輪廻が廻れど、少女は還りを待つ

シュピール

第1話

 目の前に広がるのは1面の黒。濃淡も何もない暗闇だった。自分は死んだはずだった。

「あら、おかえりなさい」

 星のない夜空に浮かぶ月のように、その少女は暗闇の中に佇んでいた。

 妙に綺麗で、明瞭で、現実味がない姿。けれど、会ったこともないはずのその少女が、何故だかとても懐かしく思えた。

「あなたは?」

 自分は少女に問うた。

「覚えていなくてもいいの。……そして、覚える必要もないの」

 深い、憂いを帯びた声だった。答えになっていなかったが、それはもうどうでもよかった。少女の声を聞く度に、意識がぼやけていっていた。

「行きましょう」

 手を、引かれているような気がする。それすら曖昧で。

「灰になって、混ざりあっても、私はあなたを忘れないから」

 記憶も感覚も、もう消えていた。

「だから生きて、そして廻るの。約束よ?」

 少女の声だけが聞こえていて、それが世界の全てになった。

「行ってらっしゃい。愛しき主よ」

 死の先にあるのがこれなら、自分が何者であれ幸せだろう。


 意識が溶ける最期に、そう思った。

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