22-幼馴染・前

居住エリアを抜けて大きな広場へと歩みを進めれば、イベントが近付いているからか昨日よりも人が多くなっている。

広場の中央の方では迷宮攻略の為にメンバーを募集している者もチラホラと見えた。

その中に一際目立つ女の姿が見えれば嫌な予感に頬に汗が伝う。


『若、顔色が悪く見えるでござるが…何か気に掛かる事でも?』


『パパ、大丈夫ー?どこか痛いー?』


『パパ殿、気分が悪いならあそこのベンチが空いてます!』


「ん?あぁ…悪いな。元から居たみたいに見せる為にもベンチに…」


「見つけたわよ!私との約束に遅れてくるなんていい度胸じゃないの!」


「厄介な事になるぞ…」


いそいそとベンチに移動していたが、逆にその行動が裏目に出て目立ってしまったのか凛と澄んだ声がこの広場に響き渡る。

昔から人の耳に入りやすい声をしていたがこんな場所でも効力を発揮しなくていいと思いつつ、ゆっくりと振り返れば大腕を振りながら歩いてくる女を見つめる。

亜麻色の髪を腰まで伸ばし、焦げ茶色の瞳にタレ目気味な

右の目尻には泣きボクロがある。

ここらでは珍しい巫女服を少しアレンジしたような物を着ているので周りに居た女性達が、何処で入手したのか気になるようでチラチラと姫を見ている。

歩き方もどことなく品を感じさせるので、他の人には和装美人に見えるだろうが付き合いの長い俺には微笑んではいるが、怒っているのが手に取るように分かり今すぐにこの場から逃げ出したいくらいだ。


「久しぶりに会うからって私の性格、忘れたわけじゃないわよね?」


「忘れるわけないだろ、姫…。取り敢えず、マオ達がビックリしてるから少し落ち着いてくれ…」


『どこかの姫のような雰囲気があるのに口調は荒々しいでござるな…』


『ギャップがすごーい』


『パパ殿を虐めたら許さないです!』


「ぐっ…つぶらな瞳で見つめさせるなんて狡いじゃないっ…。それよりも先にフレンド登録しちゃいましょう?話はそれからよ」


「わ、分かった。姫の名前は?」


「椿よ。ちょっと待って…アンタ…。珍しい名前だからってそのまま使ったの!?」


「ダメだったか?」


「別にダメでは無いけど…。私は呼び易いから有難いけど…くれぐれも本名だってバレないようにしなさいよ?」


フレンド登録の際に俺の名前を見て目を見張る椿に頬を掻けば、呆れたような顔をされるも気を付けるように釘を刺されるだけに終わった。

取り敢えずは場所を移す為に移動する事にしたのだが、椿が口笛を吹くと上空から小さな影が飛んでくる。

椿の肩の前で速度を落とすとしがみつくようにして止まった動物に視線を向ける。


『へー。僕みたいな姿でも空を飛べるペットっているんだねー!』


『どうやら某の龍翼のように風を受け止める膜のような物を持っているようでござるな』


『空を飛べるなんてすごいです!』


「椿のペットはその子か?」


「えぇ。使い魔も居るけど迷宮探索のお使いに行ってもらってるわ。もう少ししたら帰ってくる時間だし紹介するわね」


「使い魔に迷宮探索をさせたりも出来るのか…」


『某達が役に立てるのでござるか!?』


『黒、食い気味に聞くねー』


椿が言うには使い魔のレベルに応じて迷宮に派遣し、探索やドロップ品の収集をさせることが出来る施設があるらしい。

お供として採取用にペットもチームを組ませる事が出来る事から忙しくてログイン時間が短い人用に考えられたシステムのようだ。

知らない事が多いなと思いつつ、マオをじっと見つめる椿のペットが俺の肩に不意に飛び移ってくる。


『僕のパパ、イケメンでしょー?料理も美味しいし僕達にすっごく優しくしてくれる自慢のパパなんだよー!』


『え、そうなのでござるか?食事が不味いのは嫌でござるなぁ…』


『パパ殿はあげられないです!ぼく達の大事なパパ殿ですから!』


マオ達の会話が耳に届けば何の話をしているのだろうかと思うも、椿がふと路地の方を見て僅かに目を細めたのが見えればその視線を追う。

ガタイのいい男二人を連れた少女の姿に見覚えがあるも、路地へと歩く方向を変える椿の姿に何か嫌な予感が頭を過ぎる。

歩みは普通なのだが走ってるんじゃないかという程の速さに止めないと大変な事になるのが分かる。


「ちょっと待て、椿!何する気だ!?」


「攫われそうになってる女の子を救出するのよ!」


「知り合いの可能性もあるだろ!?早とちりで今まで何回やらかしてんだ!」


「今回はライアも居るし、謝罪役は居るから問題ないでしょ?」


「いや、そういう問題じゃないからな?とにかく、一旦足を止めろ!」


人一倍正義感が強く勘違いしやすい椿を止めるのはかなり至難の業なのだが、近付くにつれて知り合いであるのが分かり止めないと保護者である姉(?)が出てきてしまうだろう。


『ねぇ、凛ちゃんのママって勘違いしやすいタイプー?』


『あの三人組は、昨日若が会った人達でござらぬか?』


『パパ殿!あのお姉さんをぼくが止めるので降ろして欲しいです!』


「任せた、ダスク!」


『お姉さん待て待てー!』


『ウィンのが速いけど、それに劣らぬ速さだねー』


『空を飛ぶなら某の方が!』


『白とセラしか飛べないでしょー?』


『あ……確かに…』


腕に抱いていたダスクを地面に降ろせば、尻尾を千切れんばかりに振りながら駆けていく。

あっという間に椿の傍まで追い付き男達に掴みかかろうとしていた所を寸での所で巫女服の裾を噛んで引っ張り止めてくれたのだった。

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