第27話:夕食

 ◇


 午後七時三十分。


 魔導テニス研究会の研究会室を出た俺たちは、学院寮近くの食堂に移動した。


 午後八時までしか開いていないため、この時間を逃すと夕食が食べられなくなってしまう。


 そのため、二人への詳細な説明は後回しにしたというわけだ。


 食堂の中は、木の温かみを感じる内装だった。


 学院の建物は石造りの堅牢なデザインのものばかりだったので、食堂もそうなのだろうと思っていたが、良い意味で想像を裏切ってくれた。


 ここなら、美味しく食べられそうだ。


 ピーク時間を過ぎているためか利用者は少なく、空席はすぐに見つかった。


 問題なく三人でまとまって座れそうだ。


 ユリアとシーシャへの説明は、夕食を食べながらすることとしよう。


 食堂は食券制になっており、好きなメニューを選んで注文する形式になっている。


 ちなみに、どのメニューも無料で食べられる。


「……む、売り切れが多いな」


「この時間ですもんね。仕方ないです」


「……だな」


 食材の廃棄を減らすために最低限の量しか用意していないのだろう。


 席が空いているのは良いが、この時間だと自由になんでも食べられるというわけではないようだ。


 俺たちは注文可能な料理の中から適当なものを注文して席についた。


 さて、魔導テニス研究会での一件を伝えておくとするか。


 俺は、二人の身に何が起ころうとしていたのかを話したのだった。


「……ということだったんだ」


 俺と五人のゴタゴタ中はずっと眠っていた二人だったが、意外にもすんなりと俺の話を受け入れてくれたようだった。


 もしかすると、二人も違和感を覚えていたのかもしれない。


「やはり、あの眠気はそうだったのですね……本当にありがとうございました」


「私たちも迂闊だったわ。学院の中だからって、気を抜いてた。何事もなかったのはエレンのおかげよ。なんとお礼をすればいいか……」


 悪いのはあの研究会メンバーたちなのだが、確かに自衛は大切だしな。


 ……難しいところだ。


「どういたしまして。それで、ここからが重要な話なんだが——」


 そう、俺が二人に改めてしっかりとした説明をしたのは、二人の疑問を解消するためだけではないし、俺が二人に感謝されたいからでもない。


「この件で、俺が一人で研究会室に乗り込んで、ユリアとシーシャを助けたってことは秘密にしておいてほしいんだ」


 犯人の五人の口止めはしておいたが、これだけでは足りない。


 放っておけば、ユリアとシーシャの二人が良かれと思って俺の話を広げてしまうかもしれないので、今のうちに手を打っておかなければならなかった。


「え? 秘密にですか……?」


「エレンが言うなら誰にも言わないけど……どうして?」


 成績不振で退学することを狙っているなんてことは、とてもじゃないが言えないので——


「ほ、ほら……デリケートなことだろ?」


「なるほど……エレンは私たちのことを想って……本当に優しいのね」


「言われなきゃ言いふらすところでした……。エレンは色々と考えているのですね」


 なんだか良い感じに勘違いしてくれたらしい。


 よく考えればそういうメリットもあるよな、確かに。


「その通りだ。……ということで、頼むぞ」

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