月の姫は白銀の悪魔祓い士と乱舞する
入江 涼子
序章1
それは、月が紅い夜だった。
あたしは夜にベランダにいた。
そこから、月を眺めていた。
あたしの名前は杉野美月という。お父さんとお母さん、妹の
ベランダの手すりに肘を置いて、ふうとため息をつく。
(綺麗なお月様だけど。何でだろう、不吉な感じもする)
あたしはそう思いながらも月から目が外せない。
今は高校三年生で季節は秋であった。
もう、大学や専門学校に行くか、就職の方に行くかで決めなければいけない時期が近づいている。
それを思うと気が重かった。
両親からは特段、言われていない。
けど、芽衣の事がある。実はあの子ときたら、まだ中学三年生なのに彼氏がいてしかも無断外泊を平気でしているのだ。
だから、あたしだけは何とか、ちゃんとしようと思っている。とりあえず、就職をして働き先を見つけないと。
そう、思いながらあたしはベランダから中に入ろうとした。
けど、足元がおかしな感じがして下を向いたら、そこには大きな穴が何故か、ぽっかりと空いていたのだ。
あたしは当然ながら、悲鳴をあげた。
「…ちょっ。お母さん、お父さん!助けて!!」
そう叫んだ直後、体がふわりと浮いたような感覚がした。
だが、真っ逆さまにあたしは落ちていくしかなかった――。
あたしは冷たい夜風が頬に触れた感触で目を覚ました。辺りは真っ暗で手に硬い感触がする。
独特の香りから、それが草だと分かる。という事はあたしが寝転がっているのは草っ原、草原になるのだろうか。
起き上がってみるとあんな深くて大きな穴に落ちたのに、腕や肩などには異常がないのにすぐに気が付いた。
身体中、手で触って確かめてみる。
頭よし、首よし。肩も痛くないし、傷も今のところはない。
他の部分も触れてみたけど。何ともなくてほっとする。
けど、風は相変わらず冷たい。ぶるりと震えるほどだから、外に放り出された状態であたしは寝転がっていたらしい。
仕方なく、歩き始めたのであった。
あれから、どれくらい歩いたのだろう。暗い夜道はどこまでも続いているようだ。
けど、あたしはおかしな事に気付いた。そう、月が出ていないし星も輝いてない。曇っていることがわかると雨が降ってきたら大変だと慌てる。
だが、冷たい風の中に少しだけだが。鉄臭い臭いがしてあたしは手で鼻と口を塞いだ。
今のあたしは長袖のグレーのシャツと黒のズボン、ベランダ用のピンクの健康サンダルという格好だ。
そんなラフ過ぎる格好であたしはどこかに飛ばされた。ていう事はいわゆる巷で有名なトリップなるものをしたのだろうか。
だが、こう真っ暗では見当のつけようがない。そして、歩き続けてしばらく経った。
ぐるると低い何かの唸り声が聞こえてきて、現実にはあり得ない光景を目の当たりにした。
真っ赤な目に黒い毛の大きなモノがあたしの前に佇んでいた。
運悪く、月の光が雲の切れ間から差し込んできたらしく、それの姿がはっきりと見えた。
『…ミツケタ。ツキノミコ』
それは低い声でそう言った。そいつの手元を見てあたしは脳がフリーズしそうになった。
鋭いかぎ爪が指先から伸びていてあれに引っ掻かれたら、ひとたまりもなさそうだと思う。
バクバクと心臓が鳴って本能が逃げろと告げていた。あたしは後ろに下がった。
だが、奴も一歩、じりとこちらに近づいた。
『うまそうだ。魔王の贄に丁度いい。だが、くれてやるには惜しい』
そう言いながら、奴はかぎ爪をいきなり、振り上げた。
もう、これであたしは死ぬと思った。だが、どんと何かの強い力で突き飛ばされて地面に転がった。
「……太陽神よ。今、光の神子が請う。力を!」
目を開けたら、眩い光が辺りに広がっていてとっさに、両腕で顔を庇った。
そうでもしないと眩しくて目を開けていられなかったからだ。
『…ぎゃあ!!』
断末魔の叫びが聞こえて光は徐々に収まったらしい。
おそるおそるもう一度、目を開けてみると先程の化け物の姿が見えなかった。
あたしは目の前に佇んでいる人影に驚いて悲鳴をあげそうになる。
「……先程は危なかったな。こんな夜中に若い娘がフラフラと出歩くなんて狙ってくれと言っているようなものだぞ」
低い声でその人が男性だとわかる。
言葉がちゃんと聞こえて理解できるという事はここは日本のどこかなのだろうか。
そう思いながら、あたしは口を開いた。
「あの。助けて頂いてありがとうございます。あたし、さっきまで家にいたんですけど。大きな穴に落ちてしまって。気がついたら、ここにいたんですけど。ちなみにここはどこなんでしょうか?」
「……ここがどこかも分からずに彷徨っていたのか。見たところ、そなたは妙な格好をしているな。もしや、遠方から来たのか?」
遠方と聞いてあたしはとりあえず、住んでいた町の名前を言った。
「…えっと。三浦町という所から来たんですけど」
「ミウラ?すまないが、ここにはそのような町はない。ここはアルシンという村だ」
アルシンという言葉を聞いてここが日本ではないらしいという先程、思った事が当たっていたことに愕然とした。
「…そなた、もしや。異界から来たのか?」
「…え。イカイって。あたし、怪しい者ではないですよ」
そう答えるが男性は納得していないようであたしの頭から足の先まで、じっと観察してくる。よくは見えないが気配でわかった。
「……見たところ、怪しくはあるが。まあ、いいだろう。そなた、名はなんと言うのだ。私はアルブレヒトという」
一応、男性の方から、名乗ってきたのであたしも答えた。
「あたしの名前は。美月、杉野美月と言います」
「ミヅキ、か。スギノというのはミドルネームというところかな?」
「…そ、そうです。ええと、あなたはアル、アルブレヒトさんでしたっけ?」
そうだと答える彼だったが。少し考える素振りをして、あたしにこう言ってきた。
「…私の名は長ったらしいだろう。生まれた家が訳ありでな。そのせいでこんな呼びにくい名になった。私の事はアルと呼べばいい。そなたの事はミヅキと呼ばせてもらう」
「わかりました。じゃあ、アルさんと呼ばせてもらいます」
それでいいと彼は言うのであたしは少し、ほっとした。
そして、アルさんにお礼を言って歩き出そうとした。
だが、腕を掴まれて止められた。
「…待て。ミヅキ、そなた一人だけでどこへ行く気だ。こんな夜中にしかも、人里離れた森の中だぞ。危険だ」
「えっ。家に帰ろうと思って。アルさん、離してくださいよ」
そう言って腕を振りほどこうとした。けど、アルさんは余計に掴む力を強めてあたしを引きずりながら、歩き出したのだ。
「ちょっと、待ってくださいよ!どこへ連れて行く気ですかー!!」
大声で叫んでも離してはもらえず、あたしは無理矢理、どこか遠くに連行されてしまった。
そして、しばらく歩いて行くとアルさんは唐突に腕を離して立ち止まった。あたしの方に振り向くとこう言った。
「ミヅキ。ここまで来れば、ひとまずは安全だ。アルシンの村まであと少しだからな。それと今は季節が初秋だから、夜中は冷え込む。室内にいるか外套を着ていないと体調を崩す素だ」
低い声で言われてひとまず、頷いておいた。さあと風が吹いて雲が流されていたらしい。切れ間から月の光が差し込む。
その光で辺りの風景が薄っすらと見えた。ポツポツと立っている木々や向こうの方には民家らしきものが見える。
一番驚いたのはアルさんがめちゃくちゃ、美形だったということ。月の光に照らされる綺麗なプラチナブロンドの髪、透明感のある紅の瞳は一瞬、息を飲む美しさだった。
白い肌も透き通るような感じで女であるはずのあたしよりも綺麗な人である。けど、身長は十センチくらいは高いと思われる。
そんな人なだけにあたしは見惚れてしまいそうになった。
「…おい。私をジロジロ見て何のつもりだ。とにかく、この場から離れるぞ」
「……わかりました。ごめんなさい」
素直に謝ったけど、何故か無視されたのであった。
そして、二十分は歩いただろうか。アルさんはあたしを引きずったままで村から出たらしい。近くに馬を繋いでいるからと言われてあたしは驚き過ぎて言葉が出てこなかった。
ええ、自動車とかバイク、自転車じゃないの?!何で、馬なのか、見当がつかなかった。
アルさんはずんずんと歩き続けてふと、立ち止まった。
「ミヅキ。もしやと思うが。そなた、馬に乗った事がないのか?」
「……な、何でわかるの?」
後ろを振り返ったアルさんは何故か、少し呆れたような顔をしていた。
「いや、私が馬と言った瞬間、固まっていたからな。それでわかったのだが」
あたしはなるほどと思った。こちらの反応で何となくわかったらしい。
「確かに馬は乗った事がないんですけど。そうだな、牧場で見かけた事があるくらいかな」
「…そうか。だったら、乗り方を簡単に教えてやるから。馬の手綱は私が握る。前に横座りだったら何とかなるか」
ため息をついてアルさんはあたしを憐れむような目で見てきたのであった。すごく、腹が立ったけど。
それから、アルさんに馬の乗り方を言葉通りに簡単に教えてもらった。意外と馬は背が高く、足をかける所、鐙(あぶみ)に左足を乗せて勢いをつける。背中に着けてある鞍に跨るとアルさんは横座りができるかと聞いてきた。
「とりあえず、前に行ってくれ。横座りが無理そうだったら、そのままでいい」
「わかりました。横座りより、普通に跨る方があたしの場合は良いみたいです」
そうかと言うとアルさんは馬の手綱を握り、腹の部分を軽く蹴った。すると、馬はおとなしく走り出した。
全速力ではなく、軽く小走りと言ったところだが。それでも、徒歩で行くよりも早く、森を抜けていった。
馬はあたしのいた所でいうサラブレッドより一回りくらいは小さい種類のようだった。あたし、自慢じゃないけど。
いとこが北海道の牧場で働いていて両親に連れて行ってもらった事がある。五、六回くらいは行っただろうか。
その時に馬や牛を見せてもらったり、世話を手伝った事があった。
手伝った後でいとこがご褒美と言って、馬のいる厩舎の中に入らせてくれて。実際に馬の近くまで行かせていろいろと知識を教えてもらった。馬具を着けていない状態で背中に乗せてもらった事もある。直に触れた馬の感触と温もりは今でも覚えているのだ。
ただ、乗馬はさせてもらえなかったけど。
そんな事をツラツラと考えていたら、アルさんが訝しげに声をかけてきた。
「…ミヅキ。何を考えている?」
「な、何でもありません!」
首を横に振るとアルさんはそうかとだけ言って馬に乗るのを手伝ってくれた。
彼も馬の背に跨ると手綱を持って走り出した。
アルさんのお腹のあたりに両腕を回してしがみ付く。当然ながら、アルさんは何も言わない。ただ、不機嫌そうに眉をしかめたけど。
「…はっ!!」
そう声をかけて、馬の腹を蹴る。ひひんと馬が嘶(いなな)いて走り出した。
あたしは両手に力を入れた。周囲の景色が流れて見えるのが何とも言えなくてあたしはただ、無言でいたのであった。
それから、アルさんはひたすら馬を走らせた。王宮にたどり着くのも後少しだと告げられてあたしはほうと息を吐いた。
「…ミヅキ。疲れただろう。水だ、飲むといい」
そう言って水の入った皮袋を手渡してくれた。あたしは言葉に甘えて受け取る。
蓋は開けてあり、そのまま、ごくごくと飲んだ。アルさんはその光景をじっとみていたらしい。
あたしにもういいだろうと言って皮袋を取り上げてきた。驚いたけど、飲み過ぎだと指摘されて言い返せなかった。
「うう。ごめんなさい」
「まあいい。今度からは気をつけろ」
「…はい」
そんなやりとりをした後、再び馬に乗る。
夜道を走り、しばらくして王宮とおぼしき建物が見えてきた。
アルさんはあたしに馬に乗ったままでいるように言うと自分だけ降りた。
どうしたのだろうと思ったら、大きな石造りらしい門が見えたのだ。
そこの前に甲冑だろうか、頭から爪先までフルアーマーの二人組が佇んでいた。
あたしはその異様さに怯んでしまったがアルさんは平然として声をかけたのだ。
「…いつも、ご苦労な事だ。久方ぶりに妖魔狩りから戻れてな。侍従や侍女、父上達に私が戻った事を伝えてほしい。何、アルブレヒトが帰還したとでも一言伝えれば分かることだしな」
「…あっ。第二王子殿下であられましたか。わかりました、陛下や王妃様にお伝えして参ります。少し、お待ちを」
フルアーマーの一人が敬礼をしてそのまま、王宮の中へと走って行ってしまったのを見送った。
馬に乗せられたまま、門を開けてもらい、奥に入る。アルさんはあたしに何も言わない。
こちらもいい加減、疲れていたから何も言わずに進むがままにしていた。
そうして、しばらくすると煉瓦造りの建築物が見えてくる。煉瓦の色は見えない。
アルさんはふと、こちらを振り向いた。
「…ミヅキ。後少しで厩舎に着く。馬の背から降りてくれないか」
「あ、そうですね。わかりました」
頷いてから、アルさんに助けてもらいながら馬から降りた。厩舎に近い所で降ろしてもらってあたしはキョロキョロと辺りを見回してみた。
暗くはあるが堅固で見上げるほどに高い塔や煉瓦造りの建物が所狭しと並んでいる。明るい中で見てみたらもっと、印象が違ったんだろうなと思う。
しばらくして、アルさんが戻ってきた。
「とりあえず、付いて来い。私付きの侍女に訳を話しておく。もう、時間的に遅いからな。空いている客室があるはずだからそこに案内する」
「…ありがとうございます」
礼を言うとアルさんは頷いてくれた。
そして、そのまま黙って歩き出した。あたしは付いて行ったのであった。
「…ここが国外からの賓客などを泊める客室だ。通称を「白薔薇の間」という。明日になったら、父上にそなたを紹介する。それまではここで待て」
「…はあ。自由に使ってもいいんですか?」
「まあ、かまわん。そなたは異界から来た客人だろうからな。事後通告になるが父上や宰相たちからは許可を取っておく。その間、部屋から出なければ好きに使うといい」
「わかりました。いろいろとご迷惑をおかけします。じゃあ、早速寝てもいいでしょうか?」
あたしが尋ねてみるとアルさんはくすりと笑った。
表情が柔和なものになってしかめっ面でずっといた彼の雰囲気がごく自然なものになった気がする。
驚いて見つめていたら、アルさんは咳払いをしながら眉をしかめてしまう。
「…ああ、その。笑って悪い。休みたいのだったら、左側の扉が寝室に繋がっている。後、ここは応接間だ。向かって右側に洗面所、奥が厠(かわや)と浴室がある。真ん中は書斎になるからな。もし、覚えきれなかったらこれからつかわす侍女に聞くように。教えてくれるはずだ」
「…わかりました。左側が寝室で真ん中が書斎ですね。右が浴室や洗面所で。あの、カワヤって何ですか?」
あたしは訳がわからずに尋ねてみた。けど、アルさんは答えにくいのか目線を泳がせて黙りこんでしまう。
「……あの。どうしたんですか。あたし、何か変な事を言いましたか?」
仕方なく、問いかけてみたが。アルさんはなかなか、答えてくれない。
先ほどまでいろいろと話していたのに。変なのと思っていたら、アルさんが顔を赤らめながらこう言った。
「…その。そなた、厠を知らないのか。まあ、簡単に言うと用を足す場所だ。お手洗いと言ったらわかりやすいかな」
「……えっ。カワヤってお手洗いの事を言うの?!」
驚きながら言うとアルさんは呆れたような目線をこちらに送ってくる。
「そなたのいた国では厠とは言わないのか。せめて、それくらいは知っておかないと。私だったから良かったものの。他の者に聞かれたら面倒な事になるぞ」
「…はい。そっか、厠はトイレの事だったんだ。アルさん、教えてくれてありがとう」
「あ、ああ。今度からわからない事があったら侍女に聞け。時間があれば、私も教える。まずはここの言葉と礼儀作法は覚えてもらわないとな」
ええと言ったらアルさんは否が応でもやってもらうと念押ししてきた。
渋々、頷くともう遅いから寝ろと言ってアルさんは部屋を出ていった。
そして、少し経ってから赤茶色の髪と薄い琥珀色の瞳のすらりと背の高いモデルさんみたいな美人の女性が入ってきた。年齢は二十代前半くらいだろうか。
右側に金髪に青い瞳の可愛らしいお人形みたいな少女もいる。年齢は赤茶色の髪の人よりもいくらか若いようで十代後半くらいと思われる。
左側に濃い藍色の髪と薄い紺色の瞳のミステリアスな雰囲気で色っぽい美女もいた。この人は二十代半ばくらいかな。
そう思いながら、観察していると真ん中のモデル風の女性が鈴の鳴るような声で話しかけてきた。
「…あの。姫様。遠い異国から来られてお疲れでございましょう。わたくし達は姫様のお世話をするように申し使っております。何なりとお命じくださいませ」
「…はあ。ご丁寧にありがとうございます。でも、姫様というのはどなたの事ですか?」
「それはあなた様の事でございます。ミヅキ様」
はい、わけわかめな発言が出た。
何ですと?あたしが姫様だって。どういう事よ。
頭が一気に混乱を始める。その間にもモデル風の女性はにこりと笑ってあたしにグレーのワンピースらしきものを見せてきた。
「…ミヅキ様。わたくしは名をエミリーと申します。右側がナタリア、左はシェルミナといいます」
三人とも紺色の足首までのワンピースに白いフリルのついたエプロンを身に付けている。
左側のシェルミナさんはお色気たっぷりの笑みを浮かべて少し、甘い感じの声でこう言った。
「…初めまして、月の姫様。わたしは名をシェルミナと申します。普段はシェルとお呼びください」
「は、初めまして。あたしはミヅキ・スギノといいます。こちらこそ、お世話になります。シェルミナさん」
お辞儀をして顔を上げると右側のナタリアさんも自己紹介をしてきた。
「月の姫様。あたしはナタリアと申します。シェルさんやエミリーさんと同じく、お仕えするようにと第二王子殿下より仰せつかっております」
金髪に青い瞳のナタリアさんはにこりと笑いながら言ってきた。シェルさんとエミリーさんもあたしに微笑みかけてくる。
「…ミヅキ様でしたね。とりあえず、こちらのナイトドレスにお着替えください。今のご衣装でもよいのですけど。もし、お部屋の中で過ごされるとなると目立つと思いますので」
エミリーさんはそう言いながら、あたしにナイトドレスを掲げてみせた。わかったと頷くと三人とも、嬉しそうにしたのであった。
その後、ナイトドレスに着替えた。シルクでできているのかはわからないけど。すごく、手触りが良くて着心地も最高に良かった。機嫌良く、礼を言えば。エミリーさん達はこれくらいは当然ですと返してきた。
そして、寝室に案内されてあたしは大人五人くらいは優に寝られるくらいの広さのベッドを見て興奮してしまった。
エミリーさんはクスクスと笑いながらも、では、ゆっくりとお休みくださいと言って部屋を出て行った。
あたしはふかふかで柔らかなベッドに入り、こちらもふかふかなクッションに体を沈ませながらふうとため息をつく。
今日は色々あり過ぎて今更ながらに疲れがどっと出てくる。
(…それにしても、異世界に来るだなんて思いもしなかったな。帰れるのかな?)
そんな事を思いながら、まぶたを閉じた。眠気が来てあっという間に寝てしまっていたのであった。
『美月ちゃん。目を覚まして』
凛とした女の人の声が脳内に響く。あたしは何事かとまぶたを開けた。
目の前には綺麗な黒髪に透明感のある琥珀色の瞳の美女が佇んでいた。
黒髪は緩やかにウエーブしており、柔らかそうである。
『…あれ?あたし、寝ていたはずじゃ…』
『…こんばんは。美月ちゃん。お休みの途中で悪いわね。ちょっと、話したい事があったから呼んだのだけど』
目の前の美女は優しく微笑んでいる。あたしはあまりの状況に唖然とした。
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