卒業

夜桜月乃

少なくとも私は、そう思う

 最初にクラス替えの振り分けを見たときは、「知ってる人いるけど少な」というものだった。


 仲の良い人が他クラスに固まるという反応に困る結果だったのにも驚いたけれど、私のことを知っている人が少ないことに、大丈夫かなと、失礼に当たりそうなことを考えた。


 けれど最後になって、最高のクラスは最後の、このクラスになるということを、同時にわかってもいた。



 クラス替え後、慌ただしく始まるのは修学旅行についてだ。


 行き先は、沖縄。幾度となく聞かされてきて耳タコな平和学習、自由行動の計画や就寝班決めに、体験内容。やることはたくさんあった。

 楽しそうにしているなぁと、後方彼氏面して眺めている私がそこにいた。このクラスはうるさいクラスという認識が確立された。


 沖縄は結局台風で行けなかったけれど、それも一つの思い出となる。


 想像する時間も楽しいじゃないか。

 このお陰で、さらに仲が深まった状態で行けるじゃないか。

 楽しみは後にとって置くものだ。


 確かに残念だったかもしれないけれど、みんなこの状況を、楽しんでいたように思う。



 長崎への修学旅行。場所が変わっても、大きなイベントなことに変わりはない。


 気合入ってるなという私服、適当そうなラフな格好、なぜか体操服な人。それぞれの思いを胸に、新幹線に乗り込む。

 何をしていても楽しいと感じられる、そんな空気だった。


 賑やかなバスガイドさんがパーティに加わり、解説も交えながら景観を楽しむ。みんな眠そうだった。


 しっかり迷った市内散策に、ホテルの豪華な料理。うるさいお風呂に、レクリエーション。

 存在した恋愛イベントに、噂好きの夜の集まり。私は即寝た。


 ホテルの人やバスガイドさんに別れを告げ、三日という時は一瞬で過ぎ去る。


 またみんなで行きたい、そう思うかもしれないし、そう思ったりもしたけれど、こういうのは一度きりだからこそ特別なものになると、そう思う。



 修学旅行が終われば、体育祭と文化発表会がやってくる。


 普段の賑やかさ以上の声での応援に、耳は悲鳴をあげそうになるが、何事にも楽しく全力で取り組めるのがこのクラスの良いところだ。


 大縄は少しぐだり気味だったけれど、それ以外は上々な結果だったように思う。


 文化発表会も、――替え歌はどうかと思うけど――楽しんで取り組めていただろう。


 団結力は確実に他クラスより上。そう確信できる程度には、うるさかった。


 何度でも言う、うるさい。



 三学期の話題は、基本的に受験か恋愛の二択。というかもはや後者が多い。


 バレンタインは先生が男子に発破をかけ、大多数は撃沈する。

 かわいそうと、特に思っていないことを考えながら、母親に貰ったものと妹が作った余り物を食べる。いつものことだった。


 体育では、男女合同ドッジボールが開催され、男子は女子を本気で狙わないの下、クラス対抗で行われた。ごめんなさいと言いながら投げるの、気持ち悪いと思った。


「この場に在るのは敵か味方か。当たるのは油断しているから悪い」という言い訳を考えながら、軽いフェイントを挟み女子に当てると物凄くヘイトを買った。

 こういうので良いんだよ、と思った。


 と、まあ、恋愛系の話題が多くて、受験前でも緩いこの雰囲気は好きだった。


 私はと言えば、外見とかは好みでも、内面わからないと無理だなという、言い訳染みた結論に落ち着いた。



 受験の手応えに一喜一憂しつつも、時間というものは無慈悲に、自動的に流れ、否応なく卒業はやってくる。


 別れというものは確かに悲しいかもしれない。

 クラスメイトに関心がなくても、近くにいないという喪失感は感じるだろう。

 けれどそれは、嫌なものではないと思う。


 こうしておけば良かったという後悔もあるかもしれない。

 けれど、その“後悔する選択”をしたからこそ今がある。やり直したとしても、本当にその“思い描いた未来”になるかもわからない。

「あの選択をしたから今がある」と、胸を張れるようになれば良い。


 もっと一緒に居たかった、話したかったという思いもあるかもしれない。

 けれど、別にそうすることに学校という場所は必ずしも必要でもなくて、繋がりは既に存在するのだから、きっかけを新しく作れば良い。



 卒業したからといって、私達が出会い、共に過ごしたという事実は変わらない。


 少なくとも私は、そう思う。

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