第16話:尋ね人

 ◇


 入学式と魔力検査を終えた俺は、寮の部屋に戻ってきていた。


 シーシャはユリアと一緒に部活動や研究会の見学に行くということで、俺だけが戻ってきている。


 俺は近いうちに退学することを虎視眈々と狙っているので、わざわざ人間関係を新たに作るようなことはしなかったのだ。


 まあ、ちょっと違うが仮面浪人の一年生みたいな感覚だ。


 故に今は一人。


「はああああああああ……疲れた!」


 俺は部屋の真ん中で大の字になって叫んだ。


 人が多すぎるし、何もかもが上手くいかなかった。


 部屋に戻ってきた途端に疲れが一気に降りかかってきた。


 なお、叫んでも寮の部屋は壁が分厚いため隣への迷惑にはならないらしい。


 この辺はさすが貴族向けの学校の設備だけはある……と思いつつも、やっぱり男女同じ建物内で過ごすはさすがにおかしくないか? とは思う。


 部屋は違うとしても、男女別で寮棟が分けられていないのはおかしい。……まあ、これは現代日本の感覚であって、異世界に持ち込むのが間違いか。


 各部屋に鍵はあるので、ホテルみたいなものと思えばそれほど問題はないしな。


「……にしても、想定以上に評価されちゃったな」


 そもそも、セントリア貴族学院のレベルがこれほど低いとは思わなかった。


 全力で挑んでも試験には通らないと思っていただけに、かなりのギャップである。


「少し、寝るか……」


 俺は、二段ベッドの下側——唯一、この部屋で俺だけが占有しているエリアへ向かい、眠気に従ったのだった。


 明日からは、本格的に学院生活が始まる。


 昼からぐっすりできる日々とも今日で本当の意味でお別れた。


 やれやれ……。


 ◇


 ドンドンドン‼︎


「……ん?」


 俺は、部屋を叩く音で昼寝から目覚めた。


 もうこんな時間か。


 窓の外から差し込む光はオレンジ色になっており、もうすぐ日が暮れそうになっている。


 それにしても、誰なんだ?


 シーシャは自分用の鍵を持っているはずなので、俺が鍵を閉めているから入れないわけではないはず。……いや、よく考えればそうとも限らないか。


 失くしてしまったとか、部屋に鍵を入れっぱなしにしてしまった可能性もある。


 仕方ない。開けに行こう。


 俺は重い身体を気合いで起こして玄関へ向かった。


 ガチャ。


 眠い目を擦りながら扉を開けると——


「……? 誰だ?」


 見知らぬ赤髪赤目の少女が立っていたのだった。


 どこかで見たことがある気もするが……あっ、同じクラスにこんな感じの子がいた気がするな。


 しかし、何の用なんだ? 思い当たることがなさすぎる。


 もしかすると、シーシャに用があって来たのかもしれない。

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