19-朝の日課はお断り
昨日の騒動を終えてログアウトした後、食材の買い出しに出てから帰宅した俺は直ぐにベッドに入り寝てしまった。
色々と濃い日でもあったからか疲れていたのかもしれない。
朝陽の眩しさで目を覚ますと同時にスマホの着信音が響き渡れば、ゆっくりと身体を起こしながら棚の上を探る。
振動するスマホが指先に触れるとしっかりと掴んで目の前まで持ってくれば、画面に表示されている姫の名に眉間に皺が寄るが出なければ怒られるので通話の緑のマークをスワイプする。
「おは…」
『雷亜!アンタ何処にいるのよ!』
「家に居るが…?なんなら起きたばかりだ…」
『なんでArcaに接続してないのよ!昨夜、ラビリアに着いたからフレンドだけでもなろうと思って探したのに居ないしお陰で徹夜しちゃったじゃない!』
「悪い。今、ファンビナ商団の拠点で世話になってるから宿屋利用してないんだわ」
『はぁ!?宿屋じゃなくて商団の拠点で寝泊まりって…おかしいでしょ!』
その後も質問攻めにあうが、深い溜息が聞こえたかと思えば独り言のようなボソボソとした音が届くが良く聞き取れず聞くことに集中する。
和達より先に会う計画が水の泡にと言っていたような気がするも、いきなり大きな声で姫に喋られてしまい耳の痛みに眉を寄せる。
『まぁいいわ!今日の昼にラビリアの中央広場の噴水前で待ってるから遅れず来なさいよね!』
「えっ、ちょっ……切りやがった」
ツーツーと通話の切れた音を耳にしながら思わず眉間に寄ってしまった皺を指で解しつつ、朝食をどうするかと思うも姫は時間に厳しい所があるので早めに行って待っているくらいが丁度いい相手だ。
朝食はArcaの中でも食べられるので手早く掃除や洗濯を済ませる事にする。
「髪、少し切っておくか。Arcaでは前髪が無いからか視界が悪く感じるし」
掃除をしながらかなり伸びた前髪が視界にチラつくとついでだからと洗面所に行き棚から散髪用の鋏を取り出す。
鏡台で髪の長さを確認しながら前髪に鋏を入れ、適当な長さに切るとゴミ箱に髪を捨てて軽く櫛で梳かした。
視界が開ければ落ちかけていた気分も上がり、後の家事も早めに終わらせる事が出来ればカプセルの中に寝転がりArcaを起動させる。
目を覚ませば体の上に感じる重みに腹の方へと視線をやると、ウィンとダスクが占領するように丸くなって寝ている。
腹の上の争奪戦に負けたらしいヴィオラと黒鉄が片方ずつ太股を枕替わりにして寝ており、胸の上にはマオとセラフィが仲睦まじ気に寄り添って寝息を立てていた。
ルフはどうしているだろうかと脇に視線をやると、壁に寄り掛かるようにして座ったまま寝ており、白銀がその大きな身体に巻き付くようにして寝ていたので珍しいなと思ってしまう。
「ルフが寂しくないように一緒に寝たのかもしれないな…」
どうやって起きようかと悩んでいれば、もぞもぞと腹の上で動く気配がして視線をやると大きな欠伸をしながら顔を上げたダスクが俺の方を見る。
寝ぼけ眼で俺を見るダスクと暫く見つめ合っていたが、意識がハッキリとしてきたのかビクッと身体を跳ねさせた後にいそいそと腹から降りてベッドの上を歩いて顔の傍に来る。
尻尾を千切れんばかりに振りながら頬に鼻を押し付けてくるので頭を優しく撫でてやると嬉しそうに口の端を上げて笑っているような表情を見せる。
『おはよう、パパ殿!』
「おはよう、ダスク。よく眠れたか?」
『バッチリ寝ました!ぼく元気です!今日は何をしますか!?』
「ん、今日は昼頃に幼馴染と会う約束があるから広場に行くつもりだ」
『パパ殿の幼馴染!会うのが楽しみです』
『んぅ…もう朝だべか?ほんじゃ、いつもの日課の採掘ば…』
「ルフ?ツルハシなんて出して何する気だ?待て、そこは普通の壁だぞ?」
『たーんこうーぐまーのにっかだべぇー♪オラ達ゃりっぱぁなたーんこーうふー♪』
「ちょっ!待て!ルフ!ダメだっ!」
寝ぼけているのか歌いながら召喚された時に着ていたベストからツルハシを取り出したルフが部屋の壁の方を向くと尖っている先を打ち付ける。
決して脆くは無いのだろうが、その一撃で部屋の壁が崩れ落ちて隣の部屋が見えるようになれば、ふらふらとしながら次の部屋に入っていき更に壁をぶち抜こうとルフがツルハシを振り上げる。
二枚目の壁も見事にぶち抜けば、流石に白銀も目が覚めたのかルフに巻き付いた状態でベッドの上で為す術もなく寝ている俺を遠くに感じたのか辺りを見回す。
『ん?なんで旦那はんがあんなに遠いんや…?』
『なんじゃ、今日はいい鉱石が出ねぇべなぁ…』
『…え?は?えぇ!?ちょっ!ルフはん!?しっかりせぇや!壁ぶち抜いたん!?』
『んぁ?オラはいつも通りに……あ…』
鼻歌交じりに三枚目の壁を突貫してから白銀の声に笑ったような顔で返すも、振り返った所で壊した壁の惨状と遠くに見えたのであろう俺を見てポカンと口を開ける。
自分がやらかした事に気づいたのかルフはツルハシを放り投げ、両手で口元を覆いながら周りを見て動揺している。
崩した壁の先に人が居なかっただけ良かったのだろうが、最後に壊した壁がいけなかった。
どうやら、浴室だったようで壁の中を通っていた水道管を粉砕したのだろう。
そこから水が溢れ出しているのが見え、マオ達の事も気に掛けてやれずに身を起こせば転がり落ちた先のウィンの上で止まるもその衝撃で三匹が目を覚ます。
『わわわわっ!なになに!?どうしたのパパー?』
『うぅ、今日はママ…らんぼ…ぇ?』
『なんだぞ!?何かが落ちてき…たけど、それより大変そうなんだぞ…』
『んん、どうしたでござ…る…?』
『もー、みんな騒がしいです…の…』
「ライアさん!凄い音がしましたが何があっ…たん、です…えぇぇ…」
マオ達が崩壊した壁を呆然と見つめる中で、何事かと集まってきたポスカやメイド達が俺に声を掛けてきたが、ルフにより綺麗にぶち抜かれて浴室まで直通となった部屋を見て固まったのだった。
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