あんさつ部
宿木 柊花
第1話
目の前に転がる彼を見ていると本当に身体とは容器でしかないのだと思い知らされる。
心肺の活動が停止しただけだというのに、さっきまで動いていたのに、
四十分もすれば完全に体温はなくなるだろう。
袖を持ってぶら下げてみた腕は骨が無くなったのかと思うほどふにゃふにゃで、面白くなかった。
「あっけないもんだね」
私は彼が握ったままのコーラを奪い取り、暖炉に投げた。
火を消すとき彼はたまにペットボトルのお茶などを投げ込んでいた。目撃者も多い。
これは彼にとって自然な行為と言える。
体内の毒は検出されないだろう。唯一の証拠は今燃えている。
彼はささくれのような人だった。
触れなければ何ともない。
けれど少し触れただけでチクッと痛む。
アルコールなんて与えたらもうどこまでも痛い。
だからといって思いきって取ってしまえばジクジクと長く痛む。
大学生の彼と高校生の私。
きっかけは部活の先輩から誘われたカラオケ、いわゆる合コンだった。
地味な私には似つかわしくない派手な連中の集まり派手な遊び。
その時、入る部を間違えたんだと気づいた。
そこで彼は無断で持ち込んだコーラを開けた。テーブルとソファーしかない部屋にコーラの匂いが充満していく。
見たこともないようなアメリカンサイズのそれを抱える姿は蕎麦屋のタヌキそっくりだった。
ペットボトルの口をガッツリ
気持ち悪かった。生理的に無理という感覚を初めて知ることになった。
そんな彼の殺害依頼が来たのは先月、依頼主は部長であり彼の元カノでもあった、桜。
こっち側の事を知り尽くす桜からの依頼は心底やりやすかった。スケジュールも情報も資金も全て無理なくスムーズ。
依頼主にメールを送って終了。
私は荷物を片付けて服を少し
この後は計画通りに
私はそっと目を閉じる。
それだけで全てがコンプリートする。
その直後私は異変を感じた。
言葉で説明できない直感に血液が走り回る。
おかしい。
頭が回らない。
手足が動かない。
言葉を発しようにも聞こえるのは声にならない漏れた空気だけ。
何が起こったのか。
火も煙もない。
ならガス?
いや、ガスなら探知機が反応する。
盛られたか?
私は特異体質で効く毒はあまりない。
ならなんだ?
ガラスに映る自分を見て気づいた。
首に何か刺さっていた。
なぜ気付かなかったんだろう?
霞んでいく視界の端に桜色のワンピースが見える。
――桜先輩……? なんで?
私は多分このまま死ぬのだろう。
桜先輩は血を操ると言われている。
それは失血死を好むから。
『桜色はキレイでしょ?』それがモットー。
「ごめんなさいね
透き通る優しい声。
美しい死体を作る天使のような彼女に見送られるのなら私の未来にしては上出来かもしれない。
私はもう終わる。
次は地獄でお茶しようね。
いい店さがしとくから。
鈴蘭、あとはよろしく。
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