第39話 わたしの婚約者 3
リディアと再会してから、2週間ほど経ったある日、玖実が以前言ってくれていた通り、本当に結婚のお祝いのプレゼントを持ってうちに訪問しにきてくれたのだった。玖実がリディアと会うのは、これが初めてのことだった。
「うわ、マジで美人じゃん! これが本物のリディア様?」
家に入ってきた玖実がかなり興奮した様子でリディアに近づいた。
「うわ、実物めっちゃ大きいんだ。なんか特別感あるな」
玖実はわたしと同じくらいの身長だから、わたしと一緒になってリディアを見上げていた。小柄な2人でお嬢様のリディアを見上げていると、なんとなく、白雪姫を連想してしまう。
すっかり興奮しきっている玖実とは違い、リディアはわたしとの2人でいる時間を邪魔されたと思っているのか、面倒くさそうにわたしに尋ねてくる。
「ねえ、詩織、この図々しい子は誰?」
「その子は玖実って言って、わたしの友達で――」
わたしが答えている途中で、リディアが慌てた声を出す。
「ねえ、まさかわたしがいない間に恋人を作ってしまったの!?」
「え?」と困惑するわたしに、リディアが勝手に畳み掛けた。
「そうよね、詩織はとってもキュートだもん! わたしがいなくなったらすぐに恋人ができるわよね」
リディアは頭を抱えた。
「ええ、そうよ……。あの時はたしかにわたし、詩織とまた会えるかどうかわからないから、詩織は好きに恋人を作ったらいいわ、なんてカッコ良いこと言っちゃったもんね……」
そう言うと、リディアが玖実を睨みながら、わたしを抱きしめる。本気の力で抱きしめられてしまっているから、ちょっと苦しい。
「でも、嫌よ! 今更だけど前言撤回だわ! わたしの詩織だもの! あなたには絶対に渡さないわ!」
リディアが髪の毛が逆立ってしまいそうなくらい警戒している。そんなリディアの様子を見て、玖実が苦笑いをした。
「大丈夫だって。詩織のリディア様愛は、リディア様が詩織と出会う前からよく知ってんだから。あたしごときじゃ詩織とリディア様の仲は裂けないって」
「本当に? 嘘だったら許さないわよ?」
リディアが玖実のことを睨んで威嚇しているから、わたしもフォローをする。
「本当だよ。玖実はただの大切な友達。リディアがいなかった時にいろいろと話を聞いてもらって助けてもらったんだ」
ていうか、所持金の大半を使い果たして婚約指輪まで渡して結婚しようって言ったのに、それでリディア以外の恋人がいたら、わたしだいぶヤバい子になっちゃうよ……。
そう答えると、今度はリディアがわたしを離して、値踏みするみたいにして玖実に近づいた。
「ふーん、詩織のサポートをしてくれていたのね……。まあ、見たところ悪い人じゃなさそうだし、ひとまずは詩織に近づくのを許してあげる」
リディアはそう言ってから、玖実の瞳の目の前に人差し指をグッと近づけて、指を差す。
「た・だ・し! わたしの詩織を奪おうなんて考えたら噛みついちゃうからね!」
玖実にはちょっと申し訳ないけれど、リディアがわたしの為に玖実のことを警戒してくれているのが嬉しかった。わたし、ちゃんとリディアに愛されてる。
「ちょっと詩織ー、あんたの婚約者怖いぞー」
「あ、ごめんね」と言ってから、リディアのことを手首を掴んで、こちらに引っ張った。
「玖実とは何も無いからね。わたしの好きはリディアだけだよ。でも、玖実はわたしの友達だから、リディアも仲良くしてくれたら嬉しいな」
そう言って、手を伸ばして、リディアの頭をソッと撫でた。
「そ、それなら良いわよ。玖実だっけ、ちょっと意地悪なこと言って悪かったわ」
リディアが玖実に謝る。
「詩織は愛されてんなー」と玖実は呑気に笑っていた。
「まあ、それはともかく、ラブラブな2人にプレゼント持ってきてやったぞ」
玖実が箱に入れて渡してきてくれたものを受け取る。小さな箱が2つと、大きな箱が1つ。とりあえず、小さな箱を開けてみる。中からは、名前が入った水色とピンクのパステルカラーのマグカップが出てきた。
「すごい、かわいいじゃん! ありがと!」
「これ、ちゃんと結婚した人にあげるやつで、ちゃんとしたやつだから、大切に使えよなー」
「悪くないセンスね」とリディアは相変わらず上から目線で伝えていた。クールなままのリディアだったけれど、次に大きな箱を開けて、顔色が変わった。
「な、なにこれ! 凄いわ!」
中に入っていたのは普通のモンブランとチーズケーキだったけれど、そういえばリディアとはまだケーキを食べたことがなかった気がする。
「玖実、あなたとってもセンスに溢れているわ! 見直したわよ!」
さっきのマグカップの時とは興奮度が違った。玖実の手を両手で握ってブンブンと上下に振りながら、目を輝かせて玖実にお礼を伝えていた。
「こっちは街のケーキ屋で買った普通のケーキなんだけどな……」
玖実は困惑していたけれど、とりあえずリディアへの餌付けは成功したらしい。
「ま、とりあえず今日の夜にする予定のイチャラブエッチの前にでも食べなー」
「い、イチャラブエッ……って。そ、そんなこと言わないでよね!」
わたしは慌てて否定したのに、リディアが「そうするわ、ありがとう」と真面目な顔で答えていた。
「リディアも肯定しないで!」
それから少し話をしてから、玖実は帰っていったのだった。玖実にもケーキを食べるように勧めたけれど、忙しいからと言って、さっさと帰ってしまった。
それが、再会したばかりのわたしとリディアが2人きりでいられる時間を少しでも長くしてくれるための玖実の気遣いだということは理解していた。わたしとリディアが再会した後も優しく気遣ってくれる玖実は、やっぱり素晴らしい友達だし、友達として大好きな子だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます