ささくれ立つ世界

歩弥丸

問題編

 新世界旅行社では、ここのところファンタジー世界群への旅行企画が続いている。無理もない。『基軸世界では絵空事だった剣と魔法の世界』を(死んで転生してハードに世界を生きることを思えば余程)ライトに体験できる、という触れ込みは、旅行客を惹きつけて止まないからだ。

「いい加減飽きられるんじゃねえかなあ、とは思うんだけどな」

 帰りの航界機の制御室で、代表は言った。注文の多い設計士に付き添って王都に行った、その帰りの便である。

『それはお客様の需要が決めることでしょう。それより、着界制御を』

 制御系AI が答えた。

「はいはい」

 承認ボタンを捺そうとして、代表は気付いた。

 指にささくれが出来ている。

「いてっ……いつの間に?」


 ※ ※ ※


「マスター! いきなり団体様の引率させるとか非道いじゃないですかマスター!!」

 着界・降機するなり新入りが苦情を言ってきた。

「でもやれただろ? アテンダントたちが付いてるんだから何とかなるんだよ。それと『マスター』じゃなくて『代表』な」

 代表は答えた。

「それにしても、王都、空気乾燥してましたっけ?」

 新入りは言った。

「何の話だ?」

「指にささくれが出来ちゃって。行きは何とも無かったんですけどね、どうもお客様にも指が気になると仰る方がいて。適当に軟膏配っときましたけど」

「あー、そりゃ乾燥してたんだろうなあ」

 代表自身もささくれが出来ているので、自然にそう思いはした。

『あのう、宜しいですかマスター』

 キャビンアテンダントF51号が話に割って入ってきた。

「何だ?」

『マニピュレーターの先端に違和感があるのですが、これは一体……?』

 新世界旅行社のキャビンアテンダントは、みなアンドロイドだ。それはAIの思考を以て異世界において人間を補助するとともに、『非常時』に機械的出力を以て人間には出来ない対応をさせるためなのではあるが。その外形上は人間と寸分違わぬ皮膚は実のところ単分子コートの施された平滑な外装に過ぎず、乾燥程度でどうにかなるものでは無いはずなのだが。

 アンドロイドの指先にも、ささくれがあった。

「…………なんで?」

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