第4話 アイエエエ!モンスターナンデ!?

 帰ってきて気づいたのだが、俺の権能ってダンジョン内でしか使えないから冥界に行こうと思ったらもう一度庭に穴をあける必要があるわ。


 悠々自適に自宅からダンジョンを拡張する計画が水の泡です。どうもありがとうございました。


 まあそのくらいは別に構いやしない。だが、さっきはちょっと面倒だなって思って家をダンジョンにしてしまおうと思ったのだけど、よく考えたら何のために冥界だけ残してあとは埋めなおしたのか訳が分からなくなってしまうわ。


 それに、家をダンジョンにしたらマナが充満して下手したらモンスターが発生してしまうことに気づいて止めた。


「冥界冥界って言ってるけど、冥界って深度のことなんだよな」


 厳密にはよく知らないけど、協会が定めた深度以下の階層をコレクター含め我々が『冥界』などと呼んでいるだけで、俺が作ったあの空間自体に特段名前があるわけではない。


 とは言えそれだと味気ないのもまた事実。


 なにか特別な名前でもつけようかと色々と考えてみるが、こういうのってあんまり思いつかないものだ。


 眠くなってきたので今日は寝よう。そうしよう。







 起きました。


 寝る前に名称を色々と考えてみたものの、別に良いのが思い浮かばなかった。

 それは良いとして、今日も今日とてダンジョンの拡張をしましょう。


 昨日の時点でダンジョンないじゃなければ俺の権能は扱えないことが分かったので、とりあえず使い道がない庭に人一人入れるだけの穴をあけておく。これくらいならダンジョンだとバレることはないだろうし、モンスターも湧くことはないだろう。この穴は入り口として残しておくとする。


 さて、権能を行使して機能作った冥界を見てみるのだが。


「……………………」


 は?


「気のせいかもしれない。もう一度見てみよう」


 ………………………。


 アイエエエ!ナンデ!?モンスターナンデ!?


 失礼、取り乱した。


「いやほんとになんで!?」


 端的に状況を説明しておこう。

 俺が作り出したダンジョンにモンスターが湧いている。それもただのモンスターではない。体長が五メートルほどある黒い竜だ。

 日本神話に出てくるような蛇のような龍ではく、西洋の伝承などによくある爬虫類の特徴がある二本足で立っている竜である。


 俺が作った空間内で、窮屈そうにしているのは些か可哀想なのでちょっとダンジョンを拡張してやろう。ほれ。


 ドラゴンが余裕をもって過ごせる空間に拡張した。すると、ドラゴンは少し驚いてから嬉しそうな反応を見せた。……なんか可愛いな。


 拡張した空間に合わせるように巨大化し始めたので、ちょっと引いた。おい、本来はもっとデカかったのかよ。なんか俺が小さくしたみたいで悪い気がしてきた。すまんドラゴン。


 というか、なんで一日も経たずにモンスターが発生してるんだよ。普通はもっと時間を掛けるもんじゃないの?


 そんな疑問を抱くが、まあダンジョンなんだから何があっても不思議ではないか。ダンジョンとしての空間が出来たのであれば、コアを守るモンスターがすぐに生み出されるのは自明なのかも。


「会いに行ってみるか」


 恐らく、俺が襲われることはないと思う。

 そもそも、ダンジョンのモンスターはコアを守る習性があるのだから俺が襲われたらお終いである。

 理屈では分かっているのだが、俺がドラゴンなんて超常生物を目の前にして冷静でいられるとは思えない。


 とは言え、なんか大丈夫な気がするんだよな。

 人間としての理性は対面するべきではないと語り掛けてくるのだが、コアとしては平気やでって言ってくる。


 そんな二律背反に葛藤していたのだが、うじうじ考えているよりは行動した方が良いだろって思い立った瞬間に覚悟は決まった。

 案ずるより産むが安しって諺もある。先人の知恵に則って俺は行動に移すとしよう。


 昨日振りの瞬間移動で、コマ送りのように景色がガラッと変わる感覚になんとも言い難い感動を覚える。


 俺が現れたのはドラゴンの目の前。月並みな感想だがデカい。ひたすらにデカい。超絶デカい。ただそれだけです。あ、あとかっこいい。ドラゴンって男心がくすぐられるよね。


「む。おお!お主が主か」

「は?」


 喋ったんだが?

 え、モンスターって喋るの?聞いたことないけど。いや聞いたことないんだから目の前のこいつが異常なんだよ。……少し冷静になろう。


「ふはは。驚いておるな」

「……いや、そりゃ驚くというか」

「ドッキリ大成功ってところか?」


 なんでそんな俗っぽいんだよドラゴン。

 あれか?年末にドッキリ特番を笑いながら見てるオヤジ気質なのか?


「あ、あの……。なんで喋れるんで?」

「うん?そりゃあ、主から知識を得ているからな。なに、そんなに改まってどうしたのだ。立場で言えば主の方が上だぞ?」

「上下関係はこの際気にしないわ。え、知識を与える?俺そんなことした覚えはないんだけど」

「ふむ……。主が人間でありながらコアとしての性質も持ち合わせているが故のバグのようなものなのかもな」

「……何か知ってるの?」

「いや?我だってなんも知らんよ。主から知識を吸い取ったと言うだけで、それがなければ我は何の知識もないただのモンスターだ」


 なんか色々とイレギュラーっぽいのは分かった。


「主よ。あまりモンスターに知識を与えてはならぬぞ。我だから良いものの、その内よからぬことを考える輩が出るかもしれん」

「なんでそんなに常識的なんだよ……」


 別に俺は知識を与えたくて与えたわけではないっての!


 

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