【KAC20245】ハナ差無いで

天音伽

ハナ差無いで

 借金を背負った僕が最後に頼ったのは、ギャンブルだった。

 最終コーナー立ち上がって、1番アストラルリンゲツと13番ハローグッバイの最終直線勝負になることは、誰の目にも明らかだった。

「行けぇ!!!叩けハシバァ!!!」

 横で関西弁のおっちゃんが絶叫している。アストラルリンゲツの鞍上、ハシバが猛烈な鞭を入れるが、ハローグッバイとの差は微妙なまま残り200mの看板を通過する。

「おらボケェ!!!もっと根性いれんかい!!」

 アストラルリンゲツが追い詰めてくる。ハローグッバイとの差はわずか。

 そして。

「11R、鹿島特別は写真判定となりました」

 しばらくの後、確定した着順は。



「ま、ギャンブルで取り返そうとした俺が愚かだった、な」

 呟いて、ホームセンターで買ってきた小さな昇降台を登る。

「ハナ差ないで!よーやったわ!!!」

 隣のおっちゃんの叫ぶ通り、勝ったのはアストラルリンゲツ、負けたのはハローグッバイ。

 ハナ差すら無い、接戦だった。


 天井に吊った縄はどうにも長さが足りなかったらしい。

 首の長さ分だけ足りなかった縄に、僕は苦笑する。

 僕は首を伸ばして、縄で結んだ輪に頭を通す、その時。


「和人!!!」

 ふいに扉を蹴破って飛び込んできた彼女に、僕はびっくりして縄から顔を話す。

 ハナまで顔を突っ込んでいた縄がぶらぶら揺れる中、彼女は僕に、

「ギャンブルとか、借金でどうしようもなくなっちゃったとか、そんな事どうでもいいの!」

 そう言いながら、僕に抱き着いた。

「でも、このままだと迷惑をきっと掛ける」

「だから死ぬの?その分私が頑張る。だから――――」

 彼女が僕の背中にぐっと力を込めて、自分の方へ引き寄せる。

 まるで、今まで死の淵に立っていた僕を、この世に引き戻そうとするように。

「離さないで」

 僕はごめん、と言うことしか出来なかった。


 僕が首を括るのが、彼女が部屋に飛び込んでくるのより早ければ。

 僕の命は、まさしく『ハナ差』で彼女に救われたのだった。

 

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【KAC20245】ハナ差無いで 天音伽 @togi0215

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