第七話 希望の光とギズー・ガンガゾン Ⅰ

 東大陸の中央部、ひときわ大きな城が建つケルヴィン領主城はそこにあった。

 大きな城門に城下町、にぎわう商店街。厳重警備による門番は破られる事はなかった、この城は代々ケルヴィン家に生まれる長男だけがその後を継ぐ事が出来る王族である。

 ここは、幾度と無く戦争と戦乱が起きている。その大半の勢力は帝国との衝突、帝国はケルヴィン領主が占めている領土を狙って度々攻めてくるらしい。その所為で以前は兵力が不足していた時期があった、だがここ半年は兵隊が一人も死んでいないと言う奇妙な噂が流れている。その噂は本当だった。

 帝国の下っ端兵士をいくら送り込んだ所で場内にいる一人の少年に全滅させられてしまうからだ。その少年の名前は“ギズー・ガンガゾン”、東大陸で殺人狂と言われ最高位の医者とも言われている。

 彼は偶然に中央大陸からこの東大陸へと渡った、一つ目の偶然は中央大陸の南部にいた事、二つ目の偶然はそこを通りかかったケルヴィン領主の一行をある種の病気から救った事。そして三つ目はケルヴィン領主が帝国を嫌い、そしてこのギズーという少年の事を気に入ったからである。


「……」


 だからこそこの少年はここにいる、ケルヴィン領主の城内の一室。広々とした部屋が彼の部屋だ。


「全く」


 彼は一日中部屋から出ずに外の景色を眺めていた、彼自身さっさとこの退屈でしょうがない場所から逃げ出したいと考えていた。


「フィリップの奴め、俺を一体いつまで拘束しているつもりだ」


 少年は現在のケルヴィン領主の名前を呼び捨てでぼやき、近くにあった領主の壁紙に向かって吐き捨てた。


「俺を無理矢理こんな所に押し込めやがって、俺は一刻も早くあいつの事を探さないといけねぇのによ。あぁ! ちくしょう!」


 ベッドの上にばふっと飛び乗り体が沈んでいく感覚を味わった。


「ギズー、そんなに騒がないでくれ。落ち着かないではないか」


 急に壁が二つに開いた、そこから大きなモニターとスピーカーが出てきた。モニターにはフィリップが映し出されている。


「いい加減に俺を自由にしてはくれねぇか? 退屈でしょうがないぜ、これなら帝国の雑魚兵達と遊んでる方が幾分マシだ!」

「そうはいかない、帝国も少しは分かってきたみたいだ。“帝国特殊任務部隊中隊長レイヴン・イフリート”をこちらへと向かわせたらしい、つい先日南部の街で戦闘があったと報告を受けている」

「レイヴン? そんな奴俺がぶっ殺してやるさ、あいつと会う為には何でもしてきた。本当なら今すぐにでもこのくそつまらねぇ城から抜け出してまた旅をしたいぐらいだ!」

「しかしだな」


 少年がポケットから煙草を取り出して火を付けた、一息ついてから煙を口から吐き出してその煙が消えるまで眺めていた。


「俺はダチを探してんだよ」

「ならばその親友も我が城に招待すればいい話ではないか」

「それじゃぁ意味がねぇ、俺が探して見つけないと意味がねぇんだ!」


 煙草を口にくわえながらベッドから起きあがり吸い殻が沢山積まれている灰皿で煙草の火を消して暗い表情でまたモニターを見つめた。


「っけ、面白くもねぇ!」


 そう言うとギズーは剣と銃を持って部屋を出た。フィリップにはギズーが部屋を出たときの扉が勢いよく閉まる音だけ聞こえた。


「面倒くせぇ……何で俺がこんな目に遭わなきゃ行けないんだよ」


 部屋から出たギズーは外に出る為に廊下を歩いていた、そしてイライラしながら敬礼してくる兵士達の顔を見ずに重たい足を上げながら歩いている。


「煙草も残り少しか、そろそろ禁煙でもするかな」


 少し笑いながらそう言いつつまた煙草を一つ取り出して火を付けた。

 中庭に付いたギズーは適当な大きさの石に座って黙って煙草を吸っていた、何処か苛つきながら空を見上げる、青い空に所々高い雲が浮かんでいる空を見上げている。


「レイ、お前は何処の空を見てるんだ?」


 遠い場所を見ているかのようにずっと空だけを眺めている、静かでほんのり乾いた空気が煙草の味を一層コクのある物にしていく。それが今のギズーにはとても気持ちよかった。そして美味しかった。


「暇だなぁ、何かこう……面白い事とか起きねぇかな?」


 冗談交じりにそう言った瞬間城内で大きな爆発音が聞こえた。


「あ?」


 重い腰を上げて爆発した方を見る、そこには二人の少年らしい人間が立っている。二人はきょろきょろと辺りを見回しながらズカズカと城内へと侵入し始めた。


「へぇ、あの門番を倒したのか、やれるな彼奴等」


 他人事のようにクスクスと笑いながら煙草を吹かす、そして再び俺には関係ないと石に座りながら空を見上げた。




「なぁ、こんなに派手にやっちまっていいのか?」


 ガズルが遠慮がちにやる気満々のアデルの方を見る、アデルは両袖をまくってボタンで留めた。


「何言ってんだよガズル、派手に行こうぜ?」

「俺、お前のそう言う所が嫌いだ」

「そんな事よりさっさと片付けようぜ。ほら来たぞ?」


 アデルは帽子をかぶり直して両腰に付けている剣をそれぞれ手に装備する、やれやれと言いつつもガズルは何時も通りの構えを取る。


「貴様ら! 何者だ!?」


 一人の兵士がそう言った、アデルは笑いながら突進する。


「中央大陸反帝国組織FOS軍だ!」


 低い体制でケルヴィン兵に突撃した、兵隊達は肩にかけていたショットパーソルを脇に構えて乱射してきた。弾丸がアデルの方へと高速で飛ぶ、だがアデルはニヤリと笑って剣を水平に構えた。


「遅い!」


 走る足を地面に吸い付けるかのように止まり水平に構えた剣を勢いよく横一杯に振る、金属同士はじける音が聞こえた瞬間アデルの前に凄まじい量の炎が放射された。その炎は飛んでくる弾丸を一瞬にして溶かした。


「法術剣士だと!?」


 アデルは目の前の炎より少し高く飛び一番近い兵隊へと突っ込んだ、兵隊は手慣れた手つきで銃を投げ捨て腰に差していた剣を手に取る。


「ここから先は一歩たりとも通さない!」

「いや、通らせてもらう!」


 ガズルが左手に重力波を作り出しそれを空に放った、空中に放たれた重力波は放物線を描き途中で止まった、そして一気に爆発する。その衝撃でアデルとガズル以外の人間はその場に倒れこんだ。


「ちくしょう、何だよこれ!」

「う、動けない……」


 ケルヴィン兵達は身動き取れずに自分たちの目の前をゆっくりと歩いてく二人を見上げながら叫んだ、アデルとガズルは楽しそうに口笛を吹きながら第二の城門を開け、中に入った。


「さて、これからどうする?」

「取り敢えずケルヴィン領主をひっつかまえて事情が事情だから説明しないとな、それで断られたら無理矢理にでも連れて行く。その前にギズーに会えればレイの事を話して即連れて行くってのも手だけど」


 アデルが両手に持っていた剣を両腰の鞘に収めながら喋った、ガズルはグローブを付け直してうなずく、そして目の前に数百はいるかというケルヴィン兵達が立ちふさがる。


「貴様達、ここをケルヴィン領主様の城と知っての働きか!」

「あぁ、そうだ。こっちも事情が事情でね、ホントはこんな荒っぽい事したくなかったんだが門番が融通の利かない奴でよ、仕方なくこうなっちまってさ。あんた達も俺達の邪魔するか?」

「ガキが、調子にノリやがって!」


 中央の男が大声で他の兵隊達に命令を下す、大声で一斉に飛びかかってくる兵隊達をガズルが重力波で押さえ込む。しかし一部の兵隊がその重力波をくぐり抜けてアデルの方へと突っ込んできた。


「死ねぇ! ガキ!」

「邪魔だぁ!」


 瞬間的にアデルは両腰に備え付けた剣を両手に掴むとまるで踊るように舞った、右、左、斜め下、剣を振るった。ずたずたに切り裂かれていく兵隊を尻目にアデルは次の目標を決めそこに法術で火炎弾を作り投げつける。


「喰らえ!」


 火炎弾は灼熱の火の玉となって兵隊達の中心部の方に放り込まれた、地面に着床すると同時に辺り一面を爆発で兵士を巻き込む。その爆発で十数名の兵隊を巻き込み戦闘不能にさせた。


「やりすぎだよ、全く」


 ガズルはやれやれと首を振って天井に着き出していた拳を床にたたきつける仕草をした、すると重力波がアデルの放った炎を吸い込みながら真っ赤に色を染めて重力波が地面にぶつかると同時に大爆発を起こした。


火炎重力衝撃フレア・ビィ・インパクト


 城内では二度の爆発音でぞろぞろと次から次へと兵隊が集まってくる、だが兵隊達は目の前の光景に恐怖を覚えなかなか動こうとはしない。


「つ、強すぎる」

「こんな奴等を相手出来るのはもうギズー様しか」


 所々そんな言葉が飛び交う、アデルとガズルはつかつかと目の前の階段を上る。しかし途中でその足が止まった。

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