第三話 中央大陸最南端の港町―グリーンズグリーン― Ⅰ

 砂漠の町を後にして三週間、少年ら三人は中央大陸の最南端、グリーンズグリーン(注意:大陸の名前ではなく町の名前)にたどり着いた、ここから出る船に乗って東大陸『グリーンズグリーン』へと出向するためである。

 この町の名前の由来は唯一グリーンズグリーンへとわたれる定期船が出ている事からその名前が付いている。東大陸では未開の土地がまだ多くそこにはまだ多くの謎が隠されていると学者は語っている。

 知的探求心が豊富なこのニット帽をかぶった少年は辺境の町に近づくにつれて輝いていくようにも受け取れた、事実独り言が多くなった。


「……における……の……解釈は」


 眼鏡が不気味に光り出し途中の町で購入した分厚い本を片手にくすくすと笑うこの少年の隣にいる黒い帽子をかぶった全身黒ずくめの少年が少し距離を置いた。

 同時にその少年の隣では嫌に冷たい何かを放射している青いジャケットを羽織った少年が眼をつり小声で何かを呟いていた。


「俺って、不幸」


 黒い帽子をかぶった少年はそう心の中を声に出していた。






「ここが中央大陸最南端の町グリーンズグリーンか」


 黒い帽子をかぶった少年が二人に聞こえるように大声で喋った、だが二人とも未だぶつぶつと何かを呟きながら黒い帽子をかぶった少年の話は全く耳に届いては居なかった。それどころかズカズカと先に進んでいく。


「レイ、ガズル……テメェら人の話を聞けぇ!」


 先行く二人の少年の頭を思いっきり叩いた。

 しかし同じ体制で同じ言葉を発しながらまだ何かを呟いている。これに等々堪忍袋の緒が切れた黒い帽子をかぶった少年はグルブエレスとツインシグナルを鞘毎引き抜き


「いい加減にしろ!」


 二人まとめて横から一閃をたたき込むんだ。


「「てててて、何すんだアデ……」」

「何すんだじゃねぇだろ、ガズル……その癖治せって何遍言わせんだ! レイもレイだ! 全く、グリーンズグリーンに近づくに連れて寒い殺気が漂って来るっつうに」


 二人はアデル鬼神の如き表情に自分たちが固まっていた。

 周りから変な目で見られて居る自分たちに我に戻りこの状況を把握した、しかし、それは遅すぎたのかも知れない。周りの人間達はくすくすと笑い出し次第にその笑い声は大きくなっていた。


「まったく、さっさと大陸を渡ろうぜ」


 アデルは二人の襟元を掴むと引きずるようにその場を後にした。


 歩くこと二時間、ようやく港が見える所まで歩いてきた三人はそれらしい船を探して歩いていた、見る船見る船すべて同じように見えるのは気のせいだろうと三人は時間は違うけれどほぼ同じ事を考えていた。


「なぁアデル、誰かに聞いた方が良いんじゃ?」

「それ俺も考えてた、ここはやっぱりアデルが」


 その時先頭を行く黒い帽子をかぶったアデルと呼ばれた少年が立ち止まった、後ろを振り向くとこの時を待っていたと言わんばかりの笑顔がその顔一面に広がっていた、その手には何か白い紙切れが握られている。


「こういう時のための運試しだ、くじ引きで決めようぜ?」


 二人はやれやれという表情でアデルの持つくじ引きに手を伸ばす、それぞれ一本ずつ握った所でアデルが最後の一本を掴む、そして力一杯そのくじ引きを引いた。


「俺は何も書いてないぜ?」


 ガズルが安心した顔で二人の方を見る、続いてレイも同じ表情でガズルに答えを返した。


「と言うことは?」


 二人はくすくすと笑いながらしょんぼりしているアデルを見た、手には赤くマーカーが引かれたくじ引きが握られている。二人とも等々限界が来て大声で笑い出す。


「言い出しっぺが当たれば世話ねぇぜ!」

「全くだねっ!」

「俺って付いてねぇ」


 アデルはションボリしたまま近くにいた船乗りにどの船がそうなのか聞きに行った。

 レイとガズルはその場で座り込みアデルが帰ってくるのを待つことにした、そのころアデルは船乗りに船のことを聞いて歩いていた。





「と言うことなんだけど、どれがその船なんだ?」


 一人の体つきが良い船乗りにめんどくさそうに聞いていた。


「あいにくだがその船なら二時間前にここを出ていっちまったぞ? 次ぎにここに戻ってくるのは三ヶ月後だ」

「はぁ!?」


 アデルは肩を落とし残念そうに首を下げた。

 アデルが二人の元に戻ってきた、二人はアデルのその表情を見て大体の予想が付いた、アデルが事情を話すと二人はやっぱりなという表情で肩を落とした。

 仕方なく三人はその町の小さな宿屋で今後の予定を考えるために三人で一部屋に泊まった、レイは窓を開けてそこに腰掛け、アデルは壁により掛かって、ガズルは椅子の背もたれを前にしてまたを開いて座っていた。三人の間には一定間隔の距離が空いていてどんよりした空気が間にはあった。

 暫く沈黙が続いて同時にため息が出た。


「これからどうする? とても三ヶ月なんて待てないぜ?」

「同感だ、その間に誰かがギズーって奴を捕まえちまうよ」


 アデルとガズルが交差するように言った、それはレイの気持ちを焦らせる物に変わっていく、だが……今じたばたした所で何が出来ようと言う物でもないしかといって何もしない事にもレイは満足していなかった。


「はぁ……どうにかならないものかな?」


 大きなため息と一緒にそんな言葉を口にした。


「取り敢えず今日は寝よう、みんな疲れてるし何もすることもないだろ?」

「そうだな、俺は床で寝るよ。レイとアデルはベットを使いな」


 ガズルは床にドカッと座るとそのまま腕を組み目をつむった、レイとアデルも渋々布団に入った。



 事件はその翌朝に起きた、ガズルは外の騒がしさに目を覚ましカーテンを開けて太陽の光が差し込む窓側から下を見た。そこには帝国兵が十数人ショットパーソルを肩に掛けて町中を走り回っている。


「全くこんな朝っぱらから帝国も暇なんだな」


 寝ぼけた顔で窓を開ける、冷たい空気が流れ込んできてレイの顔に突き刺さる。あまりの寒さにレイは目が覚めて窓の近くでボーっとしているガズルを見て。


「何してるの?」


 と呟いた、その声に後ろを振り返りお早うと一言返すとテーブルに置かれているパンを一つ手に取り一欠片むしり取りそれを口に運ぶ。

 アデルはまだ鼾をかきながらぐっすりと寝ている、レイは時計をちらっと確認するとまだ朝の五時を回って少しの時だと悟った。同時に外が何か騒がしいことにも気が付く。窓から身を乗り出し外を見るとそこにはガズルが見た光景と全く同じ物がレイの目には映っている。


「――帝国?」

「だろうな、ショットパーソルを携帯してるなんて帝国ぐらいだろ? それに腰には剣、極めつけはあの軍服。どこからどう見ても帝国兵だぜ」


 ガズルはパンをもう一つ取りレイの方に放り投げた、レイはそのパンを左手でキャッチしガズルと同じように食べた、暫く帝国兵の動きを監視しながら朝の寒い風に髪の毛を揺らせながら窓の縁に腰掛けている。アデルは未だ起きる気配はなさそうだ。

 それから暫く経ってから誰かが階段をもの凄い勢いで上ってくる音が聞こえてきた。一人、二人。次第にその人数は増えていく。だが部屋の前に来ても扉を開ける様子がなかった。


「ガズル、アデルを起こして」

「おう、お客さんみたいだな」


 小声で二人は話す。レイはゆっくりと壁に掛けてあったポーチから幻聖石を取り出すと霊剣に姿を変えさせた。ガズルはゆっくりと隣の部屋で寝ているアデルをさすって起こそうとする。だがアデルはピクリとも起きる気配がない。少し強めにさすっても全く起きない。


「こいつは、本当にいつまでたっても起きる気配がねぇな」


 仕方なくアデルを肩に担いで急いでレイのいる部屋へと戻る。レイはその姿を見て少し呆れた顔で左手で顔を覆う。


「昔からそうなんだ、一度寝るとまぁまず起きない」

「やっぱり昔からか、なら起きないなら起きないなりに仕事してもらおうか!」


 そういうとガズルはアデルの足をつかんでグルングルンと回し始めた。勢いがついたところで窓に向かってアデルを放り投げる。ガシャーンと大きな音を立ててアデルは窓の外へと投げ飛ばされた。ゆっくりと霊剣を横に構えて風の法術を整えるレイに


「先に行くぜレイ!」


 ガズルがそう言って窓から外に飛び出した。


「うん」


 その音と共に部屋の中に帝国兵士と思われる数名がなだれ込むように入ってきた、それを見てレイはニッコリと笑みをこぼし大声で


「おはよう御座います!」


 叫んだ、同時に構えていた霊剣を横に薙ぎ払う。その剣筋から一斉に風が吹き出し入り込んできた帝国兵士たちを壁に叩きつけた。同時にレイはその風に飛ばされ二人の後を追うように窓の外へと飛ばされる。

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