ヒトとして

「ミホさんが、地上に降りた頃、世界はいくつもの国家群に分裂し争い合っていました。

 もっとも、物理的な破壊戦争ではなく、を演じていたわけなのですが…。」

 ミホがゆっくりと手をしたに下ろし、再びタツローと恋人つなぎをする。


「ミホさんの登場で、世界は結集し、ミホさんの排除にかかります。」

「ホント、辛かったです。

 夜討ち朝駆け、年中無休で攻撃されたんだからぁ!」

 ブンむくれのミホさんを尻目に、ラビィは続ける。


「開戦直後こそ一枚岩だった世界も、徐々に綻びを見せます。

 ついには、ミホさんをダシに領土紛争を始めてしまいます。」

 徐々に抑揚を取り戻し始めるラビィ。

「いつしか戦火は、ミホさんと関係ないところでも勃発し、猜疑心と憎悪の連鎖によって、無辜ムコの民が命を落としていきます。」

 ラビィの頬に一筋の涙がこぼれる。

「ようやく、自分たちの蛮行に人々が気づいたときには、世界人口の八割は喪失されていました。

 残った人々も、流行り病の影響もあり徐々にその個体も失われます。

 でも、ミホさんとは戦わないといけない…。

 そして作り上げられたのが、ロボットであり、私であり…そして強化人間パイロット達でした。」

 ミホとタツローがつばを飲む。


強化人間パイロット達は、遺伝子操作の果てに生み出された人間ナラざるもの…その制御のために充てがわれる装置としての私。

 パイロットから性的暴行を受けたも居たみたいだけど…その記憶が今のには残っていません。」

 ラビィは泣き顔になっています。

「そんなパイロット達も、ミホさんとの戦闘で一人、また一人と亡くなって行き、最期のパイロットが亡くなった時、は登場していたパイロットと伴に亡くなっています。」

 肩を震わせているラビィ。

「コックピットを破壊するしか…他に貴女達を止める方法がなかったから…。

 それに、あのまま暴れていたら、戦場一帯が壊滅してしまうから…。」

 ミホも小刻みに震えている。

「貴女の戦闘スタイルには、そんな意味があったんですね…。」

 ラビィは目を細め、ミホも頷くばかりである。

「でも…貴女が移動した先こそが、避難先だったのよ。

 もっとも、パイロット達もその事を知りつつ応戦し、多くの犠牲者をもたらします…。

 結果、帰らない人々を待ち続ける都市群が溢れました。」

 ラビィはゆっくりと目を閉じる。

「最期のパイロットが亡くなった時、基地に居た職員は絶望のあまり、全員が自死を選びました。」

 ラビィは涙を流しています。

「何故、人は死に急ぐの?

 どうして、絶望だけで死を選ぶの?

 わたし達には、自身の生殺与奪の選択さえ与えられていないのに…。」

 すっかり言葉の抑揚を取り戻したラビィは、その場にしゃがみ込み泣き出してしまいます。

 そんなラビィの所作に戸惑ってしまうタツローとミホ。


 ラビィが泣き止むのを待つこと一〇分少々…


「ラビィ、地上の置かれている現状を説明願えるかな?」

 タツローの問いに頷くラビィ。

「ミホさん、この星に来た経緯いきさつを教えてくれますか?」

 ミホも頷きます。

「まずはミホさんから…

 何故、この星ちきゅうに来たのですか?」

「は・ん・し・ょ・く♪」

 右手の人差し指を振りながら可愛らしく笑顔で答えるミホ。

「「はっ?」」

 タツローとラビィが揃って右に首を傾げる…大変困惑した顔で。

「繁殖…じゃ解らないかしら?

 え~とぉ、結婚…子作り…ムグゥ!」

「「あ~~、分かりますぅ!」」

 ラビィが補足説明を続けようとすると、慌ててミホの口を抑えるタツローとラビィ。


「でも、困ったわねぇ…」

 ラビィが顎に右拳をあてて考え込んでしまう。

「結婚しようにも、貴女に見合う異性が存在していないわ。」

 ラビィが振り返る先に見えるのは、穴だらけの丘陵を背景に、住人の居なくなった無傷の大都市郡ゴーストタウンが広がっています。

「でも、戦闘を逃れた人達が居るのでは?」

 タツローがラビィの後頭部に語りかけます…が。

「放射能汚染で…すでに一般市民は死滅してしまったわ。」

 ゆっくりと振り返るラビィ。

「同じ様に、空、地上、地中、海洋の生態系も崩壊…絶滅してしまいました。」

 言葉を言い換える時に、微かな辿々しさをみせるラビィ…彼女の肩は小刻みに震えていました。

「それじゃぁ…。」

 タツローが、或ることに思い至ります。

「そう、私達が自壊するのは、生存制限プログラムによるものだけではなく、この大気に溢れた見えない毒核汚染によるものなの。」

 そして、ラビィはミホに視線を向ける。

「ごめんなさい、勇気を持ってこの地に降りて下さったのに…貴女の命さえ奪いかねない事に…。」

 そう言ってラビィは、大声で泣き出した…恥も外聞もなく、本当に心底からの涙が溢れかえる。

「「…。」」

 突然の告白にミホは言葉を失い、タツローも掛ける言葉を失ってしまいました。

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