第23話:退出命令

 ◇


 ピシャリ。


 丁寧に挨拶をしたというのに、まったく相手にしてもらえなかった。


 この部屋にユリアとシーシャがいることは『魔力探知』により明らかなので、一言会話だけでもしておきたいのだが、これではどうしようもない。


 やれやれ、仕方ないな。


 少々強引だが——


 俺は、目の前の扉に向けて『火球』を放ったのだった。


 扉を破壊する最小限の出力に抑えたので、中にいる人間が傷つくことはないはずだ。


 ドッガアアアアアアアアアアン‼︎


 轟音が鳴り響き、俺の狙い通り扉は破壊された。


 これで、ようやく中に入れる。


 壊してしまってもすぐに修復魔法で直せるので、迷惑を掛けることはないはずだ。


「……は⁉︎ な、何のつもりだてめえ!」


 先程の浅黒い肌をした金髪の男が怒り心頭といった感じで怒号をぶつけてきた。


「騒がしくて悪いな。この部屋にユリアとシーシャがいるはずだから様子を見にきただけなんだが……おっと、そこにいたか。ん?」


 二人の魔力位置からソファー付近にいることを特定したのだが、目視で確認してみると、どういうわけか二人揃って眠ってしまっていた。


「ユリア、シーシャ」


 俺は声を掛けながら二人の肩を揺らしてみる。


 しかし、深く眠っているようで、起きない。


 さすがに二人を抱えて寮棟まで戻るのは大変なので、起きて欲しいのだが……。


 というか、学院内とはいえ初対面の人が前にいて眠るのは危機感がなさすぎないか?


 ティアが言っていた魔導テニス研究会の黒い噂と重ねて考えると、何か変なものでも飲まされたんじゃないか? という疑いも募るが……まあ、今はいいか。


「てめえ、この二人の知り合いか?」


「ん、ああ。迎えにきたんだ。扉の件は心配しなくても——」


 言いながら振り向くと、俺はなぜか五人の男たちに囲まれてしまっていた。


 それだけじゃなく、さっきの金髪の男は俺に剣を向けていた。


「庶民の分際で余計なことをするんじゃねえ。迎えは不要だ」


「えっと……?」


「聞こえなかったか? 迎えは不能だ。今すぐ部屋から出ていけ」


 ……なるほどな。


 迎えにきた知り合いがいながら解放しないということは、最初から何らかの目的があって監禁していたということ。


 二人が眠っていたのは、やはり偶然ではなかったようだ。


 ということは、狙いは……やはり乱暴狙いだったということか。


「もし、俺が無理やりにでも連れ帰るって言ったら?」


 念の為尋ねてみる。


 すると、金髪の男は顔を歪ませ、愉快そうに笑った。


「俺たちに刃向かった奴は、どういうわけか死体で見つかるらしいぜ?」

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