死後の真実

ゆでたま男

第1話

ここは?

健太は、辺りを見渡した。

どうやら空に浮いているようだ。

「お気づきになられましたか」

振り返ると、女性がいた。なんというか、

普段は目にしないような格好で、以前になにかで見た、古代ギリシャ人のような感じだ。

「あなたは?」

「私は、あなたを迎えに来た者です。死者の魂をあの世へ導くのが役目」

「では、やはり俺は死んだのか」

「先ほどの交通事故で・・・」

「そんな」

「仕方ないことです。誰しも、命はいずれ尽きるもの。これから、あの世に行きますが、その前に残された人たちに挨拶回りをされますか?」

「挨拶回り?」

「はい、残された人たちのことも、気がかりでしょうから」

「そうですね」

「では、一週間後にまた来ます」

そう言って、彼女は飛びさって行った。


さて、どうするかな。

健太は、自らの葬式に参加していた。妻、親戚、同僚、上司、それなりに人は集まるものだ。それにしても、変な気分だな、自分の死を悲しむ人を見るのは。

葬式も、終わり、帰っていく同僚の二人を見つけた。同期で、入社から10年。ともに苦楽を分かち合った仲だ。

「それにしても、不運だよな」

「ああ、交通事故とはな」

健太は泣きそうになった。

「でもさ、これで出世レースから一人減ったよな」

「まあな。あいつ、上から気に入られてたしな」

健太は、涙がピタリと止まり、眉間にシワを寄せた。

「まあ、つまりそういうことだな」

「ラッキーだったな」

なんだこいつらは。悲しむどころか、喜んでいるじゃないか。

結局、俺達の友情なんて、うわべだけのものだったのか。

「許せん」

健太は、二人に殴りかかったが、体をすり抜けて、空振りした。

「そうだった、俺は、死んでるんだ。まあいいさ、どうせ俺には関係ない。それより、心配なのは幹恵だ」


火葬を終えると、幹恵は家のリビングで一人ソファーに座っていた。

「ごめんよ、幹恵を残して死んでしまって」

インターフォンが鳴った。

訪ねて来たのは、関口だった。

「残念だよ、健太がこんなにも早く」

「気をつかわないで」

関口とは、大学生の時からの親友だった。

同級生の幹恵も一緒によく遊んだ仲だ。

突然のことで驚いただろうな。

「俺さ、実は幹恵のことが好きだったんだ」

「え!」

「俺じゃだめかな?」

関口は、幹恵の肩をつかんだ。

そのままソファーに押し倒す。

「だめ、やめて!離して!」

こいつ、なに考えてんだ。どうにかしないと。

「何やってるんだ!やめなさい」

入ってきたのは、課長の石田だった。

関口は、ばつが悪そうに、そそくさと帰っていった。

「大丈夫ですか?奥さん」

「はい、ありがとうございます」

「インターフォンを押そうとしたら、悲鳴が聞こえて来て」

「助かりました」

「何か飲んで落ち着いて」

「はい」

幹恵は、コーヒーを二人ぶん用意した。

さっきに比べ、だいぶ落ち着いたようだった。

「突然の知らせで、驚きました。彼は、大変よく働いて私の助けにもなってくれましたから」

健太は、意外な顔をした。今まで課長から誉められたことなど一度もない。

いつも、しかめっ面で怒っていた。

「寂しくなりますね」

課長の目には、うっすら涙がにじんでいる。

妻も泣いている。

「はい」

「何か困ったときは、いつでも相談してください。力になれればですが」

「ありがとうございます」

課長は、帰っていった。

涙をふく幹恵の隣に座った。

本当なら、こんなとき肩を抱き寄せたいところだ。

また、インターフォンがなった。

次は誰だろうか。

入ってきたのは、見知らね男だった。

20代くらいだろうか、長めの髪は派手な茶色をしている。

二人は隣同士でソファーに座った。

「どうだった?」

男は聞いた。

「うん、上手くいったわ」

健太は、首をひねった。なんのことだ。

「みんな、私が悲しんでいるのに同情して」

「まあ、俺達の関係は誰も知らないからな」

関係?どういうことだ。

「これでやっと一緒になれるね」

「うん」

これは、もしや浮気相手。

そんな、幹恵のことを信じてたのに。

今までの夫婦生活は、全部嘘だったのか。

二人は熱い口づけを交わした。

もう知るか。健太は、空に舞い上がった。

やはり、人生には、知らない方がいいこともあるのだ。それが楽しく生きるということなのだと悟った。

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死後の真実 ゆでたま男 @real_thing1123

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