ふざけんな

no name

ふざけんな

 目の前の道端がささくれている。

 所謂歩行者が歩く所、丁度白線の部分が綺麗に捲れ上がっていた。成人男性の平均身長辺りほどベロンと捲れていた。

 物体はコンクリートなのに対し、くるくるとロールケーキのように巻かれており、物理法則を無視している。恐る恐ると触ってみるが、柔らかくとも硬い、そんな触り心地だ。

 一度スマートホンで写真を撮ってみる。自分の頭が正常なのを確かめたくてSNSに画像を上げてみる。いつもは反応などつかない日常ではあるが、この画像を上げた途端見たことのない数字の反応が示された。続け様に降ってくる嵐のような他人の感想がつらづらと綴られて行く様を見ると、どうやら自分におかしなところはないらしい。人の感想をその場に佇みながら眺めていると、どうやらこの現象は他の所でも起きているようだ。流れてくる画面を見ていると、日本の各地や、海外までも、ありとあらゆるところで騒ぎになっている。あるところは土が捲れていたり、あるところは木も巻き込まれていたり、様々だった。

 まずは国土交通省に連絡を入れてみては?との報告もあったもので、それは確かにそうだとすぐさま通話を試みた。場所や状態の詳細な情報を口づてした後電源を切り、また呆けた。このまま立ち去ってもいいのだろうが、人生初のスポットライトの真下、ここで引き下がるのはなんとも惜しい。そう思うのも無理はなく、地面のささくれをぼうっと見やる。電話をしたからにはなにも触らずそのままの方が良いことは知っている。下手に手を出して状況を悪化させるのは実にまずいことだ。地域住民の非難の声が飛び出すこと間違いなしだ。それに、今に道路整備のために人が来ることだろう。それはなんとしても避けたかったし、現実で目立つことなどしたくはない。だが、しかし、このくるりと曲がったコンクリートのことが無性に気になる。力を加えれば綺麗にこの地面が剥がれるのではないかと、妙に胸中がソワソワとして落ち着かないのだ。もしも今この瞬間、腕に力を入れてみてはどうだろう。きっとこの地面は更にくるくると捲れては綺麗に接地面が分断されるのではなかろうか。日焼けした皮膚がぺりぺりと剥がれるあの爽快感を思い起こす。途中で途切れることなくスゥッーと皮を剥くあの感覚は実にたまらない。もしも今目の前にあるささくれを剥げたならきっとそういう気持ちになるのではないかと好奇心が疼いて仕方がない。

 捲ってみたい。

 剥いてみたい。

 取ってしまいたい。

 そんな気持ちに支配されて、そうして、たまらず両腕を目の前に立つコンクリートへと伸ばしてみせた。言い訳はどうしようか、とか、これでまた注目を浴びれる、だとかそんなことが頭の片隅にあるが、それは本の一部の欲求にすぎない。今はただ、あの快感を味わいたかった。

 どんどんと足を踏ん張り、体に力を張る。額に僅かに朝が滲むが、もう少し、もう少しで分離できる。そう思った途端、ぷちり、と音を立てて地面が揺れた。なんとなく自分自身も揺れているようで、これが武者震いかと感動さえした。

 した。

 したのだ。

 間違いなく、自分はやり切ったのだとそう思った瞬間だった。


 あっ。


 スマートホンから警告音が鳴った。


 やっちまった。

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ふざけんな no name @gunyuukakkyo

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