第30話:リヒトの要求

 ……⁉︎


 ど、どうしてバレた⁉︎


 ユリアたちを襲った五人には口止めをしたはず。


 そして、当事者のユリアとシーシャの二人にも昨日のうちに話を通した。


 絶対にバレることは……ん?


 いや、そういえば……一人だけ口止めを忘れていた。


 もしかしてだが——


 俺は、ギロッとティアを睨んだ。


「あら、私が話しましたけど、どうかしましたの?」


 ティアは、悪びれた様子もなく答えた。


 こ、こいつか……!


 もちろんティアにはユリアとシーシャの危機を察する機会をくれたという意味で恩もあるのだが、それとこれとは話が別だ。


「誰に話した⁉︎ リヒト以外にも誰かに喋ったのか⁉︎」


 俺は焦って食い気味に尋ねてしまう。


「え? まだリヒトにしか話していませんけど。話しちゃまずいことでしたの……?」


「よ、良かった! まだ、他には言ってないんだな⁉︎」


「え、ええ……そうですわ」


 この言葉を聞けて、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 ひとまず、コントロールできない範囲まで話が広がるような事態には至っていないようだ。


 この件は俺を貶めような話ではなく、むしろ株を上げるような話題。本来なら隠すようなことではないし、良かれと思って話したのだろう。


 しかし、俺にとっては死活問題なのだ。


「ティア、リヒト。この件に俺が関わっていることは、くれぐれも内密に頼む」


「え、ええ……エレンがそう言うのなら、わかりましたわ。勝手に話してしまって申し訳なく思っていますの……」


 困惑しながらも、ティアは俺の要請を受け入れてくれた。


 残るはリヒトだが——


「わざわざ実績を隠すなんて、意図がわからないな。僕はエレンから納得のいく説明が聞きたい。何か、大事なことを隠されているような気がするんだ」


 ……ふむ、なかなか勘が鋭いようだ。


 この辺りはさすが、危機管理能力が重要視される王族といったところか。


 国の指導者はこうであってほしいが、今この瞬間だけはその機能オフにならないかな?


 まあ、叶いもしない願望を願っても仕方がない。


 ひとまず、それっぽい理由を並べてこの場は誤魔化しておこう。


「俺は、平民だから……リヒトにはわからないかもしれないけど、あまり目立ちたくないんだ」


「目立ちたくないとは?」


「貴族の子息には、プライドが高い人間が多いだろ? みんながリヒトみたいに人間出来てるわけじゃない。理由はどうあれ、平民が貴族より強いことを認めたくない貴族もいるんだ。このクラスにも、実際いるしな」


 俺はチラッとユリウスの方を見てから、言葉を続ける。


「出る杭は打たれる……じゃないけど、目立つと面倒ごとに巻き込まれる可能性が上がる。俺はただ、平穏に学院生活を送りたい。そういうわけだから、余計な噂で目立ちたくないんだ」


 我ながら、良い言い訳じゃないか?


 ど、どうだ……?


 俺は少しドキドキしながら、リヒトの反応を待った。


「ふーん。まあ、この場はそういうことにしておこうか。貸し1な?」


 えっ、嘘がバレてる⁉︎


 適当なこと言ってカマかけてるだけだよな……?


「何か、並々ならない事情があると見た。言いふらされたくなかったら、一つ僕のささやかなお願いを聞いてほしい」


「お願い……?」


 俺が聞き返したところで、タイミング悪く——


 ガラガラガラガラ。


 担任のオスカ先生が教室にやってきたことで、賑やかだった教室が静寂に包まれてしまった。


 いったい何なんだよ。『お願い』って……。

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