第40話:決着
まあ、いい。
リヒトたちには実力がバレるのは仕方がないと既に割り切っているし、むしろここで全属性魔法の使い手が稀有な存在であると知れて良かった。
ちなみに、リヒトが凄いのは、他人の魔力を剣に纏わせ自在に操れるところ。
魔力の構造は、指紋や虹彩のように個人差があるため、剣士側が微調整をして合わせるしかない。
俺の場合は自己魔力を使っているので、リヒトとは違いこの辺は容易だった。
「行くぞ」
俺は宣言した後、リヒトの懐に飛び込んだのだった。
キンッ!
剣と剣が衝突し、高い金属音が鳴り響く。
属性が付与された剣は、単属性で一・五倍の威力になる。
つまり、六属性全てが付与された俺の剣は、足し算により合計で四倍。
もともとのパワーでも勝る俺が負けるはずもなく——
「くっ、剣が!」
リヒトの剣は天井高く飛んでいき、遥か向こうに落下したのだった。
武器を失った剣士が戦うことは不可能。
「……僕の負けだ。完敗だよ」
こうして、リヒトの敗北宣言により、この決闘は決着したのだった。
気絶している三人が目を覚ますまでの間、俺とリヒトの二人で話をする流れになった。
「ハハ……ここまで完膚なきまでの負けは初めてだよ。……おかげで、僕のプライドはズタズタだ」
リヒトは、乾いた笑いを上げていた。
「なんか、悪いな」
「エレンが謝る必要はない。僕から決闘を申し込んだんだからね」
とはいえ、挫折経験のないエリートが心を抉られるのが辛いのはわかる。
今世では田舎で引きこもっていた俺だが、前世でそんな人をたくさん見てきたからな。
「僕は、負けず嫌いの天邪鬼でね。変な心遣いで手加減をされたり、僕が国王の息子だからって、顔色を伺うような言動をされるのが嫌なんだ。だからこそ、実力で認めさせるために努力して常に同世代では一番であり続けてきた。まあ……エレンに負けたってことで、ただの思い上がりに過ぎなかったことが今日わかったんだけど」
なるほど。
特別扱いされるのが嫌だという感情と、特別な地位であるという現実の折衷案として、強さを求め続けているというわけか。
確かに、本当に強ければ褒められるのは当然の反応であって、身分による特別扱いではない。
気持ちはなんとなくわかるが……なかなか大変な人生だな。
「実は……ずっと一番だったせいで、最近は目標を見失ってしまっていたんだ。でも、エレンと戦ってみて、上には上がいることを再確認できた。プライドはボロボロだけど、目指すべく目標が出来て、今はすごくわくわくしている。だから、むしろ僕からお礼を言いたい。ありがとう」
言いながら、ぎこちない笑顔を向けてくるリヒト。
リヒトがそういった気持ちなら、俺も変に気を使う必要はなさそうだ。
「まあ、そういうことなら……どういたしまして」
会話が一段落したところで、ユリアたちが目を覚ましたようだった。
「んん……あれ……? 私、眠っちゃってました⁉︎」
「ユリアがやられて、エレンの魔法が飛んできて……なるほどね」
「エレンが強いとしても、まさか瞬殺されてしまうとは思いませんでしたわ」
三人はあえて尋ねずとも状況を理解したようで、改めて結果を尋ねてくることはしなかった。
「じゃあ、そろそろ出ようか」
「そうだな」
二限終了までに戻る必要があるため、あまり時間に余裕はない。
だが、リヒトたち四人にとっては限界を出し切った戦いが出来たはずで、明日に向けて良い練習になったのではないだろうか。
俺たちは反省会をやりながら、決闘場を出たのだった。
そう言えば、一つだけ解消されていない疑問があった。このタイミングで聞いておこう。
「シーシャ、聞きたいことがあるんだが」
「ん、何かしら?」
「シーシャの入学成績って、えーと……」
この前聞いたはずなのだが、ど忘れしてしまった。
確か、あまり上位の成績ではなかったはずだったと記憶しているのだが……。
「三十位よ。このクラスにはギリギリ滑る込んだ感じ」
「だよな。でも、あの規模の魔法が使えて、どうしてその順位なんだ? いくら平民って言っても、満点近く点数がついてもおかしくなさそうだと思うんだが」
試験の時だけ上手く行かなかった……とかだろうか?
「ああ……それね。私、魔力のコントロールが苦手で、的当て外しちゃったの」
「外した? え、全部?」
「そう。お恥ずかしながらね。でも、決闘では運良く当たって良い評価をもらえたみたい」
「な、なるほど……」
そういえば、さっきもシーシャは魔法師にしては珍しく杖を使っていたな。
魔力コントロールが苦手だという俺の見立ては当たっていたようだが、それにしてはあの規模……かなりの並列処理が必要なはずだ。
シーシャは、得意分野と苦手分野の差が激しいタイプなのかもしれない。
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