第三の男~灰色の習作~
大月クマ
第1話
引っかかることがある。
私、ジャン・スミスはノクティスの大使館付武官になってから、しばらくしてからのことだ。
一通の電報が兄から届いた。
「伯父急死。葬儀に参列サレタシ」
私の父とは年が離れた高齢であったが、数年前にあったときは健康に不安がなかった。だが、やはり歳には勝てなかったようだ。
そんなことを思いながら、休暇を申請して国際列車に飛び乗ると、東へと向かった。
よくよく考えれば、祖国に帰るのは脚の治療のために離れてから半年以上経っていた。
「それで、伯父の死亡原因は?」
葬儀を終えて少し気になったことがある。
参列していない伯母のことだ。
私の記憶では、夫婦仲がよかったはずだが……彼女が参列していないことに、違和感を覚えた。
「それはいささか問題があってね」
私の問いに兄が言葉を濁らせた。だが、それを待っていたようだろう。
兄は伯父の死について語り始めた。
話によると……伯父が亡くなったのは一週間ほど前のこと。邸宅の居間で倒れているのをメイドと
その遺体には見たところ外傷はなかったが、その顔の表情を見たものは口をそろえて言う。
世にも恐ろしいものを見たのではないかと……
そして、遺体で見つかった伯父の近くには、気を失い倒れていた伯母がいたというのだ。
警察は当然、側にいた伯母を疑った。だが、解剖の結果、伯父の死因は脳卒中だという。
皆が見た伯父の形相を考えると、急激な興奮状態が引き起こされた病死。そういうこととなった。いまだに寝込んでいる。伯母のことを考えて。
「しかし……」
兄が何か疑問を持っているようだ。
だいたい想像はついた。
――一体、何が脳卒中を起こすほどの興奮を伯父に与えたのか。
いやな兄だ。自分が一番知りたいくせにして、泥をかぶりたくない。弟の私に興味を持たせて、何があったのかを捜査させたいらしい。最愛の夫を亡くして、悲しみの中にいる伯母の心に踏み込むことになるのだ。無作法な弟が勝手にやったこととでもしたいのだろう。
まあ、興味がないわけではない。
ノクティスの下宿先の同居人が、興味を引きそうなことだ。
土産話にもちょうどいいかもしれない。
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