91-拳は武器

テーブルの上に広げられた素材などの報酬を見て神威が額を手で押えている。

膝の上に乗っているアイオーンもなんとも言えない顔をしており、俺の足から腕を伝いテーブルの上へ移動したマオが腰に手を当てて胸を張っていた。


『ふふん!僕の拾ってきた物もいっぱいあるんだよー!』


「マオ、アイちゃんが引いてるから一旦落ち着こうか」


「ホント…マオくんの幸運がレア物に振り切り過ぎじゃないですか?この森からこんな物ペットが拾ってきたなんて報告もないですよ」


金色に輝いている牙のような素材の一つを手に取り、神威はリストのような物を取り出して見比べている。

素材の名称と実物の絵が載せられているのが見え、図鑑のようなものだろうかと眺めていれば視線に気付いた神威が軽く見せてくれた。

リストの見出しにガルドルフの名前があるので鍛冶屋で俺の装備を作成してくれたドワーフが書いたものなのだろう。

レア物を使った創作が好きそうだったので常連である神威にリストを渡したのかもしれない。


「凄いな。どの部位に使えるかも細かく記載してある」


「俺がわざわざテラベルタまで行って鍛治を頼むのはあの人の腕がかなり良いってのもあるんですけど、気分が上がるとこういった物もサービスでくれるので利用してるんです」


「なるほどな…。確かに気建てのいい人だったし、俺も篭手やこの手袋を作ってもらったが重宝させてもらってる」


篭手の不可視設定を外し神威に腕を差し出す。

目を瞬かせた後、篭手をまじまじと見つめ表面の細工を見ていたが、アイオーンから何やら話を持ちかけられたのか何かを話した後にキッと睨みつけられ思わず肩が跳ねる。


「これ…龍の鱗が使われているんですか?」


「よく分かったな…。マオが拾って来てくれた素材の中にあって、な…まて、怖い。その目は怖い」


「貴方って人は!俺だから良いですけど他の人に見せたら絶対ダメですからね!PKにあってもおかしくない装備ですよ!ラビリアの街道付近には出ませんが、周辺のレベリング用のフィールドでは被害も多いんですから!」


「は、はい。気を付けます…」


その他にも言いたい事があるという形でお叱りを受けながら、マオ達をチラリと見てからその飼い主である俺をアイオーンがドン引きですとでも言うような顔をして見ていたのがどうにも解せない。

ヴィオラを頭に乗せた白銀がテーブルの下から身体を伸ばし、並べられている素材を見ながら目を細める。

ウィンや黒鉄、セラフィも続くようにテーブルの上に登ったり、俺の膝の上に乗ってからひょっこりと顔を出して話をしている。


『兄殿の幸運は本当にヤバ過ぎるでござるよなぁ…。某を追い掛けてきたのもレアな獣だったりしたのかも知れぬでござるよ』


『兄さんとだけは組みたくないわ…。旦那はんが居ないとなると暴走列車の如く素材を求めて走って行ってまうからな…』


『マオ兄様、肉壁は置いていったらダメですの。いざと言う時に困りますの』


『ヴィオ、一回わてと話そぉか?そろそろ怒るで!?』


『ヴィオ姉ちゃんの毒舌は災いの元だね』


『オレ様、このタマゴが気になるんだぞぉ』


頭の上に居るヴィオラを怒る白銀だが、ふざけているのも分かっているので本気ではなく遊ぶ程度に留められている。

テーブルの上にある報酬で貰った夕焼け色のタマゴを見つめるウィンがボソリと呟く。

トワイライトと戦ってから空元気のような素振りもあったので膝の上に居るウィンの背を優しく撫でてやる。

嬉しそうに尾を揺らしつつ、周りにバレないように平然を装っていたが、ゴロゴロと喉が鳴り始めればマオ達が気付いて自分たちも撫でろと集まってくる。


「取り敢えず、並べられている品を軽く整理しましたが左に集めた物は売っても問題が無いもの。真ん中にあるのは武器や防具の素材になる物。右は今回報酬としてドロップした武器関連やタマゴ、売ってはいけない物です」


「ありがとう、神威。助かったよ」


「何時も美味しいご飯ご馳走になってるのでこれくらいは構いません。でも、少し突拍子のない行動は控えてくださいね」


「……善処する」


「まぁ、ライアの場合は巻き込まれているというのもあるんでしょうけど…」


仕分けてもらった素材達をインベントリにしまいながら、ふとアイオーンとマオ達を見比べて女の子なのにアクセサリーの一つも付けていないのは寂しいなと思い、手伝ってくれたお礼も兼ねて黄色い大粒の魔石と台座となる鉱石を残しておく。

神威が何をしているのかと俺を見ているのでアイオーンへのプレゼントだと告げれば、装飾品作成のスキルを使って鉱石を加工する。

魔力を使って鉱石内部の不純物を取り除いてからアイオーンの腕に付けられそうな物を作成する。

少し幅を広めにして鱗のように見えるよう細工を施し、黄色い魔石を小さな小粒の状態に加工して散らすように固定していく。

奪われたりした時に直ぐに分かるように、神威の使っていた武器と防具の形を思い出しながら裏の部分に刻印しておく。


「よし…アイちゃん。腕を貸してくれ」


「装飾品関連も作れるんですか?」


「神殿でスキルを貰えたからな。使わないと損だろ?これで良し…キツくは…なさそうだな」


「他の搭乗者の製作技術より遥かに上に見えるんですけど…今レベルいくつです?」


「ん?装飾品作成は幾つだったかな?マオ達の装飾品を作った時に初めてのセットを作ったからという事でボーナスが入って…今、四だったかな?」


「……一発殴らせて下さい」


「いっ!?」


軽くなのだろうが頭に響くような拳骨を貰い、ラルクには劣るものの攻略組として普段は前線で動いている神威の拳は立派な武器だった。

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