よく手入れされた彼女の手
プロ♡パラ
第1話
陶器のように滑らかで、つややかなその人の手。ささくれやひび割れなんてものは、その兆しや名残すらも、見つけることなんてできない。指の一本一本が優雅な輪郭を描いて、過不足なく小さな手のひらから伸びている。その指先にちょこんと乗った小さな爪は、よく磨かれていて、あたかも輝く貝殻のようだ。
その人の手にそっと掴まれると、わたしの手なんていうのは、まるで老いた鶏の足のように思えた。──実際、そうなのかもしれない。乾燥していて、ひび割れていて、皮膚が厚くなって硬くなっている。いつも何かしらの作業で冷たい水に浸っていて、何かしらの布を掴んだり絞ったりしていれば、こうもなろう。
彼女は──オルゴニア帝国の皇帝の、第五だか第六だかの皇女は──そんなわたしの手を目の高さまで持ち上げて、しげしげと眺めている。
やめろ! とわたしは心の中で悲鳴を上げた。あるいは、それは怒声だったのかもしれない。
その手を振り払いたかった。けれど、できなかった。その小さな手をそっと添えられているだけだというのに、どういうわけだか、わたしの手はそれを振り払うことができなかった。
「あなた」と彼女はいった。その声は何かの楽器の音のように涼やかだった。
「ささくれができているわ」
「──」
これが果たして、避寒地の別荘でした働きをする下女に対して言うような言葉なのだろうか? あるいは、これこそが、下女に対していう言葉ということなのだろうか?
皇女さま、あなたはなにもしらないのですね。
人間の手は、そういう風にできているのです。生きるためには働かなくてはいけなくて、そのためには手をボロボロにしながらも、仕事をしなくてはいけないのです。
「軟膏をもってこさせましょう。それを塗りなさい」
「──それでは仕事になりません」
「え?」
わたしは、ようやく皇女さまの手を振り払うことができた。
そして、ささくれを糸切り歯で噛んで──ふと、そこからいい香りが漂ってきた。彼女の香油の匂いが移ったのだ──そのまま、ぶちっと引き抜いた。
よく手入れされた彼女の手 プロ♡パラ @pro_para
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