第78話 雷が怖い葉桐ちゃんと戻ってくる場所
葉桐ちゃんの勉強を手伝うということで、一度俺たちは家に帰った。
大学用の荷物を置き、筆記用具を入れた簡単なバッグに持ち替え、奈桐を着替えさせてから雛宮家を目指す。
まあ、目指すって言っても、距離は200メートルとかそれくらいだ。本当に近い。
忙しそうな食堂の方をチラッと見やりつつ、俺たちはコソコソと家を出て、すぐに雛宮家の前に到着。
曲がり角を曲がると、そこには葉桐ちゃんが腕組みして仁王立ちしてた。サッと軽く手を挙げて挨拶。
「よっす、葉桐ちゃん。家の前でどしたの? この季節だし、雨降ったら濡れちゃうぜ? 風邪引いたら大変だ」
言うも、葉桐ちゃんは「やれやれ」と呆れるように首を横に振った。
「それを言うなら成お兄ちゃんもでしょ? 見たところ傘も持って来てなさそうだし、雨が降ったらお姉ちゃんびしょ濡れだよ」
「大丈夫。そうなったら俺は奈桐の傘になって歩くから。こうやってな」
言って、俺は小さい奈桐を覆うように体を展開させた。
下にいる奈桐は俺に頭を触られ、「も~」なんて言いながら満更でもなさそう。
それを見て、葉桐ちゃんはげんなりし「バカップル過ぎでしょ」とため息をついていた。
「でも葉桐、今成も訊いてたけど、どうしてわざわざ家の前に出てたの? 勉強の息抜きに外の空気吸ってる最中だった?」
俺たちを手招きし、玄関扉を開けようとしてた葉桐ちゃんへ奈桐が問いかける。
……が、葉桐ちゃんはピタリと動きを止め、背を向けてから黙り込んでしまった。
「……? 葉桐ちゃん……?」
俺が疑問符を浮かべてみせるものの、返事はない。
心なしかプルプル震えてるようにも見える。
「葉桐……? どうかした?」
奈桐が再度問いかけたタイミングで、曇っていた夕方の空がゴロゴロと音を立てた。
「うっ……」
葉桐ちゃんの背がビクッと震える。
これは……まさか……?
「そういうことか~」
奈桐も察したみたいだ。
俺の元から離れ、葉桐ちゃんの元へ歩み寄り、怯える妹の顔を見上げた。
「そういえば葉桐、小さい時も雷嫌いだったもんね? 思い出す、思い出す」
「い、今は音……小さいけど……さっきまでは結構ガンガン鳴ってたから……雨降ってないのに」
まあ、そういうこともあるよな。
雨が降ってないけど、謎に雷の音だけはゴロゴロ鳴ってる時。
ただ、それで何で外に出てたんだろう。
ちょっと首を傾げたくなる。
「ふんふん、なるほどね~。家の中にいて、電気の通ってそうなものの近くにいたら、雷が落ちた時に感電しちゃうかもしれない。停電とかしても嫌だし、色々考えた結果外に出ちゃってたわけだ~」
つらつらと推理する奈桐だけど、それを聞いて葉桐ちゃんは静かに頷いていた。
どうも正解らしい。さすがはお姉ちゃんだ……。
「お父さんとお母さんも今出掛けてるみたいだしね。もしかして、勉強を教えて欲しいってのもあるけど、一人だと雷が怖いから私と成を呼んだのかな?」
「そ、それはっ……!」
「大丈夫だよ。たとえそうだとしても、お姉ちゃんは怒ったりしないからね~。すごく懐かしい気分になった」
うんうん頷いて、一人納得してる奈桐。
葉桐ちゃんは少し赤くなって、それでも弱々しく首を横に振りながら口を開く。
「半分は……正解。お姉ちゃんの言う通り。でも、勉強を教えて欲しいのも本当だから……」
「だってよ、奈桐?」
満足げに納得中の奈桐へ俺は軽く笑みながら言ってやる。
そしたら奈桐はクスッと笑って、「別に本当のこと言ってくれてもいいんだよ?」と葉桐ちゃんの太ももを撫でながら返してた。
本当は頭を撫でてあげたいのかもしれないけど、背丈の問題で葉桐ちゃんの脚にしか触れられないのが残念だ。
まあ、あれはあれでお姉ちゃんらしいのかもしれないけど。
「と、とにかく中入ろ……? お姉ちゃんたちが来てくれたら私……もう大丈夫だから」
「うんうん。ほら、葉桐? しゃがんで? お姉ちゃんが昔みたいに頭よしよししてあげる~」
「……ん」
言われ、素直にお姉ちゃんの指示に従ってしゃがみ込む葉桐ちゃん。
頭を撫でられてから立ち上がり、先導を切って俺たちを家の中へ招いてくれた。
「……おぉ……久しぶり。お邪魔しまーす」
「私がお邪魔しますって言うのも変だよね……? ただいま、でもいいのかな?」
いいだろ。
俺がそう奈桐に返すと、葉桐ちゃんも「いいに決まってるよ」なんて言ってくる。
そりゃそうだ。
身長が低くなっただけで、見た目も中身も正真正銘雛宮奈桐なんだから。
「じゃあ、何か飲み物持って行くから、先にお姉ちゃんたち私の部屋に行って――きゃぁぁ!」
またしてもゴロゴロ、と雷の音。
なるほど。こういうのもダメらしい。
その場にしゃがみ込んで怯えてる葉桐ちゃん。
すると、またしても奈桐のお姉ちゃんムーブ発動だ。
自慢げな顔になり、私が持って行くから、と俺に葉桐ちゃんを二階に連れて行くよう言ってくる。
が、残念ながらそれは聞き入れられない。
今の奈桐の背丈だと冷蔵庫も満足に開けられないし、ジュースをコップに注いだりするのもテーブルが高くて一苦労だ。
こぼしそうだし、俺がやることにした。
「ごめん……お姉ちゃん……成お兄ちゃん……」
「大丈夫だよ。これくらい朝飯前」
申し訳なさそうにする葉桐ちゃんへ返すと、奈桐がすかさず「だよね」と続けてくる。
「成、小さい時、私と一緒に冷蔵庫勝手に開けておやつ盗ってたもん」
「奈桐さん? 今その情報はたぶんいらないからお黙り願えます?」
「一回お父さんのプリン二人で勝手に食べちゃって、バレてすごく怒られたよね」
「怒られた、というより泣かれた、って方が正しいかな……」
思い出す。
それで、その後奈桐と一緒に、食べてしまったプリンを買いに行ったのまでがセットだ。
「ほい。完了。お菓子も持って行った方がいいかな?」
「……一応」
「おーけー」
「リーダー、これでいいですか……!?」
「奈桐、お前はどこの探検隊だ?」
光の速さでポテトチップスとクッキーを持って来て、俺に差し出してくれる奈桐。
思わず笑ってしまいそうになる。
さっきから奈桐が楽しそう。
これも実の家だからなのかな。
「じゃ、部屋へ行きますか。葉桐ちゃん、歩ける?」
「う、うん。大丈夫。大丈夫だけど……」
「「?」」
「……お姉ちゃん、手繋いで?」
言われ、またまた出ました自慢げ奈桐。
胸を張って、奈桐は葉桐ちゃんの手を取って進む。
後ろ姿は、逆に手を繋がれてる幼児と歳の離れたお姉ちゃんなんだけど、実際は姉と妹が逆なのが面白い。
俺はお盆を持ったままボーっとその様を見つめていたのだが、楽し気に振り返って来る奈桐へ「早く」と急かされ、歩を進めるのだった。
【作者コメ】
次話で2章が終わりになります。
それに伴い、更新の休止を予定しているのですが……なんか更新したい気もするし……でもここは心を鬼にしなきゃいけないし……うわぁぁぁ!!!って感じです(涙)
せせら木にもう少し筆力があれば、この話も二次を突破して、あわよくば書籍化まで行けたのかもしれません……。
悔しいですが、力を溜めていきます。
あと、ヤンデレストーカーちゃんの話も終わり近しですので、あれが終わったらまた新作の長編出します。頑張ります!
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