第25話:瀕死ループ

 よし、こっちは戦闘不能だな。


 俺は、身体を反転させて逆側の敵にも同様の一撃を放つ。


 キン——‼︎


 切っ先だけが切断され、先ほどの剣とほぼ同時に二本の剣の残骸は、床に突き刺さったのだった。


「い、意味がわかんねえ……こんな技見たことねえよ。気持ち悪ぃ……」


 とはいえ、こんなのはただの曲芸に過ぎない。


 剣で攻撃されたから剣技で応戦したが、複数人を相手にするなら実は魔法の方が適している。


 あえて曲芸を使ったのは、剣を交えることでおおよその実力を確かめるため。


 いくら悪人だとしても、必要もなく殺してしまうのは俺の主義に反する。戦意を喪失させる程度まで手加減をしようと思うと、これが手っ取り早かったのだ。


 ——さて、仕上げといこう。


 どうやら、先ほどまで俺を囲んでいた五人は恐怖心からか囲みを辞め、一箇所に集まっていた。


 これは的が減って都合がいい。


 さて、使う攻撃魔法は、俺が扱える中で最弱の『火球』だ。


 左手の手の平に火の球を出現させる。


 俺の中では最弱の魔法でも、彼らにとっては十分だったようで——


「お、おい……ま、マジかよ⁉︎」


「や、やめてくれ……」


「こ、こんなの喰らったら死ぬ……」


「た、頼む……命だけは見逃してくれ」


「ひ、ひいいいいいい⁉︎」


 身体をガタガタと振るわせ、急に命乞いを始める五人。


 だが、もう遅い。


「お前たちは、少し人の痛みを理解した方がいい」


 俺は、そう言って、火球を五人目掛けて飛ばしたのだった。


 ドッガアアアアアアアアアンン‼︎


 轟音が響き、硬い石の壁に五人は打ち付けられる。


 手加減をしたので、壁が崩壊するほどではなく、亀裂が入る程度の衝撃。


 これなら瀕死程度で済んでいるだろう。


「ああ……あっ……」


 声が掠れてはいるが、意識はある。


 うん、大丈夫だな。


「ヒール」


 俺は、セレナおばさんから回復魔法を教わっているため、ヒールもできる。


 淡い光が五人を包み込み、一瞬で治癒が完了した。


「か、回復魔法まで使えるのかよ……」


「っていうか、なんで俺たちを……?」


「な、情けをかけてくれたのか……?」


 俺の意図を理解していない彼らは、困惑しているようだった。


 やれやれ、面倒だが説明しておくか。


「実はわざとギリギリで死なないくらいの威力になるように調整したんだが……あのまま放っておけば、お前たちは死んでいたことはわかるな?」


 彼らが頷いたことを確認して、俺は言葉を続ける。


「つまり、死ぬほどの苦しみを味わったはずだ。そして、完全に回復した今なら……もう一度同じ攻撃を喰らっても死ぬことはないってことだ。ここまで言えばわかるな?」


 要するに、お前たちの対応次第でエンドレス瀕死ループが待っているということだ。


「なっ……」


「く、狂ってやがる……!」


「じょ、冗談で言ってるんだよな……?」


 俺の言葉を理解した五人の顔は一瞬にして真っ青になった。

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