愛すべき、殺すべき人々へ。
五目御飯
愛すべき、殺すべき人々へ。
「そろそろ……反応してくれても良いんじゃない?」
愛してた、愛すべき人がいた。
彼女は、良く笑ってくれていた、どんな話をしようとも、一緒に笑って、一緒に泣いて、こんな世界で、唯一光って見えた
「…………」
「そっか…、そりゃそうか…、ずっとそうなんだ、治る訳が無いよね」
昔、ある所に、二人の少年少女がいた。
少年は、あまり元気という訳では無いが自分を持っていて、確固たる意思を持っている
少女は、とても元気に走り回り、笑って、泣いて、時には怒り、感情が豊かな人間だった。
「自分語り程恥ずかしい物は無い…か、」
机にペンを置く、執筆途中の紙を破り捨てる
「昔を思い出しても、それは所詮今となっては幻想に過ぎない、なんせ、今は抜け殻なんだから。ねぇ、アイ」
名前、というよりも愛称か。昔はその名を呼べば嬉しそうに近づいて来てくれたと言うのに…
廊下を無言で歩いていく、特にやる事は無い
アイは、無表情でついてくるだけ
「治る事なんて、無いんだろうなぁ」
なんせ俺は精神面では全く持って初心者だからなぁ
「こんなんだったらこの仕事じゃなくて精神医にでもなっておくべきだったか」
いや、そうなったとしても、結果は変わらない。無駄だろう
バットエンドとでも言うか、少なくともハッピーでは無い結末
たとえ、やり直しても変わることはない。
むしろ、死ななかっただけマシだろう。
「あぁ、世知辛いなぁ」
ポケットから一本、一服
最初の頃は肺が危ない〜、的な感じで遠慮していたが、これがないと俺が保たない
『No.564、仕事だ』
「了解、アイ、行ってくるよ」
アイはコクリとも頷かない、虚ろな目で、虚空を見つめている
俺がいない間、アイは何をやっているのだろうか?
まぁ、この施設を適当にふらついているだけか
それか、部屋でじっとしてるかの二択だな
まぁいい、今日も生き残るか
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「それで?、今回の仕事内容は?」
『聖コリアス軍の援護、魔女の組織の殲滅と勇者の護衛だな』
その内容を聞き、思わず顔をしかめる
「なんども言っているだろう、聖軍の援護は嫌と」
『それはわかっているが、人手が足りないのでな』
「ならば……しょうがないが……アイに何かあったら許さないからな」
『分かっているさ、それが君を敵にまわす行動という事ぐらい』
「分かっているのなら良いさ、じゃあ、行ってくるよ」
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聖コリアス軍、聖コリアス国直属の軍隊であり、俺が一番嫌いな人々でもある
「仕事に私情は挟んでは駄目だが、やはり不快感しかないな」
そこら辺のテントの中では、女の嬌声が響いている
「そんな事する暇があるなら、警護でもしてれば良いのに」
俺は今、護衛対象の勇者を待っていた
奥から、人影が見える
「おっ、来たか」
いったいどんな筋骨隆々な男が来るのかと身構えていたが、
「………女?」
「ねぇ、初対面の人にその言い草は酷くない?これでも私はちゃんとした勇者なんだけど」
「コリアスも、女を戦争に出す程腐ってたか…」
「普通勇者の前で堂々と聖国を侮辱する!?」
「事実だろう、それに俺はコリアスが嫌いだ」
「だとしてももうちょっと言い方はあるだろう……」
「そんで、あんたが勇者か?」
「自己紹介が遅れたわね、私はアリア・コリアス
王の一人娘で勇者よ!貴方は?」
「No.564、依頼であんたを護衛に来た」
「コードネームじゃなくて名前を聞いてるんだけど」
面倒くさい女だな。俺は少し考えた後……
「そうだな…じゃあ、イア、とでも呼んでくれ」
彼女の名前を弄っただけ、とても単純である
「そっか、よろしくね!イア!」
「あぁ、よろしく」
「にしても、イアって強いの?強くないと護衛は務まらないと思うけど……」
「経験の薄い女よりは」
「………、あんた、本っ当に失礼ね。一応これでも私も勇者だから、強い自信はあるけど本当に貴方私よりも強いの?」
「気になるならやってみるか?」
アリアは少し考える仕草をした後、断りを入れた
「そもそも仲間同士で争うのは馬鹿馬鹿しいもの」
「懸命な判断だ」
そう言って、俺はテントから離れていった
「ちょっと、もう行っちゃうの?」
「必要以上に馴れ合う必要はないだろう」
「それもそうだけど…」
「あくまでも、これは仕事だ、求められている以上の事をするつもりはない」
「本当に薄情ね…」
それに、あまり女と関わりたくないんだ
俺には、幸せにする、幸せにしないといけない女がいるから。
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「……あれが、魔女の組織か?」
「ええ、そうよ。」
「……お前、いつからそこにいた」
「ついさっき、それよりも、魔女を滅ぼす作戦会議をしましょう」
「そうだな、だが、その前に聞きたい事がある」
「なに?答えられる事なら何でも答えるけど」
「何故、魔女を滅ぼそうとする?」
すると、彼女はとても不思議そうな顔をした後、こう答えた
「そんなの当たり前じゃん、魔女は死なないといけない存在なんだよ?、生きているだけで不幸を生み出す生まれてきちゃいけない、神の意思に反する生きていちゃいけない存在。そんなの子供でも分かるじゃん、気でもおかしくなった?」
こいつも、駄目か
「だが、同じ人間、同じ生物だろう?、勇者ならば殺しを正当化するべきでは無いのでは?」
「それ以上言ったら本気で怒るよ?、あのね、魔女が人間な訳無いじゃん、これは殺しじゃなくて、救いなんだよ。モンスターを倒すのと同じ、倒して、救ってあげる
別に正当化も何もないよ。」
「ああ、そうか、なるほどな」
やはり、やはり俺はこの国が、嫌いだ
「質問はそれだけ?」
「それだけだよ」
「ふーん」
まるで、興味を無くしたかのように、そいつは離れていった
「本当に、本当に反吐が出る」
あいつを、殺したのも救いだと言いたいのか
あれが、救いとでも?
結局は戦争なんだ、これは、だがあいつらは何も分かっていない
「本来ならばすぐにでも魔女の味方をしたいが、仕事だからなぁ」
とりあえず、可哀想だが滅ぼす事にしよう
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『おや?、<===>君、来ていたんだね。だが、今はアイはいないぞ?』
『なるほどな…、いつかは言われるとは思っていたが、やはり、親としては複雑な気持ちだな、だが、<===>君なら大丈夫だろう、アイを任せた』
『何!?、<===>君、吸えないのかい?そりゃ駄目だな、
未来の息子と一服する事が私の夢だというのに…、よし、吸えるようになりなさい、最初は弱いやつで良いから』
『私、たちが、いったい何をした?、何故、こんなになるまで、痛めつけられないといけない、いや、私だけならいい、だから、頼むから、娘は、やめて、く、』
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「あぁ、気分が悪い、だから、だから魔女は殺したくないんだ」
消去してしまいたい記憶、絶対に思い出したくない感覚、思い出してしまう
「な、ぜ、お前が、我らの、拠点を、襲う?、お前、は、こちら側だろう…」
「……すまない、だが、アイを守る為にはこの方法しか無かった」
きっと、彼女とは知り合いなのだろう、昔、魔女達と交流をもった事があったから
「何故!、お前が、こんな所にいる!<===>!」
「……カイラ、お前もここにいたのか」
「お前は、何をやっているんだ!、何故、コリアスの味方をしている…?
本来、お前が一番恨まないといけない立場だろう!」
「しょうがない、しょうがないんだよ、アイを、アイを守る為にはこれしか無かった」
「それが…、コリアスに所属する事だと!?」
「正確には所属していないさ、ただ、任務ってだけだ」
「ふざけるな…、ふざけるなぁ!!!」
真っ直ぐに、魔法を連射してくる
そこには手加減というものが一切無かった
きっと、俺が、アイを連れてあの選択をした事でこいつらとは関わり合えない運命だったのだろう
「貴様が、こんな事をしてるって、知ったら、アイは、悲しむだろうな!」
「……、そもそも、アイが今どういう状況なのか、お前は知ってるのかよ!
アイはもう、以前みたいに笑う事が、泣く事が、怒ることすらも、出来ないんだ、屍のような物だ」
「ただ、食べて、寝る、その繰り返し、もう、耐えられないんだよ」
「俺達が生きるにはこれしか無い、無いんだ、だから、さっさと、死んでくれ…」
魔法を避け、カイラに近づく、そのまま首を締め付けた
所詮、女性の力、それを退かす事は出来ないだろう
「あ………ぐぁ、っあ」
「目を、覚ませ、<===>、アイが、悲しまない、行動を……」
カイラは、息絶えた
「…………、目は、とっくに覚めてるさ、俺は望んでこの行動をしている、あんたに、どうこう言われる筋合いはない」
俺は、アイを守る為なら何でもするさ
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「お疲れ様、イア」
勇者が話しかけてくる
「これで、任務は終了した、もう俺とお前は他人だ」
「え〜、そんなそっけない事言わないでよ、一緒に魔女という邪悪を滅ぼした仲でしょ?」
「黙れ、黙れよ、勇者」
「………、ちっ、ノリ悪いなぁ」
こいつは、ここで殺しても問題ないかな
いや、駄目だ、ここで殺してしまったら全てが無駄になってしまう
耐えろ、耐えるんだ、俺
「………、とりあえず、俺は帰る」
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施設には、メンバーの部屋がそれぞれある
だから、施設が家見たいな物だ
「帰ったぞ」
『お疲れ様、No.564』
俺は部屋を除く
「アイ、ただいま」
しかし、アイは部屋にはいなかった
「珍しいな…、一人で施設を歩いているのか?」
それだったら治る余地があるとして、喜ばしい事なんだが…「それじゃ、アイを探すか」
施設は、住居スペース、司令室、その他娯楽施設のとても単純な構造で出来ていた
まずは住居スペースを探した、他の部屋に入っているのは考え辛い、だから道を探したが…
「……、いないな」
もう、この時点で嫌な予感はしていた
司令室、「いない」
娯楽施設、「いない」
もう施設は全て探し終わっただろう
ならば何処にいる?
呼吸が、粗くなっていく、
施設には、それ以外に外側にガラクタ置き場的な場所があった筈だ。心臓の鼓動が、どんどん大きくなっていく
俺は早足でそこに向かった
----------
結果、だけ言おう、アイはいた
「あぁ、アイ、ただいま」
あぁ、いたよ、うん、確かにそこにアイは存在していた
「もう、そんなに、体を汚して、どうしたんだ…?」
声が、震える、
アイの服は破り捨てられていて、体には白い液体が付着していた
「ねぇ、返事を、してよ」
顔には暴行された後
きっと、輪姦されたんだろう、きっと、アイカと同じように、母さんと、同じように
「……は、ははっ、ははははははははははははハハハはハハハハハハハハハハハハハハハははハハハはははははははははははははさはははははハハハハハハはははははっ!!!」
「あぁ、なんで、なんで、君は幸せになれないんだ?」
愛していた、愛すべき人がいた
他の男に汚されて、虚ろな目をして、あの時の輝きがなかろうとも
愛していた、愛すべき人が、そこに、
ゆっくりと、その髪を撫でて、首に手をやる
「今まで、苦しかったよね?もう大丈夫だよ、ここから、開放してあげる、君は、幸せになるべきなんだ」
手に力を入れる、ゆっくりと、今までを振り返るかのように
アイは、一度体を震わせた後、静かに、開放されていった
「俺は、もう、逃げないよ、アイ」
愛していた、愛すべき人が……
殺していた、殺すべき人々がまだ残っている。
出来る限り、精一杯の笑顔で、組織を、国を、世界を、
「救済、しよう」
「殺戮、しよう」
全ては、アイの為に……
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