最後の会話

「そんじゃ、奈桐。今日は唐突な訪問ながらありがとな。おかげで欲しい情報がしっかり取れたよ」


「あははっ。何それ。やっぱりへんたいじゃん」


「構うもんか。奈桐のことならば、俺はいくらでも変態になる。そう、この身が砕けようとも!」


「なーに言ってるんだか。まったく」


 奈桐の家の前。


 俺は冗談を言って笑い、手にお菓子や果物を持っていた。


 今さっき奈桐パパとママが土産として持たせてくれたものだ。


 土産って言っても、昔から今に掛けて何度もこうして家へお邪魔してるのにな。そのたびに毎回何かあるとこうして俺へものをくれる。申し訳ないよ。ほんと。


「で、さっきも言ってたけど奈桐、花火大会の前日まで部活の合宿があるんだって?」


「うん。海辺の田舎で体育館貸し切ってね。海水浴とかもするみたい。楽しみ」


「楽しんできてな。次の日は花火大会あるし、体力は温存しといて欲しいけど」


「そんなの大丈夫だよ。楽しみなことに疲労は感じないので私」


「ははっ。そっかぁ? その割に、昔俺と遊園地へ行く前に風邪ひいて、泣いたりしてたことあったけどなぁ」


「たまたまだよ、たまたま。今は元気だもん」


「ならいいけどさ」


 よし。帰るか。


 切りの良いところで会話を切り上げ、俺は「じゃあな」と手を振って踵を返そうとする。


 そんな折だ。


「成」


 奈桐が呼び止めてきた。


 俺は振り返る。


「ん? どうかしたか?」


「あ……えとっ、あ、あのね?」


「うん」


 刹那。


 前から寄りかかって来る奈桐の体。


 呆気に取られながらも、俺はそんな彼女を受け止めた。


「お……おぉ……?」


 抱き合ってる形。


 奈桐が唐突に俺の胸へ飛び込んできた。


「奈桐……?」


「大好き……だよ。ずっと、ずっと、これからも」


 わかってる。


 それは、俺もだ。


「うん。俺も」


 花火大会の日。


 絶対に奈桐の目を見て言おう。


 ダイヤモンドの無い指輪と共に。


 結婚するまでの時間も一緒にいられる証をプレゼントして。


 心の底から愛してる、と。

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