2-2-2
牛車が速度を落とし、満雅は、回想から意識を引き戻した。外の景色を見ると、間もなく満雅の
深く息を吐いて座り直し、満雅は、胸もとから、そっと勾玉を取り出す。
南條朔弥を失い空席となった地位の全てを、満雅は押さえていった。
満雅の筋書きを――南條家の当主が
南條家の滅亡、そして、南條家との戦いで北條家も家臣の多くを失い、数を減らした巫師は、ますます貴重な存在となった。その巫師たちを、満雅は今、圧倒的な力で束ねている。満雅に表立って刃向かえる者は、今や誰ひとりいなかった。
牛車が止まる。満雅は勾玉を、
従者が
「おかえりなさいませ、父上」
最前列にいた青年が、
「神祇官長の、引き続いての御拝命、まことに大慶に存じます」
拝命の知らせは、既に邸へ伝わっていたらしい。家の者たちは、早くも
「父上の他に、神祇官長の御役目を全うできる巫師は、おりますまい」
満征が、心からの尊敬のまなざしで、満雅を振り仰ぐ。
家の者たちを見渡して、薄く笑みを置き、満雅が、門をくぐろうとしたとき、
「北條満雅……っ!」
背後が、
眉を
一人の年若い青年が、衛士に取り押さえられていた。
「朔弥様は無実だ……! 全部、あんたのでっち上げた嘘だ! 濡れ
拘束されながらも、青年は、鋭い眼光で、満雅を
「……父上に対する不敬罪で、投獄されていた者です。刑期を終えて、釈放されたものかと……」
満征が満雅に耳打ちする。満雅は嘆息した。三年が経った今でも、南條家の家臣だった者たちは、朔弥を信じて疑わず、満雅を深く怨んでいる。やむなく北條家に下った者もいる一方、どれだけ力で押さえつけてもなお抗う者も多かった。
「いかがなさいますか、父上。再び不敬罪で罰しますか? それとも、今この場で黙らせますか?」
青年を冷徹に見据え、満征が腰の
満雅は、軽く手で満征を制し、青年を見下ろした。
「証拠はあるのか?」
冷ややかに、言葉を落とす。
「証拠もなしに、人は人の罪を信じはしない。私は、南條朔弥が罪人であるという状況証拠をもって、その罪を世に知らしめた。
それだけ言い捨てて、満雅は
「……良いのですか? あの者の処罰は……」
満征が、眉根を寄せる。
「構わぬ。……捨て置け」
満雅は、静かに言った。
北條家が南條家の
「……眩しいものだな」
三年が経った今もなお、北條の臣に下らず、南條朔弥を信じ、忠誠を誓い続ける者が少なからずいるのだ。
「今や北條は、あまねく
満征が語気を強めて言う。
「……我々は、常に、照らされる側だ」
満雅は薄い笑みを引く。
「ええ、まさに」
満雅の言葉の裏に、満征が気づくことはなかった。
北條は、光を浴びることこそあれ、光そのものになることはないのだ。
胸の奥が、鈍く痛む。
衣の下に隠した
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