。

 木の実を流されたらたまらない。

 

 次は筋骨隆々のおじさん。

 石に手をかけ一生懸命押す。

 ビクともしない。

 それでも押す。

 顔が真っ赤だ。

 血管きれそうだな。

 あっ、倒れた。


 倒れたおじさんを運び出す村人たち。

 重そうだ……。


 そして次はボク。

 ボクは石の横に行き、話しかける。

『目覚めて……移動してほしいんだ。エサを置いておいたから食べながら行って』

 僕の能力なら魔物に声を届けられる。

 そう、この石は実は魔物だ。

 大きな石をしょってるんだ。


 何も起こらないことを訝しむ観客を無視して僕はポンポンと石を叩く。

 すると横に置いておいた木の実が消え、岩が少し浮き上がる。

 この魔物には弱点と言うかツボみたいなものがあって、そこを叩くと反応してくれる。

 さっきのおじさんに押されなくてよかった。

 

 そしてこの魔物は超恥ずかしがり屋で顔を見せない。

 でも話は伝わったし、木の実は見つけてくれたみたいで、木の実に向かい、食べては次に向かう。

 村長も観客も唖然としているが、僕は時たま木の実を見失う魔物に話しかけながら誘導し、ついに村の外に出した。


 僕は金貨10枚を村長から貰って村の外に出る。

 ある程度の距離まで来たところで大きな石を背負った魔物に声をかけ、モンスターボールにしまう……。


 あとは逃げるのみだ。


 みんなこのことは絶対に村の人たちには"はなさないで"ね。

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