ザリガニ釣り


 お父さんの言った通り、喜代おばあちゃんは自分でお世話できるならかまわないと言ってくれた。

 早速翌日から、セミやらトンボやらを捕まえた。いとこの隼太が虫取り名人で、捕り方や飼い方をいろいろ教えてもらう。勉強は苦手でちょっとどんくさいのに、生き物を捕まえたり飼ったりすることにはすごく詳しい。

 「セミやートンボはー、すぐに死んじゃうよー」というので捕まえて観察した後は逃がしてあげて、バッタを飼った。それから、カブトムシやクワガタも飼った。毎日のように隼太とでかけては、いろんな生き物を捕まえて観察した。

 隼太はメダカを飼っているから他のは飼えないと言って、一緒に捕まえても全部逃がしていた。


「僕はー、たくさんお世話できないからー、メダカだけーってー、お母さんとー、約束したんだー」



 田舎にきて一週間ほどして、無事に元気な赤ちゃんが生まれたと連絡がきた。それまで毎日あったお母さんからの電話は三日に一度くらいに減ったけど、僕は捕まえたり飼育したりで忙しくしていたから気にならなかった。

 はじめのころは、虫取り網を使っていたけれど、そのうちなんでも素手でも捕まえられるようになった。


「お父さんもよくいろんな生き物を飼ってたよ」


 喜代おばあちゃんが教えてくれた。


「ダンゴムシとかカタツムリとかカナヘビとかも飼ってたねぇ。一度にじゃあないけどね。他にもザリガニやカメも飼ってたことあったね」

「ザリガニ! ザリガニも捕まえられるの?」

「その辺の水路にいるからね」


 翌日いつものように隼太に会うと、僕は勢い込んで聞いてみた。


「ねえ、ザリガニの捕まえ方も知ってる?」



「ザリガニはー、準備がいるんだよー。ちくわとかー、するめとかでー、釣るんだー」


 急いで喜代ばあちゃんに頼んでちくわをもらってくる。「タコ糸もいるよ」とばあちゃんが持たせてくれた。

 隼太は器用にその辺に落ちていた棒に糸を結んで竿を作ると、糸の反対側にちくわも結びつける。


「これでー、こうやってー」


 水路のすみの方に糸を垂らして、くいっくいっと竿を動かす。しばらく見ていると、でっかいアメリカザリガニがその大きなハサミでちくわをはさんだ! それをすーっと持ち上げて釣り上げると、隼太はハサミをあげて威嚇してくるアメリカザリガニを、背中側からひょいっとつかんでバケツに入れた。


「でっか~い!」


 バケツの中でも大きなハサミをあげているアメリカザリガニは、ものすごくかっこいい。興奮した僕はすぐに真似をして竿を作って糸を垂らした。隼太がやったのと同じようにくいっくいっと動かしてみる。

 さっきよりは小さいけど、真っ赤なやつがハサミでちくわをはさむのが見えた。僕は唾を飲みこんでそうっと竿をあげた。


「ああっ!」


 水の中から持ち上げる前に、アメリカザリガニはちくわを放してしまった。


「ああ~」


 僕は落胆のため息を落とした。

 それからもう一回気を取り直してチャレンジすると、さっきのやつがまたちくわをはさんだ。


「今度こそ離さないで!」


 小声でいいながらそ~っと竿を持ち上げる。さっきよりもゆっくり、慎重に。

 赤い身体が水面から出てくる。このままそうっとそうっと。


「やった~‼」


 釣り上げた! すごい! アメリカザリガニを釣るなんて!

 僕は竿を下げて捕まえたやつを足元におろした。まじまじと観察する。かっこいい。ハサミをあげて威嚇してくる様子は、すごく強そうだ。

 ひとしきり眺めてから、隼太がやったのと同じように背中から手を回して体をつかまえようとした。


「痛い~!」


 ちゃんと背中側から手を回したのに、そいつはぐいっと高くハサミを持ち上げて、僕の指をはさんだのだ!


「痛い痛い! 離して~!」


 ちくわはすぐに離したのに、僕の指は中々離してくれない。


「バケツの水にー! つけてー!」


 隼太が慌てずに僕の手首をつかんでバケツに突っ込んだ。すると水の中に入ったことで安心したのか、すっとハサミを開いてくれた。


「ふぁ~」


 ふぬけたような声が出てしまう。指を見ると、ぷつっと穴が開いたみたいで血がにじんでいる。

 でも! そんなことより、かっこいいアメリカザリガニを自分で釣った喜びの方が大きい。


「飼うのー?」

「もちろん!」


 鎧のような体と真っ赤な色。そしてなんとも愛嬌のある動きが、僕の心をつかんで離さない。


「お母さんにー、話さないでいいのー?」

「お母さん? いいよいいよ大丈夫」


 ばあちゃん家で飼うのに、お母さんなんて関係ない。すでに他にもいっぱい飼ってるのに、今さらだよ。

 隼太が「僕はー飼えないからー」と逃がそうとするから、それも僕がもらうことにした。

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