【KAC20245】はなさないで
XX
運命の分かれ道
月が綺麗ですね、なんて。
小洒落た告白をしようと思ったんだけど。
俺は最終的に、直球で行くことにした。
「好きだ。付き合って欲しい」
夜の自宅で。
電話越しだけど。
別に、面と向かって言う度胸が無かったわけじゃない。
俺の決断の意思と、最低限彼女に対し礼儀が立つ状況が来たときが、彼女との電話中だったんだ。
すると彼女は一瞬沈黙し。
こう言ってくれた。
嬉しそうに。
『うん。いいよ……でも、はなさないで』
告白が通った!
許可が貰えた!
俺は有頂天になった。
俺はあの、学園のマドンナの彼氏になれたんだ!
「ああ、もちろんだ!」
俺は彼女の言葉に、そう大きな声で返答した。
彼女……
学園のマドンナと呼ばれていた。
その扇情的なルックスは勿論だけど、性格も最高で。
誰にでも優しい博愛精神の子。
だから皆、内心思っていた。
彼女を恋人に出来たら最高だろうな、って。
俺は元々他に彼女が居たのだけど、闇子の魅力に気づいたとき、別れる決心をつけてしまった。
彼女に比べれば、他の女なんかクソだから。
「私がいるのに他の子を好きになるなんて酷い!」
そう言って、元カノは感情的に泣いたけど、俺は
「男は上を目指すもんなんだよ。それをしないのは男として恥ずかしいんだ。諦めろ」
……全く揺るがなかった。
だって、闇子には今彼氏が居ないんだ。
あんな最高の女なのに。
こんな好機、ありえないよ。
そんなチャンスは逃しちゃいけないから。
3級品には退場して貰わないと。
こっちが自然消滅するのなんて待ってられるか。
そして退路を断ち、1カ月。
彼女との関係を構築し、電話番号も交換。
普通に話せる仲になり、いける状態になるのをひたすら待って。
決行したんだ。
そしたら……いけたんだよ!
やったぜ!
こんなの、前カノで童貞を捨てたとき以上に嬉しい!
これで闇子は俺の女!
俺は仲間の中で一番の美人の彼女持ちだ!
仲間が羨ましがる顔が目に浮かぶ。
そして闇子とセックス出来たら、闇子の具合がどうだったかをあいつらに語って聞かせてやりたいと思う。
きっと、最高に気分が良いはずだ。
……しかし闇子のヤツ
離さないで、だって?
すっげー情が深くて、一途な子なんだな!
分かってたけどさ!
彼女とても優しいもの!
きっと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、ベタベタ甘えてくれるはずだ!
それにきっと、俺の要望も全部聞いてくれるハズ!
俺の人生はバラ色だ。
ああ、明日が待ち遠しい……
明日、まずはクラスの奴らに宣言してやろう。
きっと驚くぞ。
「実は昨日から、闇子は俺の彼女になったから」
そう、次の日学校に登校し。
最初の休み時間になったとき。
皆の前で、俺は闇子の肩を抱き寄せて、クラスの奴らに宣言した。
この宣言の主な目的は、他の男子への自慢と警告。
俺の女に手を出すなという意味と、俺の女のレベルの高さ自慢。
この2つが目的。
やった瞬間、最高に気分が良かった。
この世の王になった気持ちだった。
だけど……
一瞬、意味が分からなかった。
闇子が、俺の腕を振り払い、抜け出してしまったのだ。
「……何言ってるの?」
そう言って闇子は、俺に……
嫌悪感の籠った目を向けて来たんだ。
え……?
「私、五味山くんのモノじゃない。勝手なこと言わないで」
心底、嫌そうな声で彼女はそう言って来たんだ。
え……?
「何? ストーカー?」
「最低! 妄想狂だったんだ! 五味山くん!」
「クズすぎ。久良さんが嫌がることをするんじゃねーぞ!」
男も女も、俺に非難の言葉を浴びせてくる。
一体……どうして……?
その後の学校は針の
学校中の人間が、俺を「マドンナ相手に身勝手な妄想をぶつけたクズ」として扱い、その人権を剥奪したから。
皆が俺を見て、陰口を言っている。
俺はスクールカースト上位勢だったのに……!
納得できない。
俺は放課後を迎えたとき、そう思い、決断した。
あの女から、その真意を聞き出そう。
下校中に待ち伏せて、問い詰めてゲロさせてやる。
幸い、彼女の下校ルートは口説く前に調べ上げていたから、楽勝でそれを決行できる場所について考案できた。
「オイ。どういうつもりだ」
そしてひとりで下校している彼女を呼び止め、俺は真意を問うたのだ。
昨日は俺の彼女になるって言ったくせに、今日その手をひっくり返した真意を。
「……何が?」
俺に迫られていても、彼女は全く怯まない。
平静のまま、そんな言葉を向けてくる。
「何故今日裏切った!? 昨日俺の女になるって言った癖に」
怒りと憎悪を含めた言葉。
そんな言葉を向けられて、彼女は。
……クスクス笑い始めた。
俺は一瞬わけが分からないので
「何がおかしい!?」
声を荒げた。
だけど、彼女は一切そんなものを気にせず。
こう言ったんだ。
「……裏切ったのはあなたでしょ? 昨日言ったよね? はなさないで、って」
そこには心底呆れているという想い。
隠す気の無い軽蔑の意思が大いに含まれていた。
なので、戸惑う。
……どういうことだ?
俺が理解できていないのをみて、彼女は
「……頭の中身がチ〇ポで出来てる陽キャという名の低能猿には理解できないか……」
馬鹿にしきった声で俺に言ったんだ。
「はなさないで、ってのはね……喋るなってことよ!」
その声と同時に、ものすごい体格の男たちが、物陰からこの場に現れてくる。
どいつもこいつも、凶悪な面構えだった。
「……姫。こいつですか?」
その中のひとりが、彼女にまるで守護戦士のように
それに彼女は
「ええ。お願いね」
……女王の表情で頷いた。
そして俺に目を向けて
「……私はね、逆ハーレムを作りたいのよ。だからね、喋るなって言ったのよ。男が寄ってこなくなるからね」
あなた、顔だけは良いから、そこに加えてあげようと思ったんだけどね。
そう付け加えながら。
そんなことを言ったんだ。
何だって……!?
震える。
俺の惚れた女は異常者だった……?
真っ青になる俺に、彼女は言った。
屠殺前の豚を見る目で。
「でも、もう要らないわ。頭があまりにも悪すぎる。この程度の言いつけも守れないなんて」
ため息交じりに。
そして、言った。
凶悪な男たちに。
「あれを殺して頂戴。死体の処理は任せるわ」
【KAC20245】はなさないで XX @yamakawauminosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます