第32話:景品

 『ささやかなお願い』って、これのことかよ⁉︎


 こいつのことだから、ロクでもないことだろうとは想像していたが、本当にロクでもなかった。


「いや……お前的には俺はライバルなんだろ? いいのか?」


「『ライバルだから』さ。現状、このクラスで最強は君で、次が僕だ。優勝を狙うなら僕たちは潰し合うより協力した方がいい。違う?」


「まあ、その通りだとは思うが……」


 しかし、それでは俺が困るのだが……?


 リヒトと組んで優勝するのは当たり前。


 優勝しても目立つし、優勝しなくても悪目立ちしてしまう。


 俺としては、目立たずこっそりとフェードアウトしていきたいのだが……なぜこうも上手くいかないのやら。やれやれ。


「じゃあ、決まりだね?」


 勢いで押し切ろうとするリヒト。


 俺は、ささやかな抵抗として一つ質問をしてみる。


「でも、このイベントってのは成績に入らないんだろ? どうしてそこまで真剣になるんだ?」


「あれ、知らないの? オリエンテーションの景品」


「景品?」


「ああ。毎年恒例で当日に優勝と準優勝の景品が発表されるんだけど、今年も同じなら、優勝パーティには『三日外出券』、準優勝パーティには『一日外出券』が与えられるんだ」


「それってもしかしてだが……」


「ああ。特別に学院の外に出て自由に過ごせるんだ」


 ……なんだと⁉︎


 と、ということは……実家に帰ってゆっくり休むということもできるのか……!


 欲しい! 欲しすぎる……!


 だが、たった三日間のご褒美のために三年をリスクに晒していいのか?


 どうするべきか頭を悩ませている中、周りからヒソヒソ声が聞こえてきた。


「ああ……リヒト様に誘われるなんて羨ましい!」


「あの平民は何を勿体ぶっているのでしょう? 私なら迷わずお受けしますのに……」


「リヒト様と組んだら優勝だろうが! 貴族ってのは試験対策だけじゃなく、実戦を想定した修業を積んでるんだ! ああ……羨ましい」


 貴族のプライドも関係しているのかもしれないが、意外にも実態以上にリヒトは評価されていたらしい。


 ん……待てよ?


 なら、この状況を上手く使えばいいんじゃないか?


 『木を隠すなら森』と昔から言われている。


 周りを強い仲間で埋めてしまえば、俺がどれだけ活躍しようと印象は薄まるはず。


 よし、これでいこう。


「わかった。せっかく誘ってくれたんだし、パーティを組もう」


「おおっ! 良かった……!」


「待て。まだ話は終わっていない。条件ってほどじゃないが……他に誘う三人のメンバーは俺に決めさせてほしい」


「ああ。もちろん構わないよ」


 よし、交渉成立。


 あとは、強そうなメンバーを集めるだけだ。


 オリエンテーションに関しては不自然に思われないよう真面目に立ち回るが、ダンジョンの中は常に監視されているわけじゃない。手柄は全部俺以外のメンバーに押し付けてしまえばいい!


 俺は、近くに座る三人に声を掛けた。


「ユリア、シーシャ、ティア。俺たちのパーティに入って欲しい」

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