神父ですが何か?
卯月二一
はなさないで! 異世界にて神父は企む
「ああ、思った通りです。世界を問わず人とは愚かなものですね……」
「フフッ、これも貴様のお陰である。勇者によって破壊された我が城の再建も問題無さそうじゃ。神父の癖に女神を裏切り我につくとは、お主もワルよのう」
今にも朽ち果てそうな漆黒の古城で、私は新たな『びじねすぱーとなー』となった魔王と酒を交わす。
「いえいえ、魔王様ほどではありません。人間の世界に、異界の『ギャンブル』なるものを怪しまれずに浸透させることができたのも、貴方様のお力があってこそ」
異世界からの転生者から得た知識でこの世界を『現代知識無双』し莫大な富を築き上げた私は、聖職者である神父。ではなく、唯の【悪魔】なんですけどね。
どこから聞きつけたのか、ある日私の教会に下手な変装をした魔族が現れたのである。当然【悪魔】である私に見抜けないはずはない。
「こ、ここにとても優秀なイケてる神父がいると聞いてきたのじゃが……。主で間違いないか?」
「ええ、おそらく私のことで間違いないのではないかと」
ウチの孤児院で預かっている子どもたちの格好のターゲットにされ、もみくちゃにされているのは使いの魔族ではなく、魔王様ご本人であった。着てきた怪しげな黒のローブもすでにはぎ取られてしまい。ほとんど紐ではないかと思えるビキニアーマー姿の幼女が私の前に涙目でいらっしゃる。現魔王が歴代最弱の幼女魔王だということは、私の情報網で既に知っていた。
「それで、どのようなご用件でしょうか。魔王様?」
「ぐぬっ、既にバレておったとは。恐るべき洞察力! これは我の目に狂いは無かったようだの。フハハハハッ!」
ああ、これは先代の笑い方。きっと頑張って練習なされたのでしょう。私も鬼ではありません、【悪魔】ですから。
「それで?」
「お、お金を貸してください!」
「嫌です」
「へっ!? なぜだ何故なのだ。貴様は神父の癖に荒稼ぎしていると聞いておるぞ、少しくらい貸してくれてもいいではないか!」
「駄目です」
「うっ、うう」
今にも泣きそうなので冗談はこれくらいにしておきましょう。
「ですが、良い儲け話はあります」
「な、なんだと! す、すぐに教えるのだ」
「では、奥の部屋で。誰かに聞かれてはいけませんからね」
「魔王様、そろそろメインのレースが始まりますよ」
ここは魔王様の使えない配下たちが運営する競馬場である。建設の資金や設備に関する知識は私が出し、配下たちがせっせと地面をならし、芝を植えて育て管理している。馬と騎手は野生のケンタウロスを捕まえてきてもらった。調教は私が行い、不正が行われないように私の魔法が場内に幾重にも張り巡らされている。複雑な買い目にはまだ対応できておらず単勝(一着を当てる)のみになってはいる。
「そ、そうであった。ここに我の全財産を打ち込むのである。じゃが、緊張するな。もう病みつきになりそうだ」
「そうですね、ここまでの10レース全て勝っていらっしゃる。さすがは魔王様といったところでしょうか?」
「ま、まあな。この『けいばしんぶん』のお勧めの予想から選んだ馬が勝ってくれておるからの。この◎が熱いのだろ、それは我でも読み取ることができたぞ。何故かこの場所では未来予知の権能が働かんからの、これが頼りじゃ」
『オラァ、ワレぇ、負けたら承知しいひんからなぁ!』
「うっ、何かガラの悪い客もいるようじゃの。こう見えて我は繊細なのじゃ、場所を移動するのだ」
「御意」
私は貴賓席に魔王様をお連れする。先ほどのガラの悪い罵声はまだ聞こえてくるが、コレくらいなら許容範囲であろう。
『さあ、始まりました本日のメイン、第五回KAC記念。出走ケンタウロスは次の通り……』
「き、緊張してきた……」
『間もなく出走です。今、ゲートが開きました!」
「えっ、ま、待て出遅れた!? ……。お願い、それ以上距離を【離さないで】、おねがいだから。おっ、おお! いける、これはなんとか」
「はあああ! 何やっとんじゃワレぇ! とっとと追いつかんかぁ!」
関西弁っぽい女の絶叫もまだ聞こえる。
『おお、ゴール前、これは凄い叩き合いだ! 先頭は【マオウチャン】と【ジツハメガミサマモサンカ】、ほぼ横並びだぁ! おっとそこに突っ込んできたのは【アクマノタクラミ】、【アクマノタクラミ】もそろって三頭が同時にゴール! これは写真判定、写真判定となります……』
「こりゃ、【鼻差、無いで】。同着やろ、同着!」
『レースが確定しました。勝ったのは【アクマノタクラミ】、なんと人気最下位の……』
フッ、魔王様は魂が抜けたように真っ白になっていらっしゃいますね。
それにあちらは女神様。神様なのに魂が抜けてしまっています。
仕方ありません、お二人の魂は私があとで回収するとしましょうか。
「ほんとに思った通りです。人間でなくても愚かなものですね」
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