はなさないで

杜侍音

話さないで


「話さないで」


 高校二年の初夏に開催される林間学校。

 その2日目の夜に行われるメインイベント──肝試し。

 クラス別に、男女関係なくランダムで選ばれたペアで、林の中のお堂に置いてあるお札を取って帰って来るだけのシンプルなレクリエーションなんだけど……。

 でも、多くの人がこのイベントに命を賭けている。


 なぜなら気になる人と一気に心の距離が縮まるからだ!

 だからこそ、ペア交換の交渉をする人もいれば、噂では抽選箱に仕掛けをする人もいるくらいみんなガチになる。


 ──まぁ、僕にはあんまり関係のない話なんだけどね。

 別に好きな人とかはいないし。男なのに女子より身長が小さい童顔な僕を好きになる人はいない。

 昨日のクラス別発表会なんて女装してジュリエットさせられたんだから! ……ウケたみたいだし、いいけどさ。



 そんな僕のペアとなったのは学年のマドンナ、山野さん。

 頭も良くて運動神経もよくて、その、男子が好きそうな感じの容姿で。そう! クールビューティー!

 だからこそ色んな男子にペアを交換して欲しいと交渉された。


「邪な考えを持っている男性はお断りします。そこまで言うなら女性とペアを組みますが」


 けれど、山野さんが来る人みんなを一蹴した。

 まぁ、僕は女子みたいなものだから大丈夫かとみんな納得してくれた、って、失礼な!?



 そんな感じで始まった肝試しだけど、しばらくして山野さんの方から手を繋いできた。


「わっ!?」


 思わず色々と驚いて声が出ちゃった。

 失礼かなと思って彼女を見るけど、それどころではなさそうだった。

 火傷しそうなほど手に伝わる体温、寒いのかなと思えるほどに小刻みに震えて、目には涙まで浮かべている。

 ペア決めの時はいつもみたく凛としていたけど、本当は強がっていただけなんだ。

 お化けを怖がっている姿を知られたくないから僕に口止めをしてきた山野さん。僕がペアで妥協したのも無害そうに見えたからかな……。

 でも、山野さんには楽しい気持ちで終わって欲しいな。だって今回のイベントでは実行委員として大変だったみたいだし。


 ──よし、ここは男らしく勇気付けてあげなきゃ!


「山野さん! 僕が守ってあげるから安心してね!」

「キモ……ぃ……」


 山野さんはそっぽを向いて、それから全然目を合わせてくれなくなった。

 ……あ、やっぱりダメだったか……僕も同じように嫌われちゃったかな。

 それでも怖がる彼女を放ってはおけないから、手は離さないままで肝試しに一緒に挑んだ。

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