デスゲームの生き残り
高久高久
生き残りの証言
「これから話を聞く相手の事は聞いているか?」
先輩に聞かれ、私は頷く。
今、取調室で待っている男性はとある事件の生き残り――つまり被害者だ。
何者かに拉致され、強制的に【ゲーム】と称した残虐な行為を行わされた、と私は聞いている。
「話を聞いていて、吐きたくなったら出てけよ」
そう言われて少し私はむっとする。何時までも新人扱いだ。だが少し心配であるのも確かだ……いつでも部屋を出れる様にしておいた方が良いかな。
そんな事を考えていると、取調室に着いていた。先輩が扉を開け、私も続いて中に入る。先輩は椅子に座り、私はその後ろに立つ。
被害者の男性は、憔悴しきった様子で項垂れていた。先輩が名前などを確認するが、はっきり聞こえているのか疑わしい程曖昧な感じで返事をしている。
「では……お辛い所申し訳ありませんが、事件についてお話を聞きたいと――」
先輩の言葉に、被害者は身体をびくりと震わせる。先輩の「大丈夫ですか?」と言う言葉に、俯き身体を震わせながら頷く。
俯いたまま、ぽつぽつと被害者は語りだした。
――突然の事だったという。
急に何者かに襲われ、目が覚めたら見知らぬ部屋だったという。窓は無く、扉は施錠されていた。
家具が無く生活感のないその部屋には、モニターと三脚に乗せられた監視用のカメラだけがあったという。
戸惑いつつも、被害者はなんとか部屋を出ようとしたという。だが扉は開かず、脱出手段は無い。持っていたはずのスマホなんかも、何もない。
途方に暮れていると、モニターが映ったという。何もしていないのに、自動で映ったらしい。
映し出されたのは、仮面を被った何者か。その何者か――犯人は被害者に向かって語り掛けたという。
『このままだと、お前は死ぬ。そんな最悪の結末を回避したいなら、覚悟を見せろ』
「アイツはそう言って、俺に強要したんです……制限時間内に、ささくれを、何の道具も使わないで剥け、と――!」
身体を強張らせながら被害者が言う。その言葉に、先輩も私も、言葉を失っていた。
……えっと、今何て?
「あの、ささくれを、剥け、と?」
「そうです! あの犯人! 何の道具も使わないでやれっていうんですよ!」
被害者が叫ぶ。うん、私の聞き間違いではなかったようだ。
えっと、生きるか死ぬかって時にやらせる事が、ささくれを剥け、と?
「……なんて残虐な犯人なんだ」
先輩? ねぇ先輩? 口元押さえてるけど、吐き気でも催したの?
「俺の手には飲食店勤務者特有の手荒れがありました。細かいものから、少し皮膚が摘まめそうなくらいのものまで……それら全てを、10分くらいやるから剥け、と」
結構時間くれるな
「たった10分とか……何て恐ろしい犯人なんだ……」
え、たったなの?
「10分なんて覚悟を決めたりしてたらあっという間だ……そこからそっと剥くことを考えたら、何時間かは欲しい所だ……ささくれた、死んだ皮膚だけを取る作業は時間がかかる。無理矢理やったら生きている皮膚まで巻き込んで、皮を剥いだようになっちまう。あの痛み、想像しただけでチビりそうだ……そんな事をたった10分でやれっていうのか……!」
おかしいな、私だけ別の話か別の言語を聞いてるのかな?
「それでも、俺、やりました……こんな有様ですよ……」
そう言って被害者が手を見せる。無理矢理ささくれを剥いたせいで所々が傷になっており、痛々しい。確かに痛々しいが、なんというかその、度合というか。
「……頑張ったんだな。辛いだろうに」
先輩? 何か凄い同情してません?
「……お前、この話聞いていて平気なのか?」
先輩が私の顔を信じられないような物を見る目で見てきた。多分私も同じ目をしてると思う。
「いや、だって、ささくれですよ? 命と引き換えに見せろって覚悟にしては規模が……」
「ささくれだぞ!? 道具も使わないとなると、生きたまま皮剥いでるのと同じだぞ!?」
先輩の言葉に「そうだそうだ」と言わんばかりに頷く被害者。
「いや『やらなきゃ殺す』って言ってるんですよ? それとささくれを剥くのってつり合い取れてなくないですか? 普通やるなら爪を剥ぐ……は軽すぎるか。指を落とす? うーん……カッターナイフみたいな切れないやつでやらせるか……あ、それじゃ時間が足りないからやっぱ普通に指落とす、だよなぁ……いっそ腕を切り落とすくらいの方が……」
「……お前、なんて残虐な事考えられるんだよ」
え、でも命を秤に乗せるなら、これくらいのことしない?
先輩がわなわなと震えている。被害者は吐き気を堪えているようだ。
――そんなわけで、最終的には私が
ちなみに犯人は普通に捕まった。
デスゲームの生き残り 高久高久 @takaku13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます