RISE

虎視舌舌

第1話 現状

 いつも通り、帰り道は決まってyoutubeで漫才を聞き流す。

 好きな芸人の動画はもうすでに聴き潰した。


 整然とした掛け声、蒼い空に長く、長く響く金属音。

 ざっざっざっと土を蹴るスパイク、ゴールを決めたのであろう雄叫び。

 ぱこん、ぱん、ぱこんと不規則なリズムの打球音によるラリーの応酬。

 だん、どん、ばちぃんと体と体がぶつかる音。

 ハイテンポな曲に合わせてハードルは越されていく。


 それら全ての人々にエールを送っているような強く、優しい吹奏楽の音色が僕には少し苦しくて、不快だった。


 グラウンドを避けるように、を避けるように足早にそこを後にした。


 部活を休部してからは、特にやりたいこともなく惰性で勉強をして、意味もなく漫才を見続けていた。危機感はまだもっていない。定期考査が迫っている2週間後の僕は何をしてのいるだろうか。受験が迫っている1年後の僕は何をしているのだろうか。高校3年生なんて、皆が勉強に苦しんでいるだろうから、きっと僕も勉強に励んでいるだろう。きっとネ、、、


 そんな淡い希望に浸っていると、いつの間にか僕の城に着いていた。


 おかえりと返される訳もなく「ただいま」と呟く。誰もいない、1LDKの文字通りだ。


 冷蔵庫のカルピスソーダを流し込み、いつも通りにスマホで漫才を見始める。

 ナハハハと乾いた笑いが出た頃には午後6時を過ぎていた。めんどくさいけど夜飯つくるかぁと決意を胸に近所のスーパーに向かう。

 値下げシールの貼られたクリームコロッケと豚肉、烏龍茶、葱、大根、キャベツ、もやしをカゴにつっこんでレジを目指す。誘惑に負けてしまったのでアイスも買っちゃった。ははは


 とんとん、ごっ、ぼちゃ、こん。

 ぐつぐつぐつぐつ。

 

 具材を鍋に突っ込んでなんちゃって二郎ラーメンを作った。いつか東京の本店にも行ってみたいなと思いながら、スープを飲み干した。


 お風呂に浸かりながら、今日を振り返る。特に何もしていないことに気づき、思わず笑みが溢れた。


 明日こそを送らせてくれと願いながら布団に入る。

 

 そんな男子高校生のお話だ。


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