第26話
「レオン様?レオン様!大丈夫ですか!?聞こえますか!?」
アーダルベルトの声がかすかに聞こえる。ここはどこだろう。体に力が入らない。
きっと頭の中では気づいていたのだろう。それを気付かないふりをして誤魔化していた。もしそれを自分自身が認識してしまったら俺はもう戦うことが出来なくなってしまうから。
『俺がこの世界を救ったら彼女は生まれることがなかったかもしれないということに』
1000年後だ。きっと結ばれるはずの人が違う人と結ばれ、俺が救いたかった人たちの大半は存在しなかったことになってしまうだろうと。
気づいてはいた。だけど気付かないふりをしていた。
戦う意味をなくしてしまわないよう胸の奥底に閉じ込めていた。
俺は愛情を知らずに育った。
生まれた瞬間からひとりぼっちで、戦争が始まってからもただただ魔人の命を獲るためだけに動いた。
自分の意思なんてきっと生まれた時からなかった。
愛情を貰えなかった人間は心に大きな空洞ができて育つ。そんなの当たり前のことだ。
そんな時彼女が俺の前に現れた。
「ユイトって言うんだ!強いね!私アリス!アリスって呼び捨てしちゃって!」
「ユイト!後ろは私に任せて!」
「ユイト今度一緒にご飯に行かない?」
「ユイトは好きな人とかいないの?わたしはいるよ!」
「ユイト弁当作りすぎちゃって、良かったら一緒に食べない?」
「ユイト、すき」
「ユイト愛しているわ」
俺の空っぽの心がアリスという存在で埋められていくのがわかった。
俺はいつしかアリス色に染まっていた。空っぽだったものが満たされれていくのを感じる。
アリスのためだから頑張ろうと思ったし奴らを倒したいとも思った。
だけど彼女はもう俺の元には一生戻ってこない。
じゃあなんのために俺はやつらと戦えばいいだ!?
アリスがいない世界なんて救う価値がないよ...
「ユイトあなた自身のために生きて、救ってよ!」
「アリス?」
「ユイト、あなた自身のために。あなたのことを大事に思っている人のために。あなたの選択がたとえ間違っていたとしても私はあなたを恨んだりしないわ。あなたの1番の味方は私よ。もう私という呪いに苦しむユイトを見たくないわ。だって愛しているんだもの。生きて、お願い」
「でも俺はお前しかいらかい!お前のためになら世界を敵に回してもいいと思っているほどに、アリス、お前を愛している」
「私はね、あなたのことを初めて観た時からこの人は本当はとても優しくて思いやりのある人だって気づいていたの。でもそれを表現する扉の開け方を知らなかっただけ。私はただその手伝いをしただけなの。だから今度はあなたが私のお願いを聞いてちょうだい。この腐りきった世界を救ってこれから産まれてくる人々を笑顔にできるように。私の望むことはあなたの幸せのみよ」
アリスの顔は俺が最後に見た不格好な笑顔とはかけ離れていた幸せいっぱいの笑顔だった。俺が見たくて見たくてたまらなかった笑顔だ。
「アリスのお願いなら聞かない訳にはいかないな」
目からこぼれ落ちる雫と共に彼女は姿を消してしまった。
今のアリスは俺の中にこびりついてる記憶のアリスかそれとも最後に俺に会いに来てくれたのかは分からないが今まで肩にかかっていた重りが無くなったかのような清々しい気分だった。
バリス、お前を救ってやる。
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