第24話 自害

「官房長官。一般市民の邸宅にガンシップを派遣するのは無謀ですって」

 

”複眼”の男――大和田は含み笑いをして見せ、「問題は全て、総理が解決してくれますよ。なぜかって、自衛隊の最高責任者は首相だからですよ」と言った。

官房長官、と言った秘書の地王田は、不安で仕方なかった。

結局民衆は、政治の傀儡でしかないということの証明であるということだし、首相という分かりやすいリーダーの首を刎ねれば事態は収束するということがその証明でないのか。


民衆は、馬鹿だ。葉巻に火をつけて大和田は紫煙を吐き出した。


「メディアを信用しきってるし、餓鬼共はお得意のツールでSNS三昧。監視されているとも知らずにな」

けらけらと笑う大和田。



「榊さん。いる?」


自宅の洗面台で、バスローブ姿の暁がいた。


「ああ、いますよ。すぐに代わりますね」


取次の男性から代わったのは榊という警視庁キャップだった。


「今すぐTIへの報道を規制して」


すると、榊は溜息をついた。「都合のいいようにこき使わないで。我々民法は、いつだって民衆の味方よ。それは戦時中でも」


「どういうこと?」


暁は訳が分からなかった。なぜかというと、榊は右翼としての活動でもあるTIの活動を黙認し、上司にもそれを要請していたのだ。

それが寝返ったような返事に、暁は困ってしまう。

といっても、何に寝返ったのかは分からないが。


「政府から、各民放に緘口令が敷かれたんです。『余計なことは報道するな』と。その”余計なこと”って、どうせTIがらみだろうと。そういえばTIの兵士が拳銃を駐屯地外へ持ち出し、SAT兵士を殺害したとホットラインで流れてきましたよ。それに対する”緘口令”でしょうね」


暁は言葉が出なかった。


「じゃあ、もうこのネタ報道に回すんで」


「……そうか。わざわざ教えてくれてありがとう」


電話を切って、そのあと壁を殴った。息を乱しながら、「ふざけやがって」と罵倒を言う。

そのあと、東警察庁長官に連絡をかけた。榊のことを話すと、彼は「なら、TIは解体だな」と言った。


「待ってください! それならテロ組織はどうなるんですか」


「そんなものより、自分の首の安心をしたらどうだ。暁司令官」


通話が切れた。暁はしばらく放心状態に陥った。

どうすればいいんだろう。彼女は今後の人生を有意義に過ごせないほど、子供を殺しすぎた。

きっと、辞職だけではすまない。テロ組織に殺されるか。はたまた、刑務所で死刑か。

洗面台の扉を開けた。そこには小型拳銃があった。自害用のものだ。

弾倉を交換して、頭部にそれを当てた。

息を吸ったのと同時に発砲した。

 

もうこの世に未練はない。そんな女性の血だまりが、不潔にも床に広がっていく。広がっていく。

 

  

 

 

 

 





































































































































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