ささくれ巨人と七芒星の魔導士

沙月Q

1. 戦士レイ・ドの息子

 初冬の冷たい風が吹き荒ぶ、シムノサ平原のど真ん中。


 俺はポツンと建っている丸太造りの小さな居酒屋にたどり着いた。

 薄暗い店の中に入ると、刺々しい視線がまわりから絡んでくる。


 客のほとんどが戦士だ。

 諸国を巡って、盗賊退治や魔物退治……そして巨人退治に雇われる者たち。

 つまりは俺の同業者。


 俺は奥の歪んだカウンターに近づくと、ブロド酒と干し肉を注文した。

「おい若いの」

 客の一人が背後から声をかけてきた。

「見かけねえ顔だな。この辺で商売するつもりか? まずはあいさつしろや」

 俺は声の主の方を振り返った。

 分厚い皮の防具を身につけた戦士だ。歳の頃は俺と大して違うように見えないが、刺青だらけの顔にヒゲを蓄えて箔をつけている。


 俺は言った。

「ここには戦士ギルドがあるのか? お前はそこの顔役か何かか?」

「こんなど田舎にギルドなんかねえ。だがシマ荒らしは歓迎したくねえ」

「だったら、立場は対等だな。お前が先に名乗ったらあいさつしてやる」

 戦士は凶暴な笑みを浮かべてまわりの仲間たちに声をかけた。

「聞いたか! 大した先生のお出ましだぜ! 度胸の良さは平原いちでございってか!」


 店中の戦士たちが、暴力への期待でにじり寄ってきた。

「いいだろう。名乗ってやるよ。俺は竜殺しブチチの息子ロマゴクだ。東岸の戦士なら聞いたことがあるはずだぜ」

「いや、あいにく知らないな」

 ロマゴクの髭面から笑顔が消えた。まわりの戦士たちに緊張が走る。

 その戦士たちの一人が俺に言う。

「お前の番だぜ。名乗れよ」


 俺はすっと息を吐くと、どういう事態にも対応出来る姿勢をとった。

「俺は……戦士レイ・ドの息子タキオだ」

「戦士レイ・ド? レイ・ド……それは……」

 髭の戦士ロマゴクが出し抜けに笑い出した。

「あのレイ・ドか?! ささくれ巨人のレイ・ド! その息子か! こいつは傑作だ!」

 まわりの戦士たちも大声で笑い出した。


 こういう反応には慣れている。

 親父の名前は戦士たちの間で軽蔑の対象だ。理由も分かっている。当然のことだとも思っている。

 だが、その軽蔑をあらわにされて看過するかと言うのは別の問題だ。

 

「笑うのをやめたら教えろ。二度と笑えなくしてやるから」

 俺の言葉に、ロマゴクは馬鹿笑いをやめて真顔になった。

「ほう、そうかい。どうやってだ? こんな風にか?!」


 飛んできたロマゴクの馬鹿でかい拳を俺は寸前で見切り、バランスを崩してスキだらけになったその体に手刀を打ち込んだ。

 ドーンという音を立てて床に沈んだロマゴクの首を踏みつけ、動きを完全に封じる。


 まわりの戦士たちが一斉に色めきたった。

 中にはすでに得物を抜いた、気の早いのもいる。 

「おい! ここではやめろ! 外でやれ!」

 店の主人の嘆願も、連中には聞こえていないらしい。


 どうやら、主人には気の毒なことになりそうだ……

 

 俺は皮の手袋に包まれた両の拳を胸の前でぶつけ合わせ、この後の戦闘ケンカに備えた。


 その時……


 居酒屋のドアが開いて、一つの影が入ってきた。

 手には長い杖。

 その先端に彫り込まれた七芒星の飾りが、外の日光を砕いて俺の胸に影を落とす。


 それが、俺と魔導士ドルイエの出会いだった。

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