神様、私を離さないで

K.night

第1話 神様、私を離さないで。

 美咲小春。私にはずっと神様がいる。お母さんにもお父さんにも友達にも誰にも見えないけれど、私にはずっと神様がいた。


 神様はお願いするとなんでも叶えてくれた。欲しかったおもちゃも人形も買ってくれた。うちにお金があるとお母さんが楽になると聞いて、お願いすると、お父さんが部長になって、お給料が増えたんだって!


 今日はカレーが食べたいと神様に言うと、お母さんが夕食にカレーを作ってくれるし、家族で旅行に行きたいというとスーパーの福引に当たる。


 それだけではないの。素敵な友人が欲しいというと、同じ小説が趣味の女の子と友達に出会えるし、ケンカしても仲直りしたいと言うと、次の日仲直りできた。


 私はずっとそういう神様と手を繋いで最高の人生を歩んでいた。


 でも、最近ちょっと様子が変わってきた。教室の片隅でいつも本を読んでいる、風見静流君。彼は他の男の子とちょっと違う。声をかけても「ああ。」とか「うん。」とか、下手したら無視される。なのに読んでいる本が、いつも、私も好きな小説だった。彼もきっとミステリーマニアだ。語り合ってみたい。


 だから、神様にお願いしたの。静流君とお話がしたいって。そしたら、初めて、神様は何も答えてくれなかった。


 それから、神様は一切何も答えてくれなくなった。カレーが食べたいと思っても、お母さんは肉じゃがを作ってしまうし、旅行に行きたいと思っても福引に当たらなくなった。


 きっと、静流君を気にかけたせいだ。もしかしたら、彼は悪魔だったのかも。そうだ、悪魔とお話をしようとしたから、きっと神様が私を見放したんだ。


 だから、それから毎日神様に謝った。ごめんなさい、もう二度と静流君に話しかけたいなんて言わないから、戻ってきてください。私を離さないでください、どうかどうか。って。それなのにちっとも神様は戻って来てくれなかった。


 春がやって来て、学年が変わったのに、私はまた静流君と同じクラスになってしまった。気にしないようにしていたのに、気にしてしまっている彼と。彼は相変わらず教室の片隅で小説を読んでいる。気にしちゃダメ!私は、もう一度神様を取り戻すんだ。

 

 教室を出て廊下の窓開けると春の風が一斉に入って来て廊下に桜の花びらが舞った。


 しまった!窓を閉めても廊下に花びらがひらひらと舞っている。やってしまった。掃除をしなければならない。


 そしたら、静流君が教室から出てきて言った。


「綺麗だね。」


 初めて私は彼の笑顔を見た。


「春だね。君の名前も小春だよね。」


 桜はまだひらひら舞い散っていて、私は、世界は私と神様だけのものじゃないと知った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様、私を離さないで K.night @hayashi-satoru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説